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停滞温床:VII

 翌日。朝も早くから七奈の「びーむ!」という声が晴れた空へと響き渡る。彼女の放つビームにゾンビたちは成す術も無く消えていく。相変わらず七奈の指先からは何も出ている様子は無いけど、私の見えない壁と同じように、きっと見えない何かが出ているのだろう。私はビームを放ちながらどんどん進んでいく七奈の後ろを一応の警戒をしながら着いていく。やがて、無事ゾンビに襲われることも無く目的地に辿り着く。

「楽來、ここ?」

「うん」

 私が宿泊していた旅館。中にもゾンビたちがいるので、七奈にビームを使ってもらいながら、宿泊していた部屋へと辿り着く。私は何日かぶりに、自分の荷物を取り戻す事ができた。けど……

「んー、結局いなかったね」

「うん」

 そう、学校のみんなの姿は何処にも無かった。もしゾンビになっていたのなら七奈に消してもらいたかったんだけど。

 ゾンビは生前の生活通りに行動している。それならきっと彼らは帰ったのかもしれない。だってもう修学旅行は終わっているのだから。

「んーゾンビもいなくなったしきれいさっぱり―」

 旅館を出ると、七奈が伸びをしながら空を見上げる。その表情は明るい。あれだけビームを撃っても疲れ一つ見せていない。彼女曰く、ビームを撃っても疲れたりはしないらしい。普通、こういう力を使うと何かしらのリスクがありそうなものだけれど。けど言われてみれば私の力も、今の所は特に問題が起きていない。ならそういうものなのだろう。そう割り切った方が気が楽だし。

 でも、七奈がそんな便利な力を隠していたなんて。もっと早く言ってくれれば私も今後について考えられたのに。なんてたらればを考えてしまったが、言及まではしなかった。力を隠していたのは私も一緒だし。

「さて、これからどうしよっかー」

 私があれこれ考えていると、七奈が誰に問いかける訳でもなくこれからについてを問う。

「これから……か」

 これからどうするべきか。私は旅行鞄の持ち手をぎゅっと握る。これからどうするかはもう決まっている。けど、敢えて七奈に尋ねる。

「七奈はどうしたい?」

 それは今まで聞けなかった事。聞いてしまえば終わってしまうと思って封じていた事。

「私?んー」

 七奈は腕組みをして小さく唸りながら小首を傾げる。やがてぽつりと話し出す。

「私は……楽來と一緒にいたい……かな」

「うん」

 七奈がそう思ってくれるのは私にとっても嬉しい事だ。私も七奈と一緒にいたい。彼女といると、こんなどうしようもなくなってしまった世界でも、きっと楽しく生きていけると思うから。

「だから……一緒に来てくれる?」

 七奈が控えめに提案してくる。私よりも背の高い彼女が上目遣いでこちらを見つめてくる姿はとても可愛くて、自然と体温が上がっていくのが分かる。

「そうだなぁ」

 私は火照った顔を隠すように空を見上げる。海側から流れてくる風が吹いても尚、熱は引いてくれないけれど。

「私も七奈と一緒に海の向こう側に行ってみたいかも」

 だから、今思っている事を素直に口にする。照れくさくて七奈の顔は見れそうにないから。

「うん、一緒に行こうね!」

 七奈が手を握ってくる。温かな温もりは私の気持ちを落ち着かせる。そうして笑顔の七奈と歩き出す。止まっていた時の針を動かすかのように。


「ね、やっぱり二人用の寝袋にしない?」

 旅館からの帰り道の途中、ホームセンターで旅の支度を整えている時に七奈が提案してくる。

「え、一人用の方が良いんじゃない?」

 一人用だったらそれぞれが持てるし、狭いスペースでも広げる事ができる。利便性で行ったら一人用一択だと思うけど。

「えー、そしたら一緒に寝れないよ?」

 けど、そんなことお構いなしで七奈がとんでもない事を言いだす。

「い、一緒にって……これからずっと?」

「うん、ずっと」

 ずっと一緒に同い年の女の子と同じ寝袋に入って寝る。それってありなの?

「えーっと、七奈は私と一緒に寝たいの?」

 ありかなしか正直分からなくて七奈に問う。言ってから何て事を聞いているんだって思う。

「うん。楽來は嫌?」

 そんな私の妙な問いに小さく小首を傾げて上目遣いで訴えてくる。そ、それは反則じゃない?

「い、嫌じゃないけど……そもそも一緒に寝る理由ってあるの?」

 思わず面舵に流されそうになった理性を何とか取舵に切り直す。そうだ。ちゃんとした理由がないと。

「理由?んー、私が楽來と一緒に寝たいからじゃ駄目?」

 けど、大時化は私に舵取りの主導権を握らせてはくれなかった。

「だ、駄目……じゃない」

「ほんと?やったー!」

 完全敗北した私の理性と大喜びの七奈。まぁでもそんなに喜んでくれるならいいか、なんて敗北感を紛らわせるために下手な良い訳なんかしてみたり。

 何はともあれ、旅に出るための準備も整い、私たちは例の橋の前まで来ていた。後は一歩、足を踏み出すだけ。

 正直、ここから離れるのは今でも怖い。もしこの橋の向こうに絶望しか待っていなかったら……そう考えると足が震える。けど……

「それじゃあ行こっか、楽來」

 七奈がまるで今から遊びに行こうといった感じの明るさで微笑みかけてくる。

「うん」

 私は答えてから七奈の手を握る。「えへへへー」とはにかむ彼女を見て思う。そう、例え絶望しか残っていないとしても、七奈と一緒なら大丈夫だと。

「七奈」

「ん?」

「えっと……これからもよろしくね」

「うんっ、こちらこそよろしくだよー!」

 そうして私たちは歩み出す。繋いだ手の温もりだけを道しるべにして。

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