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公道指向:III

「楽來ー、荷物片づけ終わったよー」

 朝食後、荷物をまとめてくれていた七奈が私に呼びかける。

「あ、うんありがとう」

 私もちょうどテントを畳み終え、専用の袋に収納する。その様子を例の少女にじっと見つめられたまま。

 食事の後、少女は再び私をじっと見つめだした。私がしている行動を真似ることも無くなり、唯々私を見ている。

 テントの入った袋を手にしたまま、私も少女を見つめる。心なしか最初の頃よりも距離が近くなっている気がする。

「よーし、それじゃあ行こっか」

 私が少女を見つめ合っていると、七奈が荷造りした鞄を背負いながら出発の合図を出す。

 先程の朝食時、今後どうするかについて話し合って、この地を離れる事にした。

 結局この辺りに生存者は無く、ここ数日間は徒労に終わったわけだが、そもそも私たちの目的はそこには無い。

 七奈の故郷に行く、或いは彼女にとっては実家に帰る事。その為に私たちは動き出したのだから。

「うん、まずはこの国道を目指そうか」

 私も七奈が荷造りしてくれた鞄を背負い、地図を見ながら今後の行動方針を話す。

 私たちの向かう国道は、内海に沿って北へと延びている。幹線道路なので、要所要所にコンビニなどの商業施設があるのもありがたいポイントだ。

 これからどうするかは決まった。残った問題といえば……

「あの子、ついてくるかなぁ?」

「分からないけど、多分ね」

 私たちは少女を見る。一応着替えと靴も履かせている。もし付いて来るなら一緒に行けるようにと。

 相変わらずの無表情で私を見つめる少女。この子が乃々ではないと分かっていても、やはり心がざわつく。

「とりあえず移動してみましょう」

 七奈に心の動揺を悟られぬように、小さく息を吐いてから振り向く。「おー!」なんて言いながら七奈が右手を高々と天に突き立てる。その拳の先に見えるのは薄暗く分厚い灰色のカーテン。とても出発日和とは思えないけど、それでも私たちは歩きだす。

 小学校の校門を抜けてから、改めて後ろを振り向く。果たしてそこには少女の姿があった。

「おー、ちゃんとついてきてるねー」

「うん」

 とりあえずは、この少女を置き去りにする選択肢は無くなった。それが良い事なのかどうかはまだ分からないけど、それでも少女が自分の意思でついてきてくれたことに一安心する。

 私たちは一路、北を目指す。線路を超え、道なりに進めば国道に行き当たる。時折後ろを振り向いて少女の所在も確認しつつ北上する。

 国道に出て左折する。後はひたすら道なりに北上するだけだ。

 道には自動車が放置されていたり横転していたりしている。電柱にぶつかり、前が拉げている乗用車や、建物に突っ込んだまま停止している車の近くは、何かが焼け焦げた匂いと腐った卵の匂いが混ざったような悪臭がして、気分が悪くなる。

 吐気を堪えながらそれらを避け、進む。車の中は見ないように。ゾンビがいないかだけを確認しながら。

 隣を見ると、七奈も顔を顰めている。流石の彼女もこの悪臭に参っている様で無口だ。

 後ろを振り向くと、少女がいる。相変わらず無表情で、この悪臭にも平然としている。

 国道を跨いでいる歩道橋を抜けると、道は緩やかな登りとなる。辺りの景色も田畑が増え、先程の悪臭も若干ましになる。

 更に進んでいくと、辺りの景色が田畑から広い河川敷へと変わる。公園として整備されているらしく、野球ができそうなグラウンドも見られる。そこに……小さな人影が複数点在しているのを見つける。

「野球、しているのかな?」

 七奈の言う通り、小さな人影たちはふらつきながらも思い思いにグラウンド内を走っている。それが生前の行動をなぞっているのだと思うと、いたたまれない気持ちになる。

「多分、ね」

 私は短く返答すると足を止めることなく先へと進む。河川敷はやがて川となり、その先には再び田畑が広がっている。

 この辺りになると、途端にゾンビと遭遇する機会も増える。幸い、七奈のビームは健在で、それらを見事に消し去っていく。

 ふと、後ろを付いて来ている少女にビームを当てたらどうなるのだろうかと考えてしまう。ゾンビの中から出てきた少女。彼女もまたゾンビなのだとしたら……

 私は後ろを振り返る。姉に、乃々に似た少女に対して、不思議とそれを確かめる気は起きなかった。


 出発してどれくらいの時間が経過しただろうか。私たちは時折休憩を入れながら、今日の目的地に設定していた大きなショッピングモールへと辿り着く。

「おー、広いねー」

「うん。それと……」

 私の視線の先、駐車されている車は建物の近くに行くほど増えている。その付近にゾンビたちが屯している。ゾンビたちはそれぞれの車のドアに張り付いたり、ドアノブを引っ張ったりしている。

「楽來、あれって……」

 七奈は何かを言いかけて、それを無理矢理飲み込むように口を紡ぐ。

「うん、そうだね」

 けど、彼女の言葉の続きは分かる。だから私も短く答える。

 何体かのゾンビたちが私たちに気が付く。それらは車から離れて私たちに近づいてくる。

「七奈」

「うん」

 七奈が一歩前へ出る。彼女の口元が動き、何事かを発する。それは私の耳元まで届く事無く霧散していく。彼女は二歩三歩と更に前に出ると、右手を前に掲げてその人差し指をゾンビたちに向ける。

「びーむ!」

 七奈の声と共に、指差されたゾンビが消えていく。彼女はそれが消え去るのを確認する事無く、次のゾンビに向けてビームを放つ。近づいてくるゾンビたちがいなくなるまで、それは延々と続いた。

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