在りし、遠きし記憶より
もうひとつのレジェンズアルセウスの外伝になります〜
それではどぞ♪
緑が微睡む森そう呼ばれるほど静かで、どこか不気味な雰囲気すら漂う庭園を10にも満たない少年がバタバタと騒々しい足音ともに駆けていく。
アルシエル・エディン・ガラル
少年はリンゴのように上気した頬と抑えきれない好奇心とともに庭園の奥へと向かう。
名もなき英雄が眠る湖畔
詩人の唄にも、歴史に紡がれることもない…それを証明するのはその道のずっと先、小さな小さな湖の前に寂しげに立つ石碑に刻まれた文字のみ
息を切らした少年は石碑の前に立つとパチンと自身の頬を叩いた。
「今度こそ!」
石碑の前には、少年の腕ほどもないボロボロの剣が地面に突き刺さっていた。形は剣と似ているが草木を切り裂くような鋭さはとうにない
鉄屑のようなその剣を少年はその小さな手で握り引き抜こうと必死に体捩る。
「ふんぬ〜〜!」
顔を真っ赤にしながらも、地面に刺さった剣が抜けることは無かった。
程なくして握る力を無くした少年は真っ黒になった手を空に広げ地面に寝っ転がった。
「くっそ〜〜‼︎」
そんな言葉とは裏腹に少年は満面の笑みでコロコロと笑った。
木々の間から差し込む優しい光に手を重ねるように少年はぎゅっと手のひらを握った。
そんな彼へとゆっくり近づく一つの影…
金色の鋭い双眸、木々の隙間から差し込む光を受け止めるは空の蒼よりも深い蒼の毛並み、鋼すらいとも容易く切り裂く黒い狼爪を覗かせ少年へとゆっくりと忍びよる。
草木を踏み締める音は少年の笑い声に消される。蒼狼は少年へと狼爪を伸ばすと…
" また来たのですか"
「ザシアン!待っておったぞ!」
少年はうつ伏せになるように蒼狼を見上げた。
" 一人では危ないと何度言えば…"
「一人では無い、共なら連れておる…ヴィヴィアンをな」
少年の首元が膨らむと一匹のポケモンが姿を現した。
" ぶむ〜"
魔女のような帽子を目元まで深く被ったようなハムスターほどの大きさのミブリムがぶるぶると顔を振った。
" ミブリムはまだ戦う術を持っていないのですよ"
「心配するな、もしもの時は余がなんとかしてやる」
" それが心配だと言っているのです"
呆れたようにため息を吐くザシアンに少年は不満そうに頬を膨らませながら
「そんなことより、せっかく余が来てやったのだ存分にもてなすが良いぞ」
むふーっと鼻息を吐くアルシエル。そしてそんな彼の姿を真似するように小さく背伸びするミブリム
" まったく…"
ザシアンは鋭い視線を緩めることなくアルシエルの襟首を咥えると
「うわぁっ!」
勢いよく空へと放り投げた。
放り投げられたアルシエルは怖がるわけでも、宙の中をジタバタと泳ぐわけでも無く…
ザシアンに向けて信頼しきった笑みを向けていた。
そのことにどこか寂しさのような嬉しさのような複雑な感情を抱きながらザシアンはアルシエルを背中で優しく受け止めた。
「ザシアン!今日は海へ遠征に行くぞ!」
" …放り投げられても知りませんよ?"
「ふん!みくびるなよザシアン。余はお前を信頼している…余が落ちそうになったら助けてくれるのだろう」
"……さぁどうでしょう"
「ふん!」
" みぶ〜"
ザシアンの首をぎゅっと後ろから抱きしめたアルシエルがザシアンの表情を覗こうと体勢を変えようとするが、それを阻止するようにザシアンが跳躍する。
「うぉ!」
驚くアルシエルの表情にザシアンはクスリと笑った。