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無意識に溺愛してくる婚約者と愛を知りたくない少女  作者: いか人参


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エトハルトのお節介


生活発表会まで残りわずかとなり、セラフィのクラスでは昨年同様、連日練習と準備に追われる日々が続いていた。


ただ今年は、表彰という表向きの目標よりもカップル誕生という高き裏目標に向けて、皆努力を惜しまず、あらゆる手段を講じていた。


だが、相変わらず勘のいいアザリアに躱されてばかりのマシューであった。




「どうしてここまで避けられるかね…」


さすがのマシューも、アザリアと二人きりで話せないこの状況に辟易としていた。



エトハルトと二人、授業の合間に倉庫へと大道具を運ぶ道すがら、堪えきれず弱音を吐いてしまった。


だが、エトハルトは隣のマシューのことを気にする素振りはなく、彼の弱音は独り言と認定され流されてしまっていた。



「はいはい。自分のことくらい自分でなんとかしますよ…」


いじけるように言ったこの言葉ももちろんエトハルトの耳には届いていなかった。

だが、この日の放課後、マシューはエトハルトが聞き逃していなかったことを知ることとなる。





「本番まであと少しだね。なんだかちょっと…去年とは違う緊張感があるよね。」


「それはそうでしょ?だって貴女は主役だもの。緊張して当然だわ。」


「ははは、そうでした。」


放課後の教室、準備の合間の雑談で思わず本音を漏らしてしまったクルエラに、怪訝そうな顔をしたアザリアがすかさずつっこんできた。


痛いところを突かれたクルエラは、曖昧に笑って誤魔化した。




「アザリア嬢、衣装係の子が君の衣装の手直しをしたいってさっき探してたよ。見つけたら、会議室隣の空き教室に来て欲しいってさ。」


アザリアの元に現れたエトハルトは、それだけ言うとひらひらと手を振って、すぐさまセラフィのところに舞い戻っていった。



「私の衣装…?手直しなんか必要だっかかしら?」


うーんと顎に手を当てて考えるアザリア。



「多分、襟元の意匠じゃないかな?皆で揃えようって言ってたから。」


これはきっとエトハルトが考えた何かの案だと思ったクルエラは、咄嗟に嘘をついた。



「とりあえず、行ってみるわ。待ってたら可哀想だし。」


アザリアは不審に思ったものの、行けばわかると思い、指定された空き教室へと向かった。



教室の前に着くと、磨りガラス越しに中の灯りが見え、誰かがいることが分かった。

無人でなかったことに安堵し、アザリアはドアを開け中へと入った。


今は使われていない教室。

灯りが付いているものの、中に人はいなかった。



「…どういうこと?」


アザリアは教室を見渡した。


机は撤去されており、忘れ去られたように片隅に置かれたベンチしかこの部屋には無い。

備え付けのロッカーが奥の壁際に並ぶだけのがらんとした空間だ。


人がいるような気配はないため、ひとまずクルエラのところに戻ろうとした時、入口の方で音がした。




「おいっ!!」


ーーーバタンッ!!!


聞き覚えのある怒声と、勢いよく閉まるドアの音だ。その組み合わせに、アザリアは嫌な予感しかなかった。



急に現れたよく知る人物を、アザリアはすっと目を細めて睨みつけた。その瞳には侮蔑の色が浮かんでいる。



「………ちょっと待て、誤解だ。俺も被害者だ。」


「白々しいわね。」


「本当だ。こんなこと、頭では何度も考えたが、実際にやるなんて…………いや、嘘、冗談だ。だからそんな目で見ないでくれ…………」


穢れたものを見るかのような目で見てくるアザリアに、マシューはひたすら謝罪の言葉を繰り返した。

そこまでしてようやく、アザリアはマシューの言葉を信じてくれた。



「犯人は私のことをここに呼び出したあの銀髪だと思うけど、動機は何かしら?こんなセラフィと無関係のこと、彼がやるとは到底思えないわ。」


さすがはアザリア、視点が鋭かった。

思い当たる節しかないマシューは、平然を装ったまましれっと話題を変えた。



「とにかく、ここを出ることが先決だが…エトハルトなら下校時間前には…って、おいっ!!」


マシューは、軽く助走を付けてドアに回し蹴りをお見舞いしようとしたアザリアの片腕を掴み、武力行使を妨害した。



「何するのよ!」


せっかく良い技が決まりそうだったのに、とアザリアは腹立たしげに声を上げる。その目は本気だ。



「下校時間まであと1時間もない。次期に解放されるんだから、ことを荒立てる必要はないだろ。」


「それはそうかもしれないけど…」


「せっかくの機会だ。少しの間、お喋りでもしながら待とうか。」


らしくない、にっこりとした笑顔を浮かべたマシュー。


あの無関心な彼が自分のために用意してくれたせっかくの機会、マシューは好機と捉えて開き直ることにした。





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