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無意識に溺愛してくる婚約者と愛を知りたくない少女  作者: いか人参


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作戦会議


エトハルトとランティスの二人を待たせていた会議室に向かったセラフィとクルエラ。


教室のある建物まで一度戻り、教室の前を通り過ぎると廊下の奥突き当たりに、並んでいる会議室のドアが見える。

ドアの前に掛けられた札を確認しながら予約していた部屋の前までやってきた。


すりガラスになっているドアを開こうと手を掛けた時、中から椅子が倒れるような大きな音と続けて何かが床にぶつかる鈍い音が聞こえた。




「えっ……!?」


心配したセラフィが勢いよくドアを開けると、そこには理解できない光景が広がっていた。


床に倒れている椅子に、同じように床にうつ伏せに倒れているランティス、そして彼の上に跨り腕を捻り上げているエトハルト。



「エティ!どうしたの!?」

「ランティス様!!?」


慌てた二人の声が重なった。


セラフィの姿を視認した瞬間、エトハルトはランティスの上から飛び降りて勢いよく彼女の元へと駆け寄ってきた。




「セラフィ!無事で良かった…」


エトハルトはセラフィのことを思い切り抱きしめると、心の底から安心したように息を吐いた。



「おかげで助かった…」


解放されたランティスは床の上に座り直すと、ぐったりしたように息を吐いた。

ひどく疲れた様子の彼を心配したクルエラが隣に寄り添い、ハンカチで埃を払ってあげている。



「本当にびっくりしたんだから…いったい何があったの?」


「それはその…」


エトハルトが目を逸らし、もう一人の当事者から話を聞こうとランティスを見たが、彼にも目を逸らされてしまった。

仕方なくエトハルトが言いにくそうに口を開いた。



「背後から肩を掴まれたからついね、つい…」


「これは、私の弱さにも要因が…」


「「??」」


要領を得ない二人の回答に、セラフィとクルエラは揃って首を傾げた。



先に会議室で待っててと言われたにも関わらず、部屋に入って僅か数秒でセラフィのことが心配だと言い出したエトハルト。


マシューだったら、いつものことかと軽く受け流すのだが、生真面目なランティスはそのくらいで心配し過ぎだと真剣な顔で説教をしてしまった。


そして拗ねたエトハルトがセラフィの元へ行こうとしたところを、ランティスが背後から肩に手をかけてしまい、エトハルトの条件反射によって倒されてしまったのだ。


というわけで互いに格好がつかず、上手く説明できなかったというオチらしい。



「とにかく、ランティス様に怪我が無いようで良かったわ…もちろん、エトハルト様にも。」


ひどく安堵した顔でクルエラが呟くように言った。その手は胸の前で握られており、緊張していたことがよく分かる。



「その…敬称は無くて構わない。」


「はい??」


返ってきた言葉が予想外過ぎて、クルエラは思わず聞き返してしまった。


相手は次期公爵という高貴な立場であり、自分のことなんて気にするようなタイプではないと思っていたため彼の発言が信じられなかった。

そして、彼女の胸の内はすべて顔に現れてしまっていた。



「意外か?様付けで呼ばれてなんとも思わないやつなんてエトハルトくらいだと思うぞ。」


「僕にはエティと呼んでくれるセラフィの声しか聞こえてないからね。」


すかさず応戦してきたエトハルト。

彼のことを知らなければ冗談だと思うような内容だったが、本気だと知っているランティス達は苦笑いをしていた。




「そういえば、セラフィ嬢は何の話をしたかったんだ?」


本来の目的を思い出したランティスが本題に話を戻した。



「えっと、生活発表会のことなんだけどね…」


セラフィは自分の考えが受け入れられるか不安になり、言い淀んだ。


やっぱりやめておこうかな…と臆病な自分が顔を出し始めた。どうしようかなと逡巡していると、手に温かなものが触れた。

エトハルトはいつの間にかセラフィの手を取って握りしめていたのだ。


背中を押してもらったセラフィは、飲み込みそうになった言葉を続けた。




「なるほどな…やってみる価値はありそうだな。」


セラフィの考えを聞いたランティスは、数回頷くと顎に手を添えて考え事を始めた。



「私はすごく良いと思う。やり方は…少し考えないといけないけど…私も協力したい。」


「僕はセラフィの望むことならなんだって賛成だよ。もちろん、今回のこともね。マシューとアザリア嬢に気取られないように、策を講じようか。僕こういうのは得意だよ。」


「…みんな、ありがとう。」


ホッとして脱力したセラフィの背中に手を添えてエトハルトが支えた。



人に自分の考えを伝えることは勇気がいる。そしてそれが他者を巻き込むことになるのなら、その恐れは一層増す。


それでもセラフィは言葉にした。


自分が助けてもらったように、自分もアザリアとマシューのきっかけになりたいと思ったから。そして何より、いつも一緒にいてくれるエトハルト達のことを信頼していたから。


セラフィはまたひとつ、自分の中に自信を感じられるものが増えたように思った。




「それでは、まず明日の演目決めの時の流れを考えておこうか。」


こうして、ランティスの仕切りによってセラフィが考えた作戦の実現に向けた話し合いが始まった。





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