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無意識に溺愛してくる婚約者と愛を知りたくない少女  作者: いか人参


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吹っ切れたセラフィ


セラフィは悩んでいた。


生活発表会のことで上手い案が思いつかず、昨日家に帰ってからもずっと頭を悩ませていたセラフィ。

本当は昨日クルエラに相談に乗ってもらうはずが、彼女の話を聞いていたら下校時間となってしまい話すことができなかった。



今はランチタイム、皆食事を楽しんでいる最中だというのに、彼女の手は止まったままだ。

だが、なぜか口は動きもぐもぐと咀嚼を繰り返している。


彼女の心ここに在らずの状態に付け込んだエトハルトが嬉々として彼女に食事を運んでいるせいであった。

一口サイズに切り分けた自分のハンバーグをセラフィの口元に運ぶ。彼女は何も考えずに差し出されたフォークを口に含むと咀嚼を重ねた。




エトハルトの振る舞いにキレたアザリアが手刀をお見舞いしてやろうと立ち上がり掛けたが、制服が汚れるからとマシューに腕を引っ張られて制止されてしまった。


アザリアは、手が出せない代わりに口を出すことにしたが、彼女よりも先に口を出してきた者がいた。




「エトハルト、こんな公衆の面前でいったい何をやっている。まったく…君は恥ずかしくないのか。」


たまたまセラフィ達の席の近くを通りかかったランティスが眉間に皺を寄せながら声を掛けてきた。



「え?」


突然後ろから聞こえてきたランティスの声に、セラフィはようやく意識を取り戻した。思考の沼から抜けると、今置かれている状況が飲み込めず目をぱちくりさせている。



後ろから聞こえた少し怒っているランティスの声、ハンバーグを刺したフォークを自分の方に向けているエトハルト、まったく減っていない自分の皿、そして口の中に広がるハンバーグの香り、状況証拠は十分であった。



「なっ………」


エトハルトに手ずから食べさせてもらっていたことを理解したセラフィは耳まで真っ赤にして机に突っ伏した。

隣のアザリアがよしよしと頭を撫でて慰めている。



「愛する相手と心を通わせて何が悪い?君にはそれが恥ずかしいのかい?これは僕の愛ゆえの行動で、何にひとつ悪いとは思っていないよ。愛するセラフィに僕の手で食事を運んで、彼女がそれを口にして美味しさに顔を綻ばせて、そんな彼女が僕は、」


「おい、もうそれくらいでやめとけ。これ以上はセラフィ嬢があまりに不憫だ。」


耐え切れずマシューが止めに入った。

セラフィは机に突っ伏して顔を隠したまま、何度も首を縦に振っていた。



「…まぁいいが。学園内ではほどほどにしておくように。」


片付けようとしていたトレーを手にしていたランティスは、この場から去ろうと後ろを向いた。



「ランティス君!」


セラフィが突如呼び止めてきた。


初めて彼の名を呼んだセラフィ。あまり見せない彼女の必死さに、ランティスはすぐにまた振り返った。



「あの、生活発表会のことでちょっと話があって…放課後いいかな…?」


「ああ、もちろん。…って、エトハルトはなんでそんなに睨んでくる…君も一緒に来るだろ?」


「あ、もちろん、エティも一緒に!あでも、マシューとアザリアの二人はダメ。今日はちょっとその…学級委員だけで話がしたいから!」


明らかに何か隠そうとしているセラフィだったが、マシューもアザリアも何も聞くことはなかった。

彼女の気持ちを尊重してひとまず静観することにした。




***




その日の放課後、ランティスとエトハルトに時間をもらったセラフィはひとり図書室へと向かっていた。


クルエラに声をかけるためだ。


今回の相談は元々彼女にしようと思っていたため、クルエラにも混ざってもらうことにしたのだ。だが、授業が終わるとすぐ彼女は図書室へと向かってしまい、声を掛け損ねたセラフィはその後を追っていた。



目立たない程度の早歩きで廊下を歩いていたセラフィ。


そんな彼女に、ちらちらと視線がぶつかってくる。エトハルト達といる時は全くなかったのだが、1人でいると未だに悪意のある視線に晒される。



「あれってシブースト家の…」

「どうしてまだ学園にいるのかしら?留学されたんじゃないの?」

「きっと、エトハルト様の気を引きたくて嘘をついたのよ。」

「まぁ、それではソフィリア様があんまりですわ。」



聞かないようにしてるのに、聞こえるように言ってくる陰口の数々。


どうして関係のない人達にいつまでも言われないといけないのか…そんなに私は悪いことをしたんだろうか…何か迷惑を掛けたんだろうか…


いや、してないはず。

だってこの人達と接点なんてないもの。


だからきっと、何も気にしなくて良いんだ。

この人達は言いたいだけなんだ。


何でもっと早く気づかなかったんだろう。

こんなの耐えなくて良かったんだ。

抗うことすらしなくて良かったんだ。




「ふふふ」


思わず笑ってしまったセラフィ。


陰口を叩かれても自然に微笑んでいる彼女を目の当たりにした周囲は一斉に口をつぐんだ。


あどけなく微笑む彼女を見たら、自分たちはとんでもなくひどいことをしているような、そんな気持ちになってしまったのだ。




「セラフィ?こんなところで何して…って、なんだかずいぶんと嬉しそうだけど…どうしたの?」


セラフィは、図書室から戻ってきたクルエラと出会した。

廊下のど真ん中で微笑んでいるセラフィを見つけたクルエラは、不思議そうな顔で覗き込んできた。



「ううん、何でもない。あ、クルエラにお願いがあって、今からちよっと来てもらえないかな?少し相談したくて…」


「なんだか変なセラフィ。でもいっか、なんだか楽しそうだから。もちろん、いいよ。」


セラフィに釣られて笑ったクルエラ。そんな彼女を見たセラフィも一緒に笑っていた。





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