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無意識に溺愛してくる婚約者と愛を知りたくない少女  作者: いか人参


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負の連鎖



5人で案出しを続けた結果、既出のものに加えて、剣舞、演舞、ドレスの製作、巨大壁画、曲制作などが挙がった。

だが、どれもクラス全員で行うには人手が余るものばかりであった。



うーん…と皆が頭を悩ませる中、不意にセラフィが口を開いた。



「複数を掛け合わせるのはどうかな…?」


セラフィの言葉に、ランティスとマシューの二人が目を瞬かせた。



「セラフィさん!それどういうイメージか詳しく教えてもらえるか?」


「確かに、一つだけである必要はないし、各人が得意なものを持ち寄るってのもアリかも…」


「ええと、例えば、演奏で場を盛り上げて、その中を自主制作したドレスを着た人が歩く、とか。その合間に、剣舞や舞踊を披露しても面白いかも…」


食いつきの良い二人に、セラフィは控え目に自分の考えを話した。

彼女の話を聞いた彼らは、うんうんと頷き、乗り気になっているようであった。


そんな中、エトハルトは自分の考えを懸命に話そうしているセラフィのことを見つめ、アザリアは、呑気に目の前にある菓子を摘んでいた。




「よし、では早速、明日のホームルームで皆に提案してみよう。」


ようやく見えてきた先に、ランティスは張り切った声を出した。




「セラフィ、貴女裏方に回ろうとしてるんじゃない?」

「え…………」


アザリアは菓子を口に放り込みながら何気ない表情で尋ねてきた。彼女にはセラフィの魂胆がバレていたのだ。


複数を組み合わせるとなると、全体を取り仕切る役割が必要となる。セラフィは自分が表舞台に立たなくて済むように、その役を狙って今回の件を提案していたのだ。



「じゃあ僕も…」


すぐさまセラフィと同じ役を狙おうとするエトハルト。

だが、ランティスとマシューの二人が見逃すはずがなかった。



「「ダメだ。」」


二人から同時に睨まれたエトハルトは、大袈裟に首をすくめた。だが、その顔に悪びれた様子は少しも見当たらない。



「お前は何でも出来るんだから、裏方になんか回すか。」

「マシューの言う通りだな。万能な君には相応しい役を用意してやろう。」


容赦のない二人に、エトハルトは子犬のような瞳でセラフィに助けを求めたが、彼のように出来ることのないセラフィは、曖昧に笑って返した。自分の位置を取られるわけにはいかない。


期待と異なる彼女の反応に、エトハルトはがくっと頭を下げて意気消沈していた。





翌日のホームルーム、昨日話した案について、ランティスがクラスメイトに説明をした。


個人の得意なことを掛け合わせてひとつの演目とすること、そのために個人の得意なことを把握したいこと、その2点を伝えると、クラスメイトが一斉にざわつき始めた。


だが、前回の新入生研修の時とは違い、各々自分に何が出来るかな、お前はこれが得意じゃん等と前向きに考えている声ばかりであった。



そんな前向きな空気に包まれる中、セラフィだけはこの状況に違和感を覚えていた。



こういう時、必ずと言って良いほど横槍が入るのに…


セラフィはなんとなくキャサリンの方を見た。

いつもの彼女ならなにかしら自分に対して嫌味を言ってくると思ったからだ。

だが彼女は頬杖を付いて窓の外を無表情に見つめていた。その大人しい姿は別人のようであった。


何も言われないことは良いことであるはずなのに、セラフィにはなぜかそれが気になって仕方なかった。




「では、うちのクラスはこの方針でいく。皆は、次の話し合いの時までに自分の得意なことを考えといてくれ。あと、セラフィさんが全体の構成を考案してくれるから、何かアイディアがあれば彼女に伝えるように頼む。」


「え」


思わぬ不意打ちにセラフィの口から間抜けな声が漏れ出た。

クラスメイトには聞かれなかったものの、隣にいたエトハルトにはばっちり聞こえており、小さく吹き出されていた。



せっかく目立たずにいけると思ったのに…



今度は味方と思っていた彼から名指しされ、セラフィは肩を落とした。

名前を出さずに、裏方として実務だけやるつもりが、最初から名を明かされてしまったことは想定外であった。


だが、想定外のことはこれだけに留まらなかった。

ホームルーム終了後、次の移動教室に向かおうとしていたセラフィに、他のクラスメイト達が次々と声を掛けてきたのだ。



「構成を考えるなんて、セラフィさんすごいわね。」

「セラフィ嬢、期待してるよ。」

「私の得意なことが今回の件に使えるか分からなくて、今度相談させてほしいわ。」


賞賛と期待と相談と、理由は様々であったが、皆セラフィに対して好意的であることには変わらなかった。

こんな風に声を掛けてもらったことのない彼女は、「え」「あ、うん」くらいしか返すことが出来なかった。



一体自分の周りで何が起こってるんだろう…



身に覚えのない変化に、何か裏があるのではないかとセラフィは感じ始めていた。




『キャサリンって、あのエトハルト様に喧嘩を売ったんですってね。』

『ええ、聞きましたわ。あんなに仲の良い二人の間に割り込もうだなんて、思い上がりも良いことですわね。』


偶然聞こえてしまった、クラスメイトの話し声。

セラフィは、ああそういうことだったのかと納得した。


今度は彼女の番になってしまったのだと。


セラフィにも前世の時に経験があった。

いつだって誰かを標的にしていないと成り立たない狭い世界。自分がその役から解放される時、必ず他の誰かが引き継ぐ。


自分と同じ想いをさせたくないと抵抗したところでまたその役が自分に回ってくるだけ。だから解放された人が次の人のことを助けることはない。


標的にされたくない気持ちは周囲も同じ。

同調しなければ、異議を唱えてしまえば、途端に標的とみなされてしまう。そんなことを自ら望む者などいるはずがない。


だから、標的にされないように周りに同調して、もし標的になっても解放された瞬間に同調する側に回る。その繰り返しだ。



「…いやだな。」


セラフィは独り言のように呟いた。



正直、キャサリンのことを可哀想とか助けたいとかそこまでは思えないけれど、でも、このクラスで繰り返されるのはいやだ。


連鎖を断ち切るだなんて偉そうなことは言えないし出来ないけれど、でももし、今の自分に何か出来ることがあるのであれば、それはやらないといけないと思う。


いつも助けてもらう側じゃダメだ。

私にだって何か出来るはず。




「セラフィ、そろそろ行かないと、授業に遅れちゃう。」


机に座り、教科書を抱えたままぼうっとしているセラフィに、クルエラが声を掛けてきた。



あ、もしかして彼女なら…



「ねぇ、クルエラ。放課後少し時間あるかな?」


セラフィは思考すると同時に言葉に出していた。上手くいくという確証は無かったが、今の彼女は行動に移さずにはいられなかった。





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