お茶会のお誘い
翌日昼休み、セラフィ達はいつものように4人で食堂へと向かっていた。
アザリアは隣を歩くセラフィの様子を窺っていた。その横顔は、いつもと変わらないように見える。
彼女は何気なさを装って昨日のことをセラフィに尋ねてみた。
「そう言えば、昨日のクルエラとの話って何だったの?何か相談事とか?」
何の話か予想がついているくせに、アザリアはワザととぼけて聞いた。
前を歩く二人もさりげなく彼女達の会話に聞き耳を立てている。
アザリアに問われて昨日のことを思い出したセラフィは、少し照れたように横に流している長い前髪を手で弄った。
「クルエラさん、夏季休暇にお茶会を開くことにしたんだって。それでね、良かったら来ないかって誘われたんだ。自分のことなんて誰も誘ってくれないと思ってたから、少し嬉しくて…」
アザリアはため息を堪えた。
回答は予想通りであった。
そして、もしそうであればセラフィに止めるように言おうと決めていたのに、彼女の顔を見たら言えなくなった。喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
クラスメイトの話を心から嬉しそうな顔でするセラフィに、余計なことは言えなくなってしまった。
だが、そんなことをまるで気にしない人物が約一名この中にいた。
「ねぇ、それ僕も参加出来ないかな?」
前を歩いていたエトハルトが急に足を止めて後ろを振り返り、セラフィ達の会話に混ざってきた。
その反応速度の速さに、隣にいたマシューは呆れ顔をしている。
「ええと…クルエラさんの開くお茶会は女子に限定したいんだって。だからその…」
セラフィは申し訳なさそうな顔でエトハルトのことを見上げた。
そんな瞳に見つめられては、さすがのエトハルトも言葉に詰まり、これ以上彼女を困らせることは出来なかった。
「…分かったよ。仕方ないな。今回はクルエラ嬢に譲るよ。」
「ありがとう、エティ。」
「ああでも、一応日時と場所は把握しておきたいから招待状が届いたら僕にも見せてくれる?」
「うん、分かった。」
アザリアとマシューの二人はほぼ同時に、似たような表情でエトハルトの顔を見た。
彼は二人の視線など気にせず、上機嫌で微笑んでいる。
「え、あれって絶対…」
「…間違いないな。」
エトハルトの魂胆を察した二人は、また何とも言えない顔で視線を交わしていた。
いつもの窓際のソファー席で4人がランチを取っていると、珍しくランティスが声を掛けてきた。
「食事中に悪いな。夏季休暇の課題の件、私の家でお茶会を開くことになったんだ。」
「「「「そうなんだ。」」」」
4人の声が見事に被った。
アザリアの視線は目の前のステーキに、マシューはかぶりついたハンバーガーに、エトハルトはもちろんセラフィに向いたままである。
セラフィだけは、テーブルのそばに立つランティスの顔を見ていた。
「…君たちは相変わらず自由だな。セラフィさん、良かったらうちのお茶会に参加しないか?」
「どういうつもり?」
先ほどまで見向きもしてなかったエトハルトは、急に立ち上がるとランティスに向き合った。
その声は低く、一気に機嫌が悪くなったことが窺い知れる。
「特に他意はないが、いずれ侯爵夫人になるのら、今のうちから規模の大きいお茶会に慣れた方がいいと思って声を掛けただけだ。セラフィさん、ああいう場にはまだ慣れてないだろ?クラスメイトのほとんどが参加してくれるらしく、それなりの規模になるから丁度良いかと思ってな。」
「別に侯爵夫人になったからと言って、セラフィのことを無理に社交の場に出そうなんて思っていない。余計なことを言わないでもらえる?」
エトハルトはイライラしていることを隠さず、感情を言葉に乗せて言った。
あからさまに棘のある言い方をする彼のことを、マシューは驚いた顔で見ていた。
こんな風に、自分の負の感情を他人に向けるエトハルトの姿を見たことはない。
セラフィと出会って、彼は本当に変わったのだなとしみじみと感じていた。
アザリアは珍しいわねと眺めており、セラフィは、軽く目を伏せ考えていた。
ああそうか、前の公爵家のお茶会で、彼はきっと逃げ去る自分のことを見てたんだ…
だから気を遣ってくれたのかな。
エティとの婚約は仮初でいつかは解消されるものだけど、彼の婚約者という立場にいる今、私のせいで彼の評判を落としたくはない。
それに、今は一人じゃない。
みんながいる。
だから私は、もう少し頑張ってみたほうが良いのかも…いつまでも周囲に庇ってもらうわけにはいかない…
いつかは1人で生きていかないといけないから。
「エティ、私行きたい。」
「えっ??」
きっとセラフィは困っている、そう決めつけて盾になろうとしていたエトハルト。
だが、彼女の発した声は揺るぎなく、真っ直ぐな瞳で自分のことを見ていた。
そんなセラフィの姿に、思わず驚いてしまった。
彼女は変わろうとしている。その変化は喜ばしいことであるはずなのに、少しだけそれを寂しいと感じてしまった。
「あ…でも、エティにも一緒に来て欲しい、かも…一人で大勢のところに行くのはまだちょっと…」
先ほどまでの強く真っ直ぐなセラフィはどこへやら、途端に不安げで自信のないいつもの彼女へと戻ってしまった。
そんな彼女とは対照的に、頼られることが嬉しくてつい、笑みが溢れてしまったエトハルト。
「もちろん、君が望むのなら一緒に行こう。」
エトハルトは、先ほどまでの殺伐とした空気とは打って変わって、一気に穏やかないつもの雰囲気となっていた。
「よし、決まりだな。マシューとアザリアさんも来るだろ?」
ランティスは当たり前のように言ってきた。
「私、皆の嫌われ者よ?私なんか呼んだら公爵家の評判に触るわ。」
「ふふ、私の家はそんな些細なことは気にしない。常にこの貴族社会の頂点にいるのだから。」
「…その言い方は私の気に触るけど。じゃあ、参加するわよ。」
文句を言いながらもセラフィのことが心配だったアザリアは参加することにした。彼女のそばにいられることはありがたかった。
そして、その流れで向かいの席に座るマシューのことを見ると目で尋ねた。
『貴方も来るわよね?』
「…分かったよ。俺も行くよ。」
マシューは諦めたように言った。
ランティスに面倒な女子達を押し付けられると思っていたマシューは、本当は行きたくなかったが、アザリアの圧に負けた。
「ありがとう。ではまた詳しいことは招待状で。邪魔したな。」
ランティスは軽く片手を挙げると、足取り軽く去って行った。




