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無意識に溺愛してくる婚約者と愛を知りたくない少女  作者: いか人参


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エトハルトとランティスの配慮


放課後、他のクラスメイトは誰もいない教室で、セラフィはエトハルトとランティスの二人に向かって頭を下げていた。



「二人ともごめんなさい!私がやりたいって言ったことなのに、皆の反感を買うような真似をしてしまって…」

    

朝の光景を思い出してしまったセラフィの声は微かに震えていた。

いきなり謝り出したセラフィに困惑しつつも、エトハルトは彼女の肩に手を置き、顔を覗き込んだ。



「セラフィが謝ることは何一つない。僕も料理なんてしたことないし、君もそうだろう?ランティス。」


「…ああ。あれは嘘だ。」


「え??」


思わぬ発言に、セラフィは驚いて勢いよく顔を上げた。生真面目なランティスが嘘をつくなど信じられないと思ったからだ。



「公爵家の跡取り息子に料理なんてさせるわけないからね。僕は出来ると思うしか言ってないし。だから、あの場で素直に振る舞ったセラフィは賞賛されて然るべきなんだよ。僕らみたいに見栄を張らずにいられたんだから。」


エトハルトの発言に同意を示すようにランティスも何度か頷いた。



「それはその通りだな。私たちみたいな人間はすぐに取り繕うが、素直でいられることの方が良いに決まっている。」


「そうそう。だから、セラフィは今回のこと気にしないでね。」


「二人とも…ありがとう。」


自分のために大袈裟に庇ってくれる二人に、セラフィは目頭が熱くなった。



いつまでも二人に頼りっぱなしじゃいられない。私もちゃんと自分の役割を果たさないと、いつか見放されてしまうかもしれない…優しい人たちに甘えてばかりで、その挙句期待を裏切るような真似なんて絶対にしたくない。

ちゃんと、しっかりしないと…


新入生研修までまだ日はある。


自分に出来ることを考えて、ちゃんと役に立つ人間になろう。




***




あっという間に新入生研修の日となった。

今日は学園は休みのため、私服で登園することになっている。


セラフィは、手持ちの派手なドレスの中でも一番目立たないものを選んだ。

いつもは下ろしている髪も、料理をすることを考えてポニーテールにしてもらい、結び目にリボンを付けてもらった。



え、なんか気合い入ってるように見える…??



不安になったセラフィは、鏡の前で何度も自身の姿を確認した。

やっぱり自分らしくなくて恥ずかしいからリボンを取ってしまおうか、そう思った時、エトハルトの到着の知らせがきた。


セラフィは諦めて、今の格好のまま階段を降りていった。



玄関には、私服姿のエトハルトがいた。

パンツにシャツというシンプルな姿だったが、いつものブレザーの制服姿よりも大人びて見えた。



「おはよう、セラフィ。その服とてもよく似合ってる。」


エトハルトは、シルバーの瞳を細めて嬉しそうに微笑んだ。

相変わらず眩しい彼の微笑みに、セラフィは照れて横を向いた。



「お、おはよう、エティ。」


彼女がそっぽを向いた時、エトハルトの目に彼女の髪を留めているリボンが目に入った。



「え、その髪…」


「あ、料理をするから今日は縛ってもらったの。変…だったかな…」


「…いや、そんなことはない。すごく、よく似合っている。本当に素敵だ。」


「あ、ありがと…」


いつにも増して真摯なシルバーの瞳に見つめられ、セラフィは思わずドキドキしてしまった。

エトハルトにそんな気はなくお世辞だと分かっていても、見た目の良い彼に言われると緊張してしまう。


一方、エトハルトは、セラフィの髪を結んでいるシルバーのリボンに意識を持っていかれていた。





学園に着いた二人は、宿泊棟へと向かった。

この前に集合して、班ごとに点呼を取ることになっている。



「よし、うちの班は全員いるな。」

「なんで君も一緒なの…」


ランティスの仕切りに、エトハルトがげんなりとした声を出した。


セラフィ達は四人で班を組もうとしたが、それだと人数配分がうまくいかないため、気を使ったランティスが加わることになったのだ。


エトハルトはあからさまに嫌そうな顔をしている。



「セラフィ、そのリボンって…」


「え?やっぱりこの髪型変だったかな??」


「ううん、とてもよく似合ってるわ。」


アザリアは、当たり前のようにエトハルトの色を纏っているセラフィにげんなりとした顔をしていた。



「まあまあ、せっかく一緒の班になったんだから、みんなで協力して一番美味いもの作ってやろうぜ!」


「それもそうね。」


「うん、よろしく。」


「ああ、よろしく。」


「うん、気合い入れて足を引っ張らないように頑張る。」


一人だけやけに本気の返事をしたセラフィ。

そんな彼女を見て、他の4人は空回りしないかなと心配そうな目を向けていた。




点呼が終わった班から中に入り、部屋に荷物を置いていった。


昼は、持参した弁当を外で食べることになっている。これは、ランティスの提案だ。

席を決めずに芝の上に自由に座ることで、普段話さない人とも関われるだろうという狙いらしい。




セラフィとアザリア達の部屋は二階だ。


エトハルト達と一度別れて自分達の部屋に行って荷解きを行った後、持参した弁当を持ってまた外に出た。

今日は春らしい気候で風も強くなく、ピクニック日和だ。



芝生には既にほとんどのクラスメイトが並んで座っており、楽しそうに談笑していた。とても仲の良さそうな雰囲気が出ている。


その光景を見た二人は顔を見合わせた。



「あれはちょっと混ざりにくいわね…」

「さすがにそうだね…」


二人の視線の先には、四方八方を女子達に囲まれたエトハルト達の姿があった。


元から高貴な身分とそのルックスで女子人気の高い彼らだったが、今回はセラフィへの当てつけも含まれているようだった。

女子生徒の中には、わざとらしくセラフィ達の方を見てくる者もいる。



「この辺でいっか。」

「そうね、とりあえずお昼にしましょう。」


セラフィは、女子達に囲まれているエトハルトの姿を横目に、モヤモヤした気持ちを抱えたままサンドイッチに齧り付いた。




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