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出会い


15歳を迎えたこの日、セラフィ・シブーストはカーネル公爵家で開かれるお茶会に参加するため自室で準備をしていた。


母親が勝手に選んだ強い色彩のドレスに身を包み、せめてもと思い侍女に薄い化粧を施してもらったが、返ってバランスが悪く、鏡に映るセラフィの表情は暗い。

美しい金髪と宝石のように輝くエメラルドグリーンの瞳を持つ綺麗な顔立ちのセラフィには似合っているはずなのだが、自己肯定感の低い彼女の目には見劣りしているようにしか見えなかった。


小さくため息を吐いた。




「まぁ、セラフィ!なんですの、その地味な顔は。せっかくの美しい装いが台無しですわ。」


まだ昼前だというのに、胸元が大きく開いた煌びやかなドレスを纏い真っ赤な紅を引いたエリザベスがセラフィの部屋にやってきた。

それは、貴族夫人ではなく、娼婦のような姿であった。

突然の母親の登場に、セラフィはびくっと肩を震わせた。気の強い彼女を前にすると、いつも無意識に身構えてしまう。



エリザベスは侍女から化粧道具を奪うと、勝手にセラフィの唇に紅を足し、目元に色を乗せ、最後に身体全体に香水を振り撒いた。


「これで少しはマシになったかしら。いいこと、今日はあの公爵家の主催なのだから、誰よりも目立ってこないとダメよ。そして、貴女は誰よりもいい男を掴まえてこの国一番の幸せ者になるの。私みたいに変な男に騙されてはダメよ。分かったわね。」


「はい、お母様。」


セラフィは抑揚のない声で返事をした。


物心ついた時から毎日のように繰り返される洗脳に近い母親の言葉。セラフィはいい加減うんざりしていたが、言い返す気力も無かった。


いつの間にか従順なフリをしてその場をやり過ごすことがクセなっていた。




「私の可愛いセラフィ、いってらっしゃい。」


エリザベスはセラフィの頬に軽くキスをすると、満足顔で部屋を出て行った。


今日は娘の誕生日だというのに、それに対して一言もなく、ただ彼女が身分の高い男を掴まえて自分の憂さ晴らしをすることにしか興味がない。



昔はそんな母親の姿に寂しさを感じていたが、今はもう何も感じていなかった。


何も期待せず何も求めず、この家に生まれた娘として最低限の役割をこなす。それがセラフィが自分の心を守るために出来る唯一の抵抗であった。





侍女達に見送られ、1人で馬車に乗ったセラフィは、すぐにハンカチで目元の化粧と口紅を落とした。

匂いのきつい香水も落としたかったが、ハンカチで叩いても匂いは無くならなかった。



「頭痛い…」


匂いにやられたセラフィは、公爵邸に着くまでの僅かな時間、目を閉じて意識を手放した。




ノックの音で目を覚ますと、もう公爵邸敷地内の停車場に着いていた。


御者の手を借りて静かに馬車を降りる。

なるべく目立たないように振る舞ったにも関わらず、彼女が姿を現した瞬間、無数の嫌な視線が突き刺さった。



相変わらずね…



慣れたとはいえ、今回は開催規模が大きく、参加者のほとんどが同世代であるため、セラフィの心的負担が増す。


本当は、周囲の目など気にせず、背筋を伸ばして堂々と歩き、優雅に微笑んで皆に挨拶をして回りたかった。

だが、現実では自分にそんなこと出来るわけがない。震えずこの場に立つだけで精一杯だ。




セラフィは、馬車を降りた瞬間、茶会の会場となる邸とは別方向に急ぎ足で向かった。


いきなりスカートの裾を掴んでその場を去るセラフィの背中に、いくつもの視線が突き刺さったが、一刻も早くこの場から逃げ出したかった彼女は、そんなこと構っていられなかった。




「またやっちゃった…」


人気のない庭園の中心部まで来たセラフィはようやく足を止め、1人後悔の念を呟いた。



彼女がこういった社交の場から逃げ出すことは初めてではなかった。いつも周囲の視線に耐えきれずその場から逃げてしまう。


だが、そんなことがバレればエリザベスに何を言われるか分からない。そのため、会が終わる頃主催者に体調が悪かったと適当な言い訳をして参加しないまま帰ってくることが常であった。


今日も最後に顔だけ出して、それで適当な言い訳をつけて帰ろう。


セラフィはそう決めた。




今日は誕生日だというのに、ひとりでガゼボに身を隠し、只々茶会の終わりを待つ自分に、寂しさを通り越して情けなくなってきた。



「こんなところで一体何やってるんだろう…」


あまりの情けなさに、セラフィは膝に顔を埋め、今にも泣き出しそうな声で呟いた。




その時、近くで足音が聞こえた。


誰もいないと思っていたセラフィは、慌てて目を擦り、姿勢を正して音がした方を振り向いた。すると、そこには同い年くらいの少年が立ってこちらを見ていた。


陽光に照らされ美しく輝く銀髪に、透き通るような色素の薄いグレーの瞳を持つ端正な顔立ちの少年は、セラフィに近づくと、こてんと首を傾げた。



「君、迷子?」


目の前の少年は、心配そうな声音で話しかけてきた。





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