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ホームルーム


「やっちゃった…」


セラフィは慌ててベッドから飛び降ると、急いで朝の用意を始めた。

いつもならもう部屋を出ている時間であり、完全な寝坊である。


今日はホームルームで皆に新入生研修のレクリエーションについて説明する日だ。

そのことを考え過ぎて昨日はなかなか寝付けず、気付いたらこんな時間になっていたのだ。



エトハルトの到着を知らされたセラフィは、朝食も髪のセットも諦め、とりあえず顔を洗って制服に着替えて玄関まで走っていった。



「おはよう、セラフィ。」

「はぁ…はぁ、おは、よう…」


息も絶え絶えに挨拶を返すセラフィに、エトハルトはクスッと微笑んだ。



「ふふ、お寝坊さんかな?とりあえず、馬車に向かおうか。」




馬車に乗ったセラフィは、走ったせいでボサボサになった髪を一生懸命手で梳いている。だが、何度手櫛を通しても中々まとまらない。自分の不器用さに思わずため息が出た。



「隣、いいかな?」

「え?あ、うん。」


エトハルトはセラフィに許可をもらうと、彼女の隣に席を移動した。



「髪、僕が触っても?」

「うん。」


エトハルトは、彼女の髪を手に取ると、丁寧に手ですいていった。

髪が落ち着くと、今度は二つに髪を分けてそれぞれ三つ編みにし、それを合わせてハーフアップにしてまとめ上げた。



「はい、出来上がり。セラフィ、可愛いよ。」

「あ、ありがと。」


普段は顔を隠すように髪の毛を下ろしているが、今はきっちりと後ろに結ばれている。

いつもより視界が良い分なんだか恥ずかしい気もしたが、機嫌の良いエトハルトの顔を見ていると、そんなことは些細なことのように思えた。





「おはよう、セラフィ!あれ、今日の髪型いつもと違うわね。とっても素敵よ!」


教室に入るなり、セラフィの違いに目ざとく気付いたアザリアが彼女の周りくるりと一回転して髪型を褒めちぎっている。



「うん、その…今日寝坊しちゃって…エティが馬車の中で髪を結んでくれたの。」


「は…………………」


恥じらうように笑うセラフィ。

それに対し、アザリアは殺気を含んだ声を発して、勢いよくエトハルトの方を見た。



「セラフィのそれ似合ってるでしょ?僕、手先は結構器用なんだよね。セラフィ、明日もしてあげよっか?違う髪型も出来るよ。」


アザリアのことなど意に介さず、相変わらずエトハルトはにこにことしたままセラフィのことだけを見ている。




「おはよー。あれ、セラフィ嬢、なんかいつもと違う?」

「こらっーー!!それは褒めちゃダメなやつよ!!今すぐ口を閉じなさいっ!!」


相変わらず間の悪いタイミングで教室に入ってくるマシュー。

いきなりアザリアに叱られてしまった。




いつかのように4人でわちゃわちゃしていると、呆れ顔のランティスが近寄って来た。



「お前ら何やってんだ…もうすぐホームルームが始まるぞ。」


彼の声掛けとほぼ同時に鐘がなった。

皆バタバタと席に着き、机の上を整えて授業の準備を始める。



「行くぞ。」


ランティスに連れられ、エトハルトとセラフィの二人も教壇の近くに移動した。痛いくらいに皆の視線が突き刺さる。

セラフィはもうこの時点で吐きそうであった。



「今日は、学級委員である私たちから話があって、この時間を使わせてもらうことになっている。議題は、この前カナリア先生から話のあった新入生研修についてだ。5〜6人1グループで四つの班に分けるため、各自来週までに誰と班を組むか考えておいてほしい。そして、レクリエーションの内容だが、料理にしようと思う。」


ランティスの口から「料理」という言葉が出ると、教室内が一気にざわついた。



「え…料理とか…使用人がやることでしょ。なんでわざわざ私たちが…」

「そんなことして何か意味あるのかな?」

「料理なんてやったことないし、怪我でもしたらどうするのよ。」

「料理をするだなんて、パパに知られたら怒られてしまうわ…」



好ましく思っていない声ばかりだった。

否定的な意見を耳にしたセラフィは、顔を上げられることが出来ず、皆の視線を避けるように俯いた。




「そもそも、学級委員の三人は料理出来るんですか?まさか、やったことのないことを僕たちにやれなんて無責任なこと言いませんよね?」


はっきりと不満を口にしてきたのは、眼鏡をかけた静かそうな見た目の、ビリー・ウエスタントだ。



「ああ、人並みには出来る。」

「僕も、大抵のことは出来るから、心配いらないよ。」


ランティスとエトハルトの二人は即答であった。二人とも、否定的な皆の態度に静かに怒っていたらしい。



「セラフィさんはどうなのかしら?」


キャサリンが意地悪い声で話に混ざって来た。その口元はニヤついている。




「ええと…」



セラフィとしては料理なんてしたことないけど、前世の記憶の中では普通に料理をしていた。


だから、間違いなく出来る。


でも、そんなことどうやって説明したらいいの…それに、出来るって言っといて実際出来なかったらなんて言われるか…

下手なことは言って、後から物凄く責められたらどうしよう…今ここで断言できるほどの自信はない…



俯いて言葉を続けられずにいるセラフィ。


見かねたエトハルトとランティスの二人が口を挟もうとしたが、それよりも先に声を上げた者がいた。



「私、料理出来るわよ。領地にいた頃は毎日のようにしていたわ。だから皆さん、ご安心なさって。」


アザリアはキャサリンとビリーに向かって、はっきりとした口調で堂々と言った。

最後にはクラスメイト全員の顔を見て、にっこりと微笑んだ。


貴族の常識からすると、料理をしていた経験は貧乏だと言っているようなもので、公言することは良しとされない。


だが、アザリアにはそんなことはどうでも良く、目の前で困っている親友を救い出すことが何より大事であった。


アザリアの自信たっぷりな物言いに、キャサリンもビリーも何も言い返すことが出来ずに黙ってしまった。

その沈黙を肯定と捉えたランティスは、まとめにかかった。



「では、来週までに班の申請を頼む。その班の中で部屋割りも決めようと思っているため、早めに班を決めてもらえると助かる。では、今日の話は以上だ。」


ランティスは反論の隙を与えないよう一気に話すと、セラフィに目配せをして一番に下がらせた。これ以上彼女を矢面に立たせるのは心が痛んだのだ。


エトハルトはセラフィを気遣うように、背中に手を添えて彼女の席までついていった。





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