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対面


旅行から帰宅してから三日後、セラフィが母親と対峙する当日となった。


朝からナラの手によって丁寧に髪を梳かれ、セラフィの美しさを際立たせる気品のある化粧を施してもらった。

身に纏うドレスは、エトハルトが拵えてくれた中で最もシンプルな、銀の刺繍入りの薄ピンクのワントーンのデザインのものだ。


姿見に映るその顔には、これまでのような自信のなさや翳りは微塵もなく、目の前の自分から目を逸らさずに真っ直ぐ向き合うことが出来た。


セラフィは、鏡の中の自分に向けてしっかりと頷いた。




「セラフィ様、お変わりになりましたね。とてもよくお似合いです。」


「ありがとう。」


セラフィは俯いて恥ずかしそうに微笑んだ。

今までとは違う、自分でもそう思っていたのに人から肯定されるとどうしても気恥ずかしさが勝る。


そんな中、ナラは何かに反応したかのように視線をパッとドアの方に向けると、セラフィに声を掛けた。



「エトハルト様がいらっしゃったようです。」


セラフィが頷くと、ナラが部屋のドアを開けてエトハルトのことを中に連れて来た。



「エティ、今日は本当にあッ」

「セラフィっ!」


『ありがとう』

開口一番伝えたかった感謝の気持ちは、エトハルトの武力行使という名の力強い抱擁によって阻止されてしまった。



「こんな大事な場面で僕のドレスを着てくれるなんて…僕は本当に幸せだ。その姿をこの目に焼き付けておきたいのに、ああ何故だろう視界が馴染んでいく。セラフィ、何があってもこの僕が隣にいるから、君は何も不安に思うことなど」

「エトハルト様はお留守番です。」

「はぁ?」


セラフィを抱きしめたまま幸せの絶頂とばかりに気持ちを高めるエトハルトに、思い切り水を差したナラ。

先ほどまでの花が飛ぶほどの幸せオーラは霧散し、辺り一帯にはダイヤモンドダストが吹き飛んでいた。



「エトハルト様が感情のままに動かれたらたまったものではありませんから。大人しく待っていて下さい。その代わり、私が責任を持ってこの命と引き換えにしてもセラフィ様のことをお守りいたします。」


「この僕が感情的になるとでも?僕は侯爵家の跡取りだ。私怨で行動しないよう精神統制を仕込まれている。そんな僕が感情的になるなど…」


「では、その腰に控えている短剣は何用ですか?」


「・・・」


エトハルトはジャケットの上から腰に手を添えると、しまったという顔をしている。



「本日は、裏庭にある花畑の隣でお母様とご対面されます。邸一階の廊下からその様子を望むことが出来ますから、エトハルト様はそこにいらっしゃってください。お母様のお顔が邸側を向くように誘導します。こちらでご納得のほど、宜しくお願い致します。」


淡々と伝えてきたナラ。全てはエトハルトのことを黙らせらための計算の上だ。


そんな彼女の言葉に対して、一瞬思案するエトハルト。



あの母親がセラフィに対して何を言うか、それさえ分かれば問題ない、か…

それに、何かあれば窓ガラスを突き破って数秒で相手の喉元に刃を向けられ…



「エトハルト様、邸の損壊はお控え願います。」


「・・・」


主のことを深く理解しているナラは、その心の動きを見透かすかのように釘を刺して来た。


図星だったエトハルトは、セラフィのことをぎゅっと抱きしめて甘えるように彼女の肩に頭をうずめた。

そんな彼の頭を、セラフィは優しくぽんぽんと撫で付ける。



「今の僕はすこぶる機嫌が良いからね。その条件を飲もうじゃないか。」


「感謝申し上げます。」


セラフィによってすっかりご機嫌になったエトハルトは、ナラからの提案に頷いた。


ホッとした彼女は、エトハルトではなくセラフィに向かって御礼を言っていた。だが、セラフィの肩に頭をうずめているエトハルトはそれを知る由もない。




エリザベスの到着の報せを受けたセラフィはエトハルトに見送られ、ナラと共に裏庭へと向かった。


そこには、春らしく色とりどりの花が咲き誇っていた。邸の裏手とは思えないほど、よく手入れされた花々が並んでいる。



セラフィが春の穏やかな風に揺れる花々に気を取られていると、段々になっている花壇の反対側にあるベンチから立ち上がる人の影があった。


セラフィと良く似たエメラルドグリーンの瞳を持つその女性は、長い金髪を乱しながら駆け足でセラフィの元へと迫って来た。

そんな彼女のことを、セラフィはその場から一歩も動くことなく真正面から見返す。




「セラフィっ」


「お母様…」


背格好の良く似たエリザベスとセラフィの二人は、春の花畑の中久しぶりの再会を果たした。





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