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踏み出す一歩


無事に旅行から戻ってきたセラフィは、自室にお茶を持って来てくれたナラに、笑顔でお土産を渡した。



「はい、これ。ナラに似合うと思って。」


「私に、ですか…」


目を見開いたまま中々手に取ろうとしないナラに、セラフィは彼女の手を掴んでその手のひらに小さな花のキーホルダーを乗せた。



「いつもお世話になってるから。」


「ありがとうございます…大事にします。」


震える声で礼を言ったナラ。

手のひらに乗せられた小さなキーホルダーを彼女は両手でぎゅっと握り締めた。



「本当はお揃いにしたかったんだけどね。色違いで二つ買ったら、なぜかエティに片方を持っていかれちゃった。こういうの好きなのかな…」


「なるほど。では後ほど、丁重に奪い返しておきますね。」


ナラはにっこりと黒い笑顔を向けて来た。


どうしてそんな殺伐とした雰囲気を出してくるのかよく分からなかったが、不安になったセラフィは念の為ほどほどにねと声をかけておいたのだった。




「ナラ、私決めたよ。」


お代わりの紅茶を注いでもらったタイミングで、セラフィは意を決したように伝えた。


初めての旅行で疲れている彼女のために部屋を出ていこうとしていたナラだったが、抱えていたトレーを背中の後ろに隠し、聞く姿勢を取った。



「この休みが終わる前に、お母様と話してくる。エティにも許可を貰えたから。」


「それは…頑張りましたね。」


ナラは手を伸ばすと、緊張して強張った声を出したセラフィの頭を優しく撫でた。


宣言をしただけでまだ何もしてないというのに褒められてしまったセラフィは、困惑顔でナラのことを見上げた。

すると、驚くほどに優しい眼差しを向けてくる瞳と目が合った。


それは、あのシルバーの瞳を彷彿させるような、セラフィへの慈愛に満ちた目だった。



「私、まだ何もしてないんだけど…」


一方的に褒められることに気まずさを感じたセラフィは素直に受け取れず、ナラから目を逸らす。



「決めることは勇気がいりますから。それを人に話すこともまた然りです。だから、セラフィ様は十分に褒められるべきことをなさっているのですよ。」


「本当、かな………」


「本当です。ナラは嘘をつきませんから。だから大人しく褒められて下さいませ。」


「でもその言い方はなんかちょっと変。」


至極真面目な顔でセラフィ贔屓の発言をしてくるナラに、セラフィは照れ笑いをした。


褒められることを嬉しいと思うようになってきたが、セラフィにはまだまだそれを真っ直ぐに受け取ることは難しい。

ナラもそれを分かっていて、意識的に肯定的な言葉を彼女に掛けるようにしていたのだ。




「でね、ナラ。お母様と会う時、貴女も一緒に来てくれないかな…?エティも来てくれるけど、私は出来れば貴女にも来て欲しいの。」


窺うようにナラの顔を見上げるセラフィ。



「ありがとうございます…セラフィ様。この私を選んでくださって。貴女様の心の支えとなれるよう、お側におります。」


「ありがとう。ナラがいてくれたら心強い。私が泣きそうになっていたら躊躇なく喝を入れてね。」


「畏まりました。エトハルト様に見つからないように、そっと抱きしめに参りますね。」


「それは喝じゃないんじゃ…でもどうしてエティに見つからないように??」


1人混乱するセラフィ。

そんな彼女のことをナラは微笑ましく眺めていた。




***




『セラフィの母親と会うのはこの長期休暇の間にしよう。春になれば正式に公爵家の一員となるから、自由に動ける今が最後の機会になると思う。』


『うん、分かった。私も早いほうがいいと思う。』


『では、一週間以内に調整してまた連絡するね。』



夜ベッドに入り込み、エトハルトとの会話を思い返していたセラフィ。


覚悟を決めてナラにも伝えたはずなのに、1人になると言いようのない恐怖が襲ってくる。


生まれる前から存在する切れないはずの縁なのに、それを自ら切りに行こうとする自分の行い。それに対して、本当にこれで良いのかという思いがどうしても断ち切れない。


その思いを断ち切るための行動で、自分にとって必要なことなのだと己に言い聞かせる。


頭の中でそんなやり取りを繰り返しているうちに夜が深けて、気付いたら窓の外は明るく、朝日が昇っていた。




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