三者三様の街歩き
翌日、セラフィ達は街に遊びに来ていた。
王都よりも道ゆく人の数は少ないが、街道に沿って立ち並ぶ店から威勢の良い声が聞こえてきて活気がある。
貴族街しか足を運んだことのないセラフィにとってそれは新鮮で、目に映る物全てが輝いて見えた。
つい気になったもの全てに足が向いてしまう。ふらふらと動くその度に、エトハルトがセラフィのことを優しく抱き寄せた。
「あ、ごめんつい……」
「大丈夫だよ。僕にはこうしてセラフィを腕の中に収められることが悦びだから。」
エトハルトはふふっと微笑みかけると、幸せそうな顔でセラフィのおでこにキスをした。
「あ、ありがとう。」
額に触れた温かな感触と熱のこもったシルバーの瞳に溶かされそうになっているセラフィ。まだ肌寒い気候だというのに顔が赤い。
そんな二人のやりとを後ろから見ていたマシューがおもむろに口を開いた。
「ねぇ、俺も…」
「絶対にダメよ。」
「まだ何も言ってないんだけど…………」
話を聞く前に食い気味に拒絶してきたアザリア。
エトハルト達の後ろを歩いていると碌なことにならないと思ったアザリアは、彼らを追い抜かそうとして足を早めた。
だが、彼らを抜かした瞬間正面からこちらに向かって走ってくる人の姿に気付いた。
「!!」
「危ないな、全く。」
マシューは、緊張感のない声とともにアザリアの腕を引っ張っると、大袈裟に抱き留めた。
「…ありがとう。でももう大丈夫だから…」
すぐに離してくれないマシューの腕から逃れそうとしたが、力強く抱きしめているその腕はびくともしない。
それを不審に思い、彼の顔を見上げると甘い顔で見つめてくる瞳と目が合った。
「心配で離してやれないな。」
「ちょっと!!これじゃ歩けないじゃない!みんなとはぐれてしまうわ。」
「では、こうしよう。」
すんなりとアザリアのことを解放すると、今度は彼女の腰に腕を回してしっかりと抱き寄せた。この国ではエトハルト達くらいしかやらないであろう密着具合である。
「うんうん。アザリアの安全も守れるし歩きやすいし俺の心も満たされる。問題ないな。」
「問題しかないわよっ!!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐアザリアだったが、一度腕の中に収めた彼女をマシューが解放するはずもなく、屋台の食べ物でなんとか機嫌を取りながら歩いて行った。
そんな二人の後方、ランティスとクルエラが一緒に歩いていた。
いつも女性に対しては友人同士以上の距離を空けるランティスだったが、人の行き交う大通りということもあり、今は小声で話せる程度の距離を保っている。
「皆、勝手に行ってしまったな…まぁ、戻り時間は決めてあるから問題ないか。せっかくだから私たちも見て回ろう。」
「うん、そうだね。あ、でも…」
「どうした?」
一瞬瞳を揺らして言い淀むクルエラに、ランティスは緊張させてしまわないよう、わざと首を傾げて優しい声音で尋ねた。
「あの…もしランティス君が良ければ、少しお茶出来たらなって…あでも、行きたいお店とかあれば買い物でも大丈夫だからね。慣れている街だからきっと行きたいお店とかも沢山あるよね。」
「それはちょうど良い。私も少し話がしたかったんだ。こちから誘わずにすまない。」
「え」
断られることしか想像してなかったクルエラは、ランティスの『自分も』という言葉に驚いて思わず声が出てしまった。
「どうかしたか?」
「あ、えっと、あそこのカフェが可愛いなと思って。」
「ではそこにしよう。」
ランティスは流れるような所作でクルエラに腕を差し出した。
ただ隣を歩くだけでは躊躇してしまうが、エスコートとなれば話は別だ。途端に、彼の紳士精神が顔を出す。
だが、そんな彼の切り替えにまだ慣れないクルエラは、ほんの僅かに顔を赤らめながら彼の腕を取った。