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二人で決めたこと


授業を終え、セラフィとともに彼女の自室までやって来たエトハルト。


ナラは、二人にお茶を出すと恭しく礼をして部屋を出て行った。

エトハルトの前には砂糖たっぷりのミルクティー、セラフィの前には爽やかなオレンジティーが置かれている。



エトハルトは、自分のティーカップを手に取り持ち上げると、そのまましれっと彼女の隣に席を移した。

セラフィも隣にスペースを空け、当たり前のようにそれを受け入れる。




「セラフィ、今日話したかったのは君のこれからのことなんだけど…」


エトハルトは窺うように隣のセラフィを見たが、彼女は大丈夫と言わんばかりに微笑みながら頷いて返した。

そんな彼女を気遣うように腰に手を回すと、エトハルトは少しだけ言いにくそうに口を開いた。



「君の養子入りの件、王宮からの承認が降りて正式に決まった。春にはカーネル家の名を賜る予定だよ。そして、シブースト家のことなんだけど…奪爵になると思う。」


「そう、だよね……」


セラフィは目を伏せた。


両親のことなんてどうでも良くて、自分とはもう関係なくて、彼らがどうなろうが自分は痛くも痒くもない、そう思っているはずなのになぜかセラフィの心は痛んだ。


もしエトハルトと出会わずに両親の言う通りの相手と結婚していればこんな風にシブースト家の名を失うことにはならなかっただろう。


それが良いかどうかは別として、両親の運命を変えたことが自分の所業だと思うと、どうしようもないほどの不安と恐怖が押し寄せる。



これで良かったのかな………




「セラフィ」


エトハルトは、目に涙を浮かべるセラフィのことを優しく包み込むように抱きしめた。



「あ、ごめん私……エティには感謝してて、わたしをあの両親から救ってくれて、だから私はこれで良かったって…ちゃんとそう思ってる…」


「辛い想いをさせて本当にすまない。どんな関係性でも実の親を不幸にしたい子はいないだろう。それなのに、僕にはこうすることでしかセラフィを救うことが出来なかった。君は何も悪くない。これは全て僕が決めたことで、僕が起こした行動の結果だ。」


「ううん、そんなことは絶対にない。エティは私のために尽力してくれたんだから。心から感謝してる。これは私たち二人が決めたこと、そうでしょう?」


セラフィは泣き顔のまま抱きしめてくれるエトハルトの顔を見上げると、優しく微笑みかけた。


そこには今までの彼女には無かった強さがあった。



「二人で幸せになろう。そしていつの日か、この選択が正しかったんだってそう思いたい。」


「セラフィ、君って人は…僕が掛けたかった言葉を取らないでくれる?」


エトハルトは、セラフィの前髪をかき上げておでこに優しくキスをすると揶揄うように笑った。



「君のことはこの僕が絶対に幸せにする。君が幸せなら僕も幸せだから。自分たちの作った未来を共に生きよう。」


「うん、私もエティが一緒にいてくれたら幸せだよ。」


二人は目を合わせ、互いに吸い寄せられるように顔を近づけて口付けを交わした。


セラフィが目を開けると、エトハルトの唇がまた眼前に迫っており、今度はさらに深く口付けをしてきた。

角度を変えて何度も口付けを重ねるうちにセラフィはソファーの上に押し倒され、エトハルトが覆い被さる形になっていく。



「ちょっと、エティ!」


恥ずかしさのあまり声と白旗を上げたセラフィは、エトハルトの肩を叩きながら彼の名を呼んだ。



「セラフィ様!」


だが、返ってきたのは緊迫したナラの声だった。


僅かに開けてあったドアの隙間からセラフィの切羽詰まった声を拾ったナラは、救世主の如く部屋に入ってきた。




「どうしたんだい?」


エトハルトは、セラフィの髪を撫でながら焦るナラをチラリと見た。

セラフィは分かりやすいほど顔を真っ赤にして俯いている。


部屋の入り口に人の気配を感じた瞬間、エトハルトはセラフィのことを抱き起こして身なりを整え、自分が彼女に迫った証拠を抹消したのだ。




「エトハルト様、大概になさって下さい。」


だがそんな小手先の悪あがきなど、ナラには通用しない。彼の魂胆など全てお見通しであった。



「愛しい婚約者の髪を撫でることくらい構わないだろう?」


それでもエトハルトの手が止まることは無かった。

ナラの怒りの視線に突き刺されながらも、にこにことセラフィのことを見つめている。



「金輪際、セラフィ様と密室で二人きりにはさせません。今後セラフィ様とお話しされる際は見通しの良い庭園にしてください。」


「屋外か…それはそれで燃えるね。」


「・・・」


何を言っても動じないどころか、更に調子に乗ってくるエトハルトに、ナラはもう何を言っていいか分からなかった。


彼には何を言っても無駄だと判断し、セラフィに拒否することの大切さを叩き込もうと考えていたのだった。





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