恋するランティス
「人を好きになるって何なんだろうな…」
「いや、いきなりそんなこと言うお前の方が何なんだよ…」
洗練された店内でティーカップを片手に物憂げな表情をしているランティス。
金髪碧眼というだけでも目立つのに、彼の整った顔立ちは周囲の女性客の視線を独り占めにしている。
無事にクルエラと合流出来たセラフィ達。
女性陣は仲良くきゃっきゃしながら雑貨店の立ち並ぶエリアへと消えていき(もちろん、エトハルトも一緒に消えていった)、残されたランティスとマシューの二人は適当に買い物を済ませた後、温かい店内で休憩をしていたのだ。
ランティスがクルエラと一緒に現れた時点で何かあると思っていたマシューだったが、恋する乙女の如く振る舞う彼の姿を目の当たりにしたら色々とやる気が失せてしまった。
窓辺を見つめながらぼんやりとしているランティスを無視して、コーヒーのお代わりを注文する。
「君やエトハルトみたいに確固たる想いがあれば良いのだが、私にはいまいち分からない。出来れば側にいたいと思うが、息をするように愛を囁くなど私には到底真似できそうにない…」
「おいおいおいおい。一体誰と比べて落ち込んでんだよ。愛情表情なんて人それぞれだろ。あれは規格外だから、あんなのと比べるなよ。愛なんて形がないんだから、他と比べる必要なんてないだろ。」
「それは分かってはいるんだが…どこが好きかと明確に答えられる自信もなく…これで本当に相手のことを好きだと言って良いのだろうか…」
「人を好きになるのに理由が必要か?別にいらないだろそんなの。相手のことを好きかどうかって頭で考えるものでもないし、相手を目の前にした時にああ好きなんだなって心の内側から感じるものだろ。」
「そういうものなのだろうか…」
「そうだよ。クルエラ嬢が近くに来たらドキドキするだろ?それが恋なんだよ。」
「なぜクルエラさんだと分かったんだ……?」
「お前な……………」
誰のことを好きかバレていないと思っていたランティス。
マシューが自然にクルエラの名を口にしたことに心底驚いたような顔をしている。
「「「きゃあああああ」」」
マシューが呆れていると、店内入り口の方から黄色い悲鳴が聞こえた。
女性客の視線の先には、セラフィの肩を抱き、愛おしそうに彼女の頭に口付けをするエトハルトの姿があった。
見た目麗しい銀髪の彼の高貴な口付けに、近くにいた女性客は皆頬を赤く染めている。その熱い視線はまるで、舞台でも見ているかのようであった。
そして、輝くエトハルトの後ろにはぐったりとしたクルエラとアザリアの姿があった。
買い物をしている間もずっとエトハルトはこの調子だったのだろう。二人の顔は疲れ果てていた。
エトハルトの登場に気付いたマシューは、彼の存在を無視してアザリアに駆け寄ると、彼女の手から荷物を取り上げ席まで案内した。
マシューに視線で呼ばれたランティスも慌ててクルエラの元に行き、同じように荷物を持って席まで戻ってきた。
セラフィはエトハルトに連れられ、窓際のカップルシートに座らせられていた。
「お疲れ様。」
マシューは、席に戻る前に店員に頼んでおいたロイヤルミルクティーに蜂蜜を入れて掻き混ぜると、アザリアの前に差し出した。
アザリアは勢いよくティーカップに口を付けようとしたが、火傷するぞと言ってマシューに取り上げられてしまった。
「あ!私のロイヤルミルクティー!」
「すぐ返す。」
マシューは、ティーカップを口元に持っていくフーフーと息を吹きかける。粗熱を取ってから改めてアザリアに渡した。
そんな二人のやり取りを恥ずかしそうに眺めるクルエラと、マシューだって随分なことを…とぶつぶつ言っているランティス。そして、今度こそ勢いよく飲み干すアザリア。
「はーーーっ!!疲れたわっ!!!」
感情のまま勢いよくソーサーにティーカップを戻そうとすると、またもやマシューに取り上げられ、彼の手でそっと戻された。
「はいはい、よく頑張りました。」
マシューはアザリアの頭を撫でた。
まだ気が立っている彼女は鬱陶しそうに頭を振るが、彼はそんな彼女の仕草すら愛おしそうに蕩ける笑顔で見つめている。
「マシュー、君たちも大概だぞ…」
「ちょっと照れるね…」
マシュー達のやり取りに当てられた二人は少しだけ気まずそうな雰囲気を出している。
さすがにこの二人には刺激が強過ぎたかなとマシューが空気を読もうとした瞬間、その気遣いをぶった斬ってくる奴がいた。
「ねぇ、クルエラってどんな人が好きなの?」
「「え……………………」」
突然のアザリアからの質問に、なぜか焦る声が二つ重なった。
「なんでランティスが動揺してんだよ…」
すかさずツッコミを入れるマシュー。
二杯目のコーヒーもそろそろ空になりそうだが、定員に声を掛ける気力もなく、とりあえず事の成り行きを見守ることにした。