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アザリアの心配


一番最後に席に戻って来たのはアザリアだった。彼女は重量感のあるトレーを手にしている。


そのトレーの上には、ステーキにポテトフライにサラダにスープにパンが乗っており、その上デザートまでついていた。昼の食事とは思えない豪勢な内容であった。


よく食べるな…とセラフィはアザリアに感心した目を向けた。




「これいる?」


エトハルトは、セラフィに向けて、自分のトレーに乗っているデザートを指さした。


彼は日替わりに加え、デザートを追加注文していたのだ。そして、セラフィはアザリアのデザートを物欲しそうな目で見ていると勘違いしたらしい。



「ううん、大丈夫っ!」


セラフィは恥ずかしそうに両手を振った。


そんな二人のやり取りを見たアザリアは、肉を切っていた手を止め、思い出したように口を開いた。



「そういえばまだ二人の話を聞いていなかったわ。ほんといつの間に…それにしても、あなた達仲がいいのね。」

「「え???」」

「え?」


二人のことを褒めたつもりが、思い切り聞き返されてしまい、アザリアも思わず聞き返した。この辺り一帯にハテナマークが飛び交っている。


この状況を一番良く理解しているマシューは、ため息を吐いた。



「エトハルト、説明してやったら?その子、セラフィ嬢と仲が良いんだろ?」

「ああ、そうだね。」


エトハルトは、手にしていたフォークをトレーの上に置くと、アザリアの方を見た。



「これは秘密なんだけど、セラフィと僕の婚約は見せかけなんだ。もちろん、お互い合意の上でね。あ、皆には言わないように頼むよ。」


「は……それどういうこと……??」


「僕も彼女も、婚約者がいた方が都合が良いんだ。だから互いに助け合ってる。それだけだよ。」


「え、なんで…セラフィのことを都合よく利用して見放すの?いつか終わる関係なのに優しくして期待させて、どういうつもり?結局それは自分のためなんじゃないの?皆にいい顔をしたいだけで…」


「アザリア!これは私からお願いしたことなの。エティがいなかったから、学園にも通えずどこかにお嫁に行かされていたかもしれない。いずれそうなることだとしても、私は、この三年間という貴重な時間を貰えたことが嬉しい。こんなこと、一人じゃ実現出来なかったから。だから私は…感謝してるの。」


「セラフィ…」


アザリアは胸が締め付けられる思いだった。


王都に来て初めて出来た唯一の友人なのに、何もしてあげることができない。いくら仲が良くても、婚約者のフリをすることも出来ないし、友人の立場でお金を援助することもできない。


出来ることは、隣にいることくらいだった。


学園でもなるべく彼女の側を離れないようにしようと思っていた。心優しい彼女はきっと陰口を叩かれても言い返すことができない。だったら、自分がすぐ隣にいて防波堤になってあげようと。そのためなら、悪目立ちすることも厭わないと思っていた。


それなのに…


いきなり現れたエトハルトがアザリアが立つべき場所を奪ってしまった。それが本物の好意であれば許せるものの、仮初だと言って来た。


そんなこと、許せるはずがなかった。

期間限定の優しさなんて、セラフィを傷付けるだけだと思った。



そんな残酷な事を彼女にして欲しくない…




「分かった。セラフィが望むなら私はもう何も言わない。でも、貴方には言いたいことがあるわ。」


アザリアは真っ直ぐにエトハルトの目を見た。



「セラフィに不用意に優しくすることはやめて。形だけの婚約者が欲しいのなら、名前を貸すだけで十分でしょう?だから、必要以上に関わらないで。貴方がいなくなった後、悲しむセラフィを見たくないから。約束してもらえる?」


協力してくれているエトハルトに対して、かなり失礼な物言いではないかとセラフィは不安になったが、滅多に見せない真剣な表情の彼女に、口を挟むことは憚られた。


一方、アザリアの本気の想いを受け取ったエトハルトは、ゆっくりと大きく頷いた。



「ああ、約束しよう。元より僕は恋愛や結婚には興味がない。だから、君の心配するようなところにはならないだろう。」


はっきりとした口調で言い切った。


確約してくれたことは嬉しい反面、彼の言葉にセラフィが傷付いていないか心配になった。

アザリアはちらりと彼女のことを盗み見したが、その表情から感情を読み取ることは出来なかった。だが、あからさまに悲しそうな顔をしていなかったことに安堵した。



「さてと、話もついたことだし食事を終えてしまおうか。そろそろ休み時間が終わってしまうからね。そうだ、セラフィ。」

「なに?」


自分の方を向いたセラフィに、エトハルトは一口サイズのケーキを乗せたスプーンを差し出した。



「ひと口食べる?丸々一個は多かったのかなと思って。これ気になってたでしょ。」


シルバーの瞳を輝かせ、屈託のない笑顔を見せた。



「なっ…」

「言ったそばから、なんなのよあれはっ…!!!」


セラフィが何か言う前に、アザリアが大声を出してテーブルに手をつき立ち上がった。

混雑し始めた周囲から複数の視線が彼女に向けられた。



「だから、そういうのをやめてって言ってるのよ!ちょっとは自覚を持ちなさいっ!!」

「まあまあ」


これまで事の成り行きを静観していたマシューがアザリアのことを宥めた。

気持ちはよくわかるよと言わんばかりに背中をさすっている。



アザリアがぎゃあぎゃあ騒いでいる傍で、エトハルトは懲りずに今度はフルーツをセラフィに勧めていた。

もちろん、手で彼女の口元に近づけて。


普通にお腹がいっぱいだったセラフィは、丁重に断っていた。


それでもなお、エトハルトからは楽しそうな雰囲気が漏れ出ていたのだった。





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