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マシューのお節介


貸切の店内、各々飲み物や食べ物を手にして楽しく談笑する中、一人だけ暗い顔をしている男がいた。


周囲から浮かない程度に飲み物を口にしているものの、勘の良い者からすれば、何かあったのだろうということが容易に想像出来る。


そしてその要因にまで思い至ったマシューは、声を掛けるべきか無視すべきか悩んでいた。



せっかく愛しい人と恋仲になれた今、厄介ごとにはもう関わりたくないというのが本音であった。


だが、流石は似た者同士のカップル、隣にいたアザリアも同じことか気になっているのか、チラチラと様子を窺っている。




「ねぇ、アレってもしかして…」


「ああ。厄介ごとの匂いがするな…」


二人の視線の先には、飲み物を片手に物憂げな顔をしているランティスの姿があった。


クラスの人気者である彼にしては珍しく、誰とも絡まず一人で佇んでいる。

何かあったとしか思えないその姿に、マシューは分かりやすく面倒そうな顔をした。



一つため息を吐くと、アザリアの手を取り、ランティスの元へと向かった。




「何かあったのか?」


予想はついてるものの、マシューはこういう問題はまず本人の口から聞き出すことが重要だと過去の経験から学んでいる。



「君たちは、相変わらず仲睦まじくていいな…」


「は」「へ」


気の抜けた一音が二つ重なった。


深刻そうな顔をして、突然脈絡のないことを言い出すランティスに、二人は揃ってただ呆れただけなのだが、彼からすれば息ぴったりで羨ましいというだけである。


妬みの籠った目で二人のことを見ると、ランティスは儚げにため息を吐いた。



『想像以上に重症だ…』

『思っていたより厄介ね…』


また同じことを思ったマシューとアザリアだったが、心の中に留めたため、ランティスの気に障ることは無かった。




マシューは一瞬思考した後、奥のテーブルにいたエトハルトに声を掛けた。



「なぁ、エトハルト。お前、セラフィ嬢と旅行に行きたくないか?」

「行く。」


マシューの呼び掛けに振り返るよりも先に肯定の意思を示したエトハルト。

期待以上の反応の良さにマシューは笑いを堪えるのに必死だ。


いきなり話を変えたマシューに、ランティスはぽかんと不思議そうな顔をしている。



「セラフィ嬢、クルエラ嬢と仲良かったよな。彼女も誘って皆で行こう。俺たちも行くから。なっ!」


マシューは、右手でアザリアの腰を抱き、左手でランティスの肩を叩いた。



「はぁ?」

「うわ…」

「なっ…………」


エトハルトは当然の如く二人きりでないことに怒りを露わにし、アザリアは面倒そうなことに巻き込まれたわと嫌な声を出し、ランティスはクルエラの名が出たことに狼狽えていた。


マシューは、全員予想通りの反応だなとヘラヘラ笑っている。




「ねぇ、どうして他の人達も一緒なの?あり得ないんだけど。」


「ちょっとこれは…ツッコミ役が足りるか心配だわ。」


「み、未婚の男女で、そそそんな旅行など………」


返ってきた言葉は三者三様であった。

皆それぞれ文句やら感想やら不安やらを口にしている。





「え、みんなで旅行…?」


その時、セラフィの期待に満ちた声が聞こえた。

目を輝かせ、見知らぬ土地で楽しそうに過ごす自分たちのことを想像しているようであった。



「うん、皆で旅行も良いよね。きっとすごく良い思い出になると思うよ。クルエラ嬢にも聞いてみようか。」 


「「・・・」」


思い切り手のひら返しをしたエトハルト。

それを満足そうにマシューは眺め、ランティスとアザリアは引いた目で見ていた。



「うん!ちょっと声をかけてくるね。」


セラフィは無邪気な笑顔を見せると、隣のテーブルにいたクルエラの元に向かった。

事情を軽く説明して、元いたテーブルまで彼女を連れてきた。





「誘ってくれてありがとう、セラフィ。でも私なんかが混ざって良いのかな…なんか一人だけ場違いな気がして…」


「そんなことないよ!」「そんなことはない!」


セラフィとランティスが即座に反応し、クルエラの不安を拭おうと勢いよく否定した。




ピキッ…


セラフィとランティスの言葉がぴったり揃う様を目の当たりにしたエトハルトは、グラスを掴む手に力が入り、ひびの入る音がした。


顔色一つ変えずに嫉妬心を露わにするエトハルトに、マシューはため息を吐きながらそっと店員に声を掛けグラスを交換させていた。


幸いなことに、他に気づく者はいなかった。




「私だって、友達と旅行なんて行ったことないし、家族とだって…だからクルエラも来てくれるなら物凄く嬉しい。一緒に楽しみたいな。」


「セラフィ…ありがとう。」


クルエラは照れた顔で嬉しそうに微笑んだ。


幼い頃からキャサリンの家であるブリリアント家に仕えて来た彼女は、同等に扱われた記憶がほとんどない。

いつも仕え先の人間を立て、幼いという理由で優遇された経験もなかった。


そんな背景を持つ彼女だから、当たり前のように自分のことを誘ってくれる人たちにまだ慣れず、素直にその手を取ることが難しいと感じる。


セラフィと出会って手を伸ばす勇気を学んだが、躊躇する癖はまだ抜けない。

でも、どれだけ躊躇しても彼女は変わらず手を差し伸べをてくれる。


そのことが心の底か嬉しかったのだ。




「よし、決まりだな。セラフィ嬢もクルエラ嬢も参加したいって言ってくれてるんだから、異論は無いよな。時期は…春休みにしよう。それまでに行き先の候補を作って連絡するから宜しくな。」



こうして、マシューの勝手な提案と強引な仕切りによって、セラフィ達は春休みに旅行へ行くことが決まったのだった。






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