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ナラの心配事


『エティ、大好きだよ』


耳元で聞こえた愛する者の愛を囁く声。


その瞬間、今まで感じたことのない充足感が身体中に満ち溢れ、閉ざされていたエトハルトの心に光が差した。


その光は優しくて温かく、エトハルト自身が己の心を縛っていたしがらみを解き放ってくれた。その余りの心地よさに眩暈がしてくる。



彼の心には、セラフィに対する謝罪の気持ちも自責の念も己の力不足に絶望する気持ちも全てが消え去り、ただセラフィへの愛しい想いだけが残った。


それ以外のことなどもうどうでもよくなるくらい、彼女への愛しさで溢れる。


エトハルトは、セラフィさえいてくれれば、どんな自分でも受け入れられるような気がする、そんな風にさえ思えた。



セラフィから愛を向けられて言葉で言い尽くせないほどの歓喜に沸いているエトハルトは、気持ちが昂るまま、自分が知る限りの最大の言葉で今の自分の気持ちを彼女に伝える。


彼女が示してくれた愛に、それ以上の愛を返したかった。



「セラフィ、愛してる。今日は僕の邸に一緒に帰ろう。そして朝までゆっくりと愛を交わし合い、」

「………エトハルト様?」


変な方向に愛を増幅させてしまい不埒なことを言い出すエトハルトに、ナラは素早く反応し、嗜めるようにドスのきいた声で彼の名を呼んだ。


彼女のあまりの迫力に、エトハルトは言葉を止め、セラフィの肩に顔を埋めるとダンマリを決め込んできた。



「そろそろお戻りにならないと、ご学友達が心配なさりますよ。」


「・・・」


「マシュー様に言い付けますよ。」


「………セラフィ、お昼がまだだったね。ごめんね、お腹空いたよね。遅くなってしまったけど、僕らも食堂に行こうか。」


マシューの名に反応したエトハルトは、すっとセラフィのことを解放すると手を繋ぎ直し、綺麗に回れ右をした。


ナラと目を合わせる気は無いらしい。



「エトハルト様、セラフィ様がいつもの時間にご帰宅なさらなかったら、マシュー様にお伝えしますからね。」


「…………分かった。」


「お忘れなきようお願いいたします。」


どっちが主か分からないやり取りをした後、ナラはいつもの優しい雰囲気に戻りセラフィに向き直った。



「セラフィ様、行ってらっしゃいませ。」


「うん、ありがとう。行ってくるね。」


セラフィはナラに笑顔で手を振ると、エトハルトともに食堂へと向かった。






「セラフィが来ないから、私食べ終わってしまったわ。デザートお代わりしようかしら。」


「さっき既にお代わりしてただろ…」


いつもの掛け合いで迎えてくれたアザリアとマシュー。


セラフィはいつもと変わらない二人を見てほっこりと和んでいた。

いつもの日常があることがひどく嬉しかったのだ。



クルエラやキャサリンなど他のクラスメイト達はどこにいるのかと話をしている内に、エトハルトがランチセットを二つ持って席に戻って来た。


当たり前のように自分の分も持って来てくれたエトハルトに礼を言うと、セラフィはアザリアの向かいに座った。


その隣の席に座っていたマシューは、エトハルトの無言の圧力により、自分のトレーを持ってそそくさとアザリアの隣の席へと移動していった。



結局お代わりをしたアザリアは、フォークで大きめに切り分けたチョコレートケーキを大きな口で頬張ると、もぐもぐと咀嚼しながらセラフィに尋ねた。


「そう言えば、あの公爵令嬢にひどく懐かれていたようだけど、何があったのよ。セラフィに喧嘩売って来たと思いきや、今度は姉様呼びって…一体何がどうなってんのよ。」


「ええとそれは…」


セラフィはちらりとエトハルトのことを見たが、彼は小さく首を横に振るだけだった。


それを、今この場で話すのは良く無いという意味だと捉えたセラフィは精一杯誤魔化すことにした。



「なんかね、物凄く仲良くなったんだよね。ソフィ…ソフィリアさんも本好きみたいでね、ははは。」


ついうっかりソフィリアと呼びそうになってしまったセラフィ。

変な笑い方をする彼女に、アザリアは怪訝そうな顔を向ける。


本当はソフィーと呼んでと懇願されていたのだが、エトハルトに断固拒否され、ソフィリアも一歩も引かず…折衷案として呼び捨てにすることになったのだ。



「ふーん…まぁいいわ。また今度教えて。」


アザリアはすっと目を細めてエトハルトを見ると、興味をなくしたように手元のケーキを口に運んだ。


次々に口に運ぶアザリアに、正面に座るマシューが心配した顔でお茶を勧めている。なんとも微笑ましい光景が広がっていた。





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