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(1)

 

 この世には人の形をしながら常人を遥かに凌駕する力を持つ者がいる。


 人間の手によって作られた人造の兵器、人々は畏怖の念を込めてそれらの存在をこう呼んだ―


 ―”魔人”と。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 北は極寒、南は灼熱という広大な土地を有する大地、リメスシア大陸。


 その大陸の南東にバルドロという国がある。バルドロ国は能力至上主義を掲げる国で、才能あるものを取り込み、新たな機知を率先して受け入れる事で、周辺国家も恐れる大国へと発展した国だ。


 通常未開の地が多く残るリメスシア大陸では短期間で国力を上げるのは難行とされている。その要因の一つとして魔物や魔獣の存在がある。しかしながらバルドロ国はその優れた軍事力を武器に魔物や魔獣の脅威に対抗することで、次々とその領土を拡大していった。


 しかしながら、その偉業ともいえる成果の裏側にはとある極秘の研究が大きく関わっている。


 バルドロ国内でも王族を含む一部の人間しか知らない極秘の研究機関。


 その名を”魔導人型兵器研究機関”


 人に代わる新たな兵力ないし兵器の開発を行う研究機関で、数多くの優秀な魔術師や魔導技師が在籍している。


 …と謳ってはいるものの、その実情は凄惨を極める。


 実験の名の元、誘拐、監禁、拷問を繰り返し実験対象の生命は紙屑同然に扱われる。


 なぜならこの研究組織において新たな発見こそが最も尊ばれているからだ。


 そして、そんな倫理をドブに吐いて捨てたような集団の施設に一人の男がいた。


 液体で満たされた筒状のガラスケースに入れられ、無数の管のような物で繋がれ水中に浮かんでおり、包帯でグルグル巻きにされた体には無数の赤い染みが浮かび、右足の膝から下と右手の手首から先が無くなっていた。


 彼の名はエルロンド、バルドロの若き英雄と呼ばれ、名もなき傭兵からバルドロ国軍の隊長格にまで上り詰めた才能あふれる若者だ。


 …いや、だったと言うべきか。


 ゴポッ…


 水中を気泡が駆け上がる音が聞こえ、エルロンドはゆっくりと目を開ける。


(ここは…どこだ?俺は生きてるのか?)


 自分の体を確認しようとするが、視界がぼやけているせいでよく見えない。しかし自分が瀕死の重傷を負っている事だけはなんとなく自覚できた。


「エル…ド殿、気が付…まし…?」


 不意に誰かの声が聞こえ、顔を上げるとガラスの向こう側に知らない人物が立っているのが見えた。

 目がぼやけているせいでよく分からないが、白衣姿で眼鏡を掛けていることは分かった。声質的に自分よりも年上、三十から四十くらいだろう、何かを説明しているようだが右耳が潰れているせいか、よく聞き取れない。


「国王の…り、これ……なたに延命…を…ていただ…す。よろ…で…か?」


(国王?延命?冗談だろ!?こんな死に体の俺をまだ戦わさせようとは…さすが能力至上主義国家、使える者は死体でも使う…か。)


 少しの間考えを巡らせたエルロンドだったが、意外にすんなりと再び戦場へ返り咲く決意を固める。


(まぁどうせ拾われた身だし、このままベットで余生を過ごすよりマシか。息子のクズ王子に仕えるのは御免だが、今の国王がおっ死ぬまでは戦ってやるか。)


 返答を待っている様子の白衣の男に向かい、エルロンドは笑顔で首を縦に振る。


 しかしながら口は片側が耳まで裂け、包帯に血の滲んだ顔から発せられたそれは、到底笑顔と言えるような代物ではなかったらしく、白衣の男は恐怖からか一瞬固まると青ざめた様子でそそくさとその場から立ち去って行った。


 立ち去る白衣の男を視線で追っていると、自分の隣にもう一つ同じ容器があるのに気付いた。中に何かが入っているようだが、ピクリとも動く気配がない。


(何だこれ?黒い大きな…人?いや魔物か?)


 霞む視界を必死に凝らし隣の容器に見入っていると、突如奇妙な音が施設中に響き渡り、エルロンドの入っている容器の底からたくさんの気泡が浮かび上がりだした。


 何が起こっているのかと困惑したのも束の間、唐突に首につながれていた管から全身に耐え難い痛みが走る。


(ッ!なんだ…これ、体中を焼けた針で刺されてるみたいだ…!)


 条件反射で体に力が入り、全身の傷口から血が溢れ出す。それは徐々に痛みに悶えるエルロンドごと容器を赤く染め上げていく。


 視界が自分の血で赤くなっていく中、何とか意識を保とうと襲い来る痛みに必死に耐えるエルロンド、しかしダメ押しと言わんばかりに容器内に強烈な電流が流れる。


 死に体の人間の心臓がそんなものに耐えられるはずもなく、生命活動を停止したエルロンドの意識はゆっくりと暗闇へと消えていった。

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