第5話 アホらしい話
翌日の昼休み、俺は小杉を含んだ席の近い男子たちと机を近づけて弁当を食っていた。
「彼女、欲しいなぁー」
弁当箱をバックから取り出してそんなことを言うのは、俺が仲良くしている男子の一人、立川 悟郎だった。
「誰なら彼女になってくれるかなぁ…」
「鏡見ろ無理やで。諦めな〜」
残酷な事実を小杉は突きつける。真顔で言うから余計に面白く、俺は笑ってしまう。
「この席空いてる?借りるぞ。」
「面白そうな話、入れてよ。」
そう言って弁当箱を持ってきたのはもう1人の友達、登 智也だった。俺と小杉と立川、そしてノボリの4人はプライベートでもよく遊ぶ仲だ。
「ノボリお前は彼女おるやろ。帰れや。」
「煽りに来たなら殺すよ〜」
「あ゛〜カナちゃん俺にくれ〜」
三者三様のコメントをノボリに掛け、迎え入れる。彼にはカナちゃんという普通に美人の彼女が居る。まぁノボリがかなりのイケメンなので当然と言えば当然なんだけど。
「いや、ガチで誰なら良いかな?」
立川がまだその話を続ける。本当に心の底から男子高校生してるなぁと感心してしまった。
「まじな話、稲田さんとか結構いける。」
ノボリはクラスのボーイッシュな女子を挙げる。
「あー女子サッカーの子ね、美人よな。」
俺は相槌を打ち、ふと気になって聞く。
「小杉、席隣だけどあの子といい感じじゃん。正直タイプだろ?」
「いや、まぁ…美人やなぁと…」
俺は勘づいた。
「うわ、小杉お前!」
「あ〜あ、新庄にバレたねぇ、終わりだよ武蔵。」
ノボリと立川が囃し立てる。なるほど小杉はああいった女の子がタイプなんだねぇ…
男子高校生らしい会話が弾んでいたその時、俺は後ろから声を掛けられた。
「新庄、ちょっといい?」
振り返ると、溝口が手を振って呼ぶような素振りを見せていた。
「悪ぃ、ちょっと行く。」
俺は3人にそう言って弁当箱を閉じた。
「お前まさか溝口と…」
「新庄にも春が来たのか…!」
「溝口も割と可愛いよな、アリだわ。」
「うるせ、そんなんじゃねーよ。」
俺は席を立って書庫に向かった。
「男子ってアホらしい話ばっかするよね。」
溝口がパイプ椅子に腰掛けながら呆れ顔で言う。もちろん俺もそう思う。
「登くんは彼女いるんだね。彼女持ちであの言動はどうかと思うけど。」
「イケメンだから許されてんじゃねーの」
俺は常日頃思っている事を口にした。
「まぁ、何でもいいけどさ。でさ…」
話は本題に入った。
「すずめの件、ばらまいてみない?」
元カレの長津にはもう晒してある以上、広がるのは時間の問題だし、そろそろケリをつけた方が良いのかもしれない。
「俺の読みが当たれば、今日は結構強烈なのが撮れると思うんだよね。それを晒そうか。」
「そうしよっか、今日は部活だっけ?」
「部活。カメラ頼むよ。」
「おっけ。バッチリ撮っとくよ。」
「じゃ、さっさと教室戻ろっか。なんだか変な勘違いされてそうだしねぇ(笑)」
「うるせぇ。」
俺は溝口の頭を叩こうとして、ギリギリで躊躇して止めた。
その結果、俺の右の掌は優しく溝口の頭に触れてしまった。
ふわっと心地いい感触が掌に伝わって、振り向きざまになびいた髪が腕に掛かる。
「…っ!」
目を丸くしてこっちを見る溝口。
「叩こうとして、ギリギリで止めちゃって…なんかゴメン…」
「別に、嫌じゃないから…」
どんな顔してるのか気になったけど、髪に隠れてよく分からない。何故か俺まで赤くなってしまった。
俺と溝口は教室に戻った。