第4話 『手伝ったるわ笑』
菊名と別れた俺は書庫に戻り、自分のスマホを回収した。
ビデオ通話、録画を続けてアチアチになったスマホを持ち上げ、通話と録画を終了。隠し撮りの映像を編集アプリに通し、問題のシーンを切り抜く。音量を調節しノイズを除去。
『菊名がウチのクラスの谷保さん虐めてた』
この言葉と共に編集した動画を小杉に送信する。
すぐ返信があった。
『これまじか』
『谷保さん可哀想やな』
『成敗するんか』
短いメッセージがテンポよく送られてきた。
『したいけど、谷保さんに仕返し行かないかだけ心配』
『ならネチネチじゃなくて直接対決がええな。』
『手伝ったるわ笑』
正義感の強い小杉なら手伝ってくれるという期待の元送信した訳だが、間違っていなかったようだ。
協力者を1人集めた所で、次は強烈な起爆剤を仕込む。
インスタを開き、フォロー欄の検索バーに
『長津』『長津大介』『ながつ』『ながつたいすけ』などと入力する。
何通りか試し、ヘンテコなピースをした男がアイコンの『taisuke_nagatu』がヒット。
菊名の元彼の長津くんの激痛ストーリーは見覚えがあったが、相互フォローだったようだ。
アカウントを裏垢に切り替え、『taisuke_nagatu』をフォローし、DM欄を開いた。
どうするか少し考え、例の動画と、彼女はバスケ部のキャプテンの事が好きだったから長津のことを振り、ライバルのマネージャーを虐めた事を挑発的に伝える事にした。
流石に得体の知れない裏垢からの挑発DMに返信はしないと思ったが、長津は俺の想像を僅か2分で超えてきた。
『あ?』
『何この動画』
『ほんと?』
『あとお前誰』
見ているだけで偏差値が下がりそうな文面が素早く送られてきた。『あとお前誰』以外の全ての文章にリプライし、詳細に説明する。
長津はすっかり激昂し、菊名に動画とキャプテンの件を問い詰めると言い放ってくれた。
体育倉庫に戻り、溝口のスマホを回収した後、俺は保健室に向かった。
「失礼します。溝口さんは来てますか?」
保健室の先生は入って左手の長椅子を指さした。指の先には、目を赤くした谷保さんと、彼女の手を優しく握り寄り添う溝口が居た。
「俺は帰るわ、はい、スマホ。充電死にかけだったぞ。」
あまり長居するのも良くなさそうなので、溝口のスマホだけ手渡し、その場を後にした。
高校から徒歩5分、駅に着いた。
今日は少し疲れた。せっかく部活がオフになったのに薄暗くなるまで学校に居た事になる。折角のオフが勿体なかったかもしれない…
ポケットの中でスマホが震えたので通知を確認してみる。
『今から駅行くから待ってて』
溝口からだった。
少しため息をつき、目に付いた自販機で甘い紅茶飲料を買い、ガードレールに腰掛けてペットボトルの蓋を捻った。
「お待たせ。ごめんね呼びつけちゃって。」
全くだと立ち上がり、改札に向けて歩き出した。
改札を潜り抜け、反対側のホームに渡る跨線橋の階段を昇る。
「谷保さんは?置いてきたのか?」
「最後のミーティングは出たいってさ」
「健気だなぁ、野球部に欲しいわぁ〜」
「アホばっかりの野球部には勿体ないね。」
そんな冗談を言い合い、駅のホームに降り立つ。俺は飲み終えたペットボトルを自販機の隣のゴミ箱に捨てた。
「これからなんだけどさ。」
溝口が本題を切り出す。
「…あぁ」
「何にせよ協力者が欲しいよね。2人でどうにかできるかと言われると…」
「もう済んでる。小杉に動画見せたら怒ってたわ。」
「小杉…あの野球部の子ね。いいと思う。」
「明日は部活あるから手伝えないけど、何かしら動きがあると思う。カメラは別アングルから回せ。危なくなったら今日みたいに止めてくれ。」
きっと今頃、菊名は動画の存在を知った筈だ。撮影した奴が誰なのか思案して、きっと谷保さんが犯人と決めつける。
「何か仕掛けたの?」
「…まぁな。危なそうなら止めてくれよ。」
放送が列車の到着を知らせ、列車がホームに滑り込んでくる。
夕方の満員電車に乗り込み、俺たちは同じ最寄り駅を目指した。
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