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第3話 決心


 俺たちは一言も発すことなく、ビデオ通話の画面を見続ける。


 『それで、いい加減、キャプテンの事は諦めてくれたの?』


 より一層語気を強めた菊名が谷保さんに問う。


 『だから、元から好きでもなんでも無いって言って…』


 『うるさい!』


 その瞬間、菊名の掌が谷保さんの頬を強く打ち、ピシャリと弾けるような音が響いた。


 谷保さんはその場にうずくまり、今にも泣き出すような形相だった。


 菊名は続ける。


 『言い訳なんかしないでよ気持ち悪い。さっさと諦めてバスケ部出ていきな?』


 黙り込む谷保さん。


 『返事くらいしたら!?』


 また甲高い声が響き、谷保さんの足元にあるカゴの中からドリンクの入ったボトルを取り出し、思い切り振りかざす。


 …今度はゴッ、というような鈍い音とともに、振りかざされたボトルは谷保さんの首元に襲いかかった。


 「これはダメだな。」


 「行こう。すずめ死んじゃう。」


 俺と溝口は立ち上がり、体育館裏へ向けて駆け出した。




 体育館裏への曲がり角、俺と溝口は互いに目配せし、ゆっくりと歩き出す。


 「ごめんね、私の探し物なんか手伝わせちゃって」


 あくまで偶然を装うべく、溝口は不意にこんな事を言い出した。完全に彼女のアドリブだが、ここは俺も乗っかるのがベストだろう。


 「どうせ暇だし別にいいよ。あれ?そこに誰かいる?」


 谷保さんと菊名が視界に入った。


 「あ、谷保さん達か。お疲れ様。谷保さん、この辺での溝口のスマホ見てない?」

 

 溝口のスマホはもちろん体育倉庫からこちらを撮っているのだが、彼女達の会話を止めるのが最優先と判断し、俺は声を掛ける。


 「…見てないよ。」


 目を逸らし、菊名の顔色を伺うような素振りを見せる谷保さん。かなり重症なようだ。


 俺はどうしたものかと思案していた。


 「すずめ、体調悪そうだね。保健室行こっか?」


 ここで溝口が保健室を提案した。その手があった。俺もここは同意し、休息を促す。


 「いや、でも、仕事あるし…」


 谷保さんは遠慮がちにまた目を逸らす。ここぞとばかりに菊名は顔を上げて言う。


 「すずめちゃんに居なくなられると困るなぁ…お仕事回んなくて大変なのよね…」


 お前、あれだけの事をしておいてよくそんな事言えるなぁ、と俺は思わず関心してしまった。しかし、なんとしても谷保さんはここで菊名から引き剥がしておきたい。

 

 「俺、今日暇だし仕事手伝うよ。谷保さん休ませてやって。」


 谷保さんへ本心の笑みと、菊名への作り笑顔を向けて、溝口に谷保さんを連れて行くように促した。





 「ごめんね、えーと…ナニ君だっけ?」


 菊名は頬に指を当て、覗き込むような動きをして俺の名前を問う。


 「新庄。君は…菊名さんだったっけ?」


 嫌でも覚えてしまった、反吐が出るような名前を聞き直し、水道の手前に座り込んでボトルに水を入れる作業を進める。


 「手慣れてるね。」


 「俺、一応野球部だし。うちの野球部マネさんいないから、こういうの部員の仕事でさ。」


 「そっか、大変だね。」


 「…」


 気まずい時間が流れる。何か話すこと…


 「谷保さんの仕事ぶりはどうですか。」


 「仕事、上手だよ。めんどい仕事も嫌な顔ひとつせずやってくれるしさ。いい子だよ本当に。」


 「…そうすか。」


 自分は会話力はかなり高い方だと思っているが、嫌いな相手と話すのはかなり苦手…というか嫌いだ。嫌な面ばかり見えてしまってどうにも話が入ってこない。


 「谷保さん、疲れてそうだったんすよね、最近。」


 「そうだったんだ…気づいてあげられなかったな。私もまだまだだぁ…」


 気づくも何も、疲労の原因が何を言っているんだろう。平気な顔で嘘を吐くこの女と会話するのはかなりこちらの気持ちが良くない。


 「ボトル運んだら、谷保さんの様子見てきて良いすか?」


 「うん、ありがとね、新庄くん。」


 ボトルをカゴに詰め直し、体育館の入口まで運んだ所で菊名と別れ、保健室とは別の方向へ向かった。

 





 「これは…潰さないとダメだな。」


 俺は、菊名を真剣に潰すことに決めた。


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