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第1話 恋バナヲタク



 俺、新庄樹喜は多分、恋バナオタクってやつなんだと思う。


 アイツが告った、告られた。振った振られた好きだ嫌いだ…そういう類の話をかき集めるのが堪らなく好きだ。


 そういう類の話は決まって『交換条件』で仕入れる。「アイツの情報をくれてやるからなんか面白いネタを教えて…」そしてそこで得たネタを餌に別のネタを仕入れる…


 …性格悪い?知ってる。周りの奴ら含めて。だからこそ俺には色んな話が入ってくるし、様々な方向にパイプを敷いてある。こんなキャラも悪くないもんですね。


 そんな恋バナヲタク、新庄樹喜に、今日もオモシロい話が舞い込みます。




 6月の末の昼休み、梅雨終盤の大雨で湖と化したグラウンドに弁当を食いながら目を下ろし、俺は今日の部活は無くなるかもとニマニマした気分でいた。


 「今日部活無くなるんちゃう?この雨。」


 全く同じことを考えていたのは、同じ野球部員の小杉武蔵だった。


 手元のスマホの雨雲レーダーに目を下ろすと、授業の終わる4時頃には雨は降り止み、気温も上がって蒸し暑くなるようだ。ここはぬか喜びさせておこう。


 俺が次に口にする弁当のおかずを思案していると、小杉は思いついたように口を開く。


 「新庄聞いたか?2組の長津、バスケ部のマネージャーの菊名に告ったらしいやん!しかも付き合い始めたんやと!」


 少しガッカリして、溜息をつく。


 「アレつい昨日破局したよ、菊名は長津のコト元から好きじゃなかったけど勢いでOKしちゃったんだと。あとそれ1ヶ月前の話な」


 昨日の深夜に入ってきた話だが、すぐ有名になるだろうから言い渋らなくても良いだろう。


 「ほんまに?俺めっちゃ応援してたのに…ってお前、どこからそんな話聞いてきたんや。」


 次のおかずを卵焼きに決めて、口に運ぶ。


 「あの手のカップルが長続きする訳ねーだろ、別れるんじゃねーかと思って2組の友達に聞いてみたんだよ。」


 「お前、凄いけど…恋バナばっか集めて楽しそうやな。」

 

 「まぁな」


 皮肉を込めて贈られた一言に苦笑して、弁当箱を閉じる。


 「俺、恋バナヲタクなもんで。」


 「変なやつやな、変態や変態。」


 会話を終えた俺は、図書委員の当番に行くと言って席を立った。



 図書室の奥にある書庫で本の整理を黙々としていると、扉が開き、声がした。


 「あの、新庄くん、ちょっといい?」


 丸いふちのメガネをかけた猫背の女は、同じ図書委員の溝口茜だった。


 「新庄くんって、2組の女子のコト、詳しい?」


 「誰かによるけど…何で?」


 「菊名さんについて知りたいの。」


 女子が女子の事知りたいなんてケースは珍しい。多様性の時代かとも思ったが、彼女の真剣な目つきを見るにそういうわけではなさそうだ。


 「何で?」


 俺は探るような視線を彼女に向ける。



 「あいつ、いじめっ子なの。潰してやりたくて、弱みが欲しい。弱みを握るなら、新庄が1番知ってそうだと思って。」



 彼女は語気を強め、睨むような目を俺に向けた。驚いた。天真爛漫な菊名がそんなことを…とにかく、本当かが知りたい。



 「本当?証拠はある?」



 そう聞くと、溝口はスマホの画面を差し出し、動画を俺に見せた。


 画面では、普段明るく振る舞う菊名が


 『ガチ気持ち悪い。こっち見ないで!』


 とヒステリックに叫び、飲み物を浴びせた後、何やらブツブツ言いながら空のペットボトルを投げつける映像が再生されていた。


 「これ、マジかよ…」


 俺はこの女の思わぬ一面に言葉を失ってしまった。


 「大マジだよ。この動画だけじゃない。日常的に、毎日毎日こんなコトばっかりされてて…バスケ部のマネージャーも辞めちゃうらしい。」


 「この子って、もしかして…」


 飲み物を浴びせられ、下を向くショートカットの女子に人差し指を当てて聞く。俺は彼女に見覚えがあった。


 「同じクラスの谷保すずめ。私、すずめと同じ中学校でさ、仲良くしてたんだよね。」


 「私、こいつの弱みが欲しい。すずめを助けたいの。力を貸して。」


 まっすぐこちらを見つめる溝口。復讐欲に満ちた恐ろしい目に、応えてやらない訳にはいかなかった。


 「いいぜ。一緒にいじめっ子潰してやろう。」


 「ありがとう。一緒にアイツぶっ潰そう。」


 これが、俺と溝口の奇妙な関係の始まりだった。





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