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“The Reddest World”  作者: ワルツ
第1部:裏切りの物語
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第1部・24

なるべく息を止め、物音を立てないよう気をつけながら奈々は霧也を追った。

霧也の姿はもう見えなくなっていたが行った場所に心当たりがないわけではなかった。

先ほど霧也は目の前に大きな城があるというのに休憩しようなどと言い出した。

城に入られるとまずい理由でもあったのかもしれない。

奈々は先ほどの城へと向かった。

レデストワールドに来てから一人で行動するのは初めて。

不安で足が震える。けれど立ち去った霧也をそのままにしておくわけにはいかなかった。

奈々は物陰から城の様子を伺った。

城の前に広がる庭園にケモノが沢山蠢いているのが見える。

奈々は身震いした。来た時よりは慣れたがやはり恐怖は消えない。

そんな時、ケモノ達の鳴き声が急に激しくなった。

奈々は静かに様子を伺う。

その時、銃声が三発、空に響いた。

奈々はその様子を見た途端、自分の予感が正しかったことを知った。

ケモノを撃ちつつ、城に向かって走る霧也を奈々はその目で見た。

絶望感が走る。その城に誰がいるというのだろう。

霧也は必死の形相で城を目指す。

そんなに霧也が必死になる相手なんて一人しかいないのではないのか?

その時、霧也の前方に二匹のケモノが立ちはだかった。

さすがに霧也も立ち止まる。

このまま食いちぎられるのか。その時だった。

どこかから聞き覚えのある歌声が聞こえてきた。

天使のような澄んだ美しい歌声。

純白の声が響き渡る。

だが今の奈々にとってはそれは悪魔の歌でしかない。

間違いなく栄恋の声だ。

そして栄恋の声に応えるように銃声が響く。

霧也の目の前にいた二匹のケモノは首から血を流して息絶えた。

そして霧也は重たい戸を開き城内へと入っていった。

それを確認してから奈々は飛び出す。

庭園を走り、城へと向かう。

たくさん蠢いていたケモノ達は霧也がかなり倒してしまっていたので襲ってくるものは少ない。

だがそれでも奈々目掛けて走ってくるものが何体かいた。

奈々はとにかく走る。チェーンソーを振る回数なんて少ない方がいい。

だがそれを許さないかのようにケモノが立ちはだかる。

やはり、戦うしかないらしい。

奈々はチェーンソーを取り出してスイッチを入れる。

残酷な機械音。そして奈々はケモノに向かって突っ込んでいった。

そしてケモノに向かって切りかかる。

だがケモノは奈々の攻撃を巧みに避ける。

けれど奈々も負けてはいない。

ケモノが横に避けた隙に奈々はケモノを無視して城へ走り出した。

それを見たケモノが後ろから奈々に襲いかかる。

だが奈々の狙いはそこだった。逃げようとすればケモノは必ず後ろから奈々を襲うに決まっている。

くるりと振り向いて奈々は襲いかかってくるケモノの頭を切り裂いた。

飛びかかってくる勢いのおかげで血がきれいに舞う。

そしてケモノは地面に倒れ込み、息絶えた。

奈々は急いでいたのにすぐそこを離れられなかった。

ケモノの亡骸はもう動かない。

今度は人の亡骸を見る羽目になるのだろうか。それとも自分が亡骸になるのだろうか。

本音を言うとどちらも嫌だった。

だが感傷に浸っている暇はない。他のケモノ達の鳴き声が聞こえてくる。


「…急がなきゃ。」


そう呟いて奈々は城の入り口へと走った。

近くで見るとその城は見たこともないくらい大きい。周りの遊園地に似合わないくらいに。

栄恋の歌声はまだ聴こえてくる。

奈々は上を見上げ、声がしてくる階の窓を睨みつけた。

そして重い扉を開けて奈々は中へと入った。

中は薄暗く、とても広かった。

石造りの床のせいで足音がよく響く。

奈々は恐る恐る奥へと進んだ。

脇には鎧の騎士が何体も立っている。

天井のシャンデリアはとても上品なデザインなのに今は錆びて汚れていた。

やがてたどり着いた大広間。

奥にはステンドグラスがあって外からの光が射し込んでいて明るい。

大広間は目眩がするくらいに広く、いくつも廊下が伸びていた。

これでは霧也がどちらに行ったのかわからない。

大広間の真ん中で奈々は困って辺りを見回す。

行き先に迷っていた時だった。

階段を上がっていくような音が聞こえた。…右だ。

奈々は右に向かって走り出す。

たしかに足音が聞こえる。そう遠くない。

廊下には部屋への扉はたくさんあったが階段はなかなか見つからない。

でもあの足音は確かに階段を登る音だ。

途中曲がり角がいくつもあって困ったが奈々はとりあえず真っ直ぐ進む。

そしてもうすぐ突き当たりという時、見えてきたものは石造りの螺旋階段だった。

奈々は螺旋階段の前で立ち止まって耳をすます。

上の方からかすかに足音が聞こえる。

間違いなくこの階段の上からだ。

奈々も急いで階段を駆け上がる。

両端を石の壁で覆われているので螺旋の終わりは全く見えない。

薄暗い階段をただ登っていく。

どうしてこんなことになったのだろう。

本当に霧也は奈々たちを裏切ったのだろうか。

いつから裏切ったというのだろう。

まさか最初から奈々たちを裏切っていたのだろうか。

そういえば霧也は以前にも栄恋たちに会ったことがあると言っていた。

その時霧也と一緒にいた人を殺されたと。

ならどうしてその人だけ殺されて霧也は助かったのだろうか。

その時に慎達と手を組んでいたとしたらありえるのではないだろうか。

ただの考えすぎということもあるかもしれないがその恐ろしい推測は妙に奈々の中に残る。

絶望感が消えない。

また裏切られたのか?どうしてみんな人を裏切るのだろう?

悲しみと同時に沸いてきたのは強大な怒りだった。

階段を登る足が速くなる。

疲れなんてもう気にならない。

裏切り者への怒りが奈々を駆り立てる。

上へ上へ、階段を登り続ける。

登れば登るほど怒りがこみ上げてくる。

チェーンソーを持つ手が強くなる。

もういつでも応戦できる。

上から光が射し込んできた。

そしてついに階段を登りきった時だった。

奈々は急にチェーンソ刃を盾のように自分の顔の前に構えた。

その時、銃声が響き渡った。

銃弾は奈々の顔めがけて飛んできたがチェーンソーの刃がそれを受け止めて弾いた。

手首に衝撃が走るが怪我はない。

奈々はチェーンソーを下ろし、その先にいる人物を見つめる。

手に煙立つ銃を握り、こちらを見つめている。

右目のスコープアイが奈々を捉える。

それは今まで仲間だったはずの人物……竹内霧也。

そして後ろには五月原栄恋がいた。

霧也は銃を構えたまま、驚いた表情で奈々を見た。


「川崎さん…」


奈々は自分のチェーンソーを見た。

銃弾が当たった部分の刃がへこんでいる。

もしチェーンソーで受け止めていなかったら奈々は銃弾に頭をえぐられて死んでいただろう。

奈々は確信した。この人は敵だと。

奈々は霧也を睨みつけた。


「…やっと会えたね、裏切り者。」


確信は怒りに変わる。

斬り殺せそうなくらいの鋭い目つきで霧也を睨みつけた。




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