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“The Reddest World”  作者: ワルツ
第1部:裏切りの物語
18/45

第1部・17

隙を見て霧也が慎が隠れている瓦礫の方に銃を打ち始めると同時に、奈々と鏡は栄恋の隠れている瓦礫の方へ走り出した。

霧也の銃撃が止むたびに瓦礫に隠れながら少しずつ栄恋に近づいていく。

なんとかして栄恋に近づいて手に持っているナイフを弾き飛ばしてしまえば多分スタングレネードを奪うのも簡単だろう。

けれど頭ではそう考えられても実際やろうとすると恐怖がこみ上げてくるのも事実だった。

そんな気持ちをどうにかして抑えながら二人は少しずつ進んでいった。

霧也も今はどうにか慎を抑えられているようだ。

奈々は瓦礫の影から栄恋のいる方を見た。


「…んー、もう少し背の高い瓦礫ないのかなあ…」


奈々は渋い顔で呟いた。

栄恋の周りにはしゃがめばやっと全身が隠れるくらいの高さの瓦礫しかない。

このまま栄恋に近づくと、弾切れなどで霧也の銃撃が一瞬止まった時に慎に撃たれるかもしれない。

慎のいるところからは相当離れているのでピンポイントで急所を撃たれることはなさそうだが、銃弾がうっかり足に当たったりしたら走るのも辛くなるだろう。

どうにかできないかと奈々は辺りを見回した。

だがその時、栄恋が奈々たちの方に走り出してきた。

奈々のチェーンソーを持つ手に力が入る。

だがここで栄恋と戦うと慎からの銃撃を受ける可能性があるので少し危ない。

奈々はキョロキョロ辺りを見回し、少し離れたところにあるアイスクリーム屋の屋台らしきワゴン車に目を付けた。


「鏡、ちょっと走るよ。」


「え、どこにだよ?」


「もう、能なしだなあ。あのワゴン車だよ!」


そう言って奈々は鏡を引っ張りながらワゴン車の方まで走った。

すかさず栄恋が追ってくる。

奈々たちは急いでワゴン車のところにたどりつくと、ワゴン車の後ろに回り込んだ。

霧也のいる場所からは大分離れてしまうがここなら慎の銃撃の影響はなさそうだ。

だが安心はできなかった。

誰かが走ってくる音がすると同時に栄恋が奈々たちの目の前に現れた。

やはり栄恋は慎のためには一歩も退く気はないようで、両手にはナイフがキラキラ光っている。

奈々は栄恋に言った。


「…見逃してくれるよう、お兄ちゃんに言ってくれない?」


栄恋は首をふった。

そして走り出して奈々をナイフで斬りつけようとした。

奈々はすぐにそれをチェーンソーで受け止める。

だが先ほども思ったことだが栄恋は相当力が強い。

奈々はすぐに後ろへはねとばされてしまった。

栄恋はそれを見逃さず、ナイフを奈々の方に突き出したが、鏡がすかさず間に入って刀でそれを止めた。

栄恋はそれでも全く退く様子はなく精一杯の力でナイフを押した。

鏡も負けじと刀を押す。


「…ったく、なんだよこの怪力アイドル…!」


二人はお互い全く譲る様子はなかった。

両者は互角で一歩も動く様子はない。

奈々の方もこのチャンスを逃す気は全くなかった。

そしてすぐに体勢を立て直して栄恋の方へと走り出した。

栄恋はそれに気づくとすぐに後ろに退いて奈々と距離をとった。

そして栄恋はポケットから何かを取り出した。それは丸い手榴弾だった。

奈々はピタリと足を止めた。

手榴弾の爆発なんかに巻き込まれたらひとたまりもない。


「やべっ、奈々、逃げるぞ!」


「え、でも…」


奈々は何かおかしいと思った。

ここで手榴弾なんて投げたら下手すれば奈々たちは死ぬかもしれない。

そうすればこのゲームの勝者は栄恋となり、それ以外の人は死ぬだろう。

けれど、栄恋は完全に慎のために行動している。いくら慎の願っていることがわからないとはいえ、栄恋が慎が死ぬように行動するわけがない。

そうなるとこの手榴弾は…


「偽物だっ!」


奈々はすぐさま栄恋の方に駆け出した。

栄恋は奈々が手榴弾に怯えず突っ込んできたことに驚いたのか、対応が普段より遅れた。

その隙に奈々は栄恋の横に回り、素早く栄恋の手榴弾を弾き飛ばした。

手榴弾は硬い音を立ててコンクリートとぶつかりどこかに転がっていった。

栄恋はすぐに今度はナイフを取り出す。手榴弾を拾おうとしない辺り、やはりあれは偽物なのだろう。

だがすぐに鏡がナイフを弾き飛ばし、栄恋に刀を突きつけた。

奈々もすぐに栄恋の後ろにつく。

栄恋は悔しそうな表情でその場に立ち尽くすだけだった。

もう栄恋は抵抗する様子はなかった。

鏡が栄恋に言った。


「スタングレネード持ってるよな?

 それ一つよこせ。」


栄恋は首をふった。

栄恋の目は相変わらず鋭かった。

だがその時、突然ワゴン車の反対側のどこかから大きな爆発音が聞こえた。

あまりに急すぎる出来事に奈々は思わず震え上がる。

それから何か重たいものがコンクリートの地面に落ちる音がした。

奇妙なその音を聞いた奈々は嫌な予感がした。あの方向は霧也がいる方向だ。

爆風が消えたのを見るとすぐに奈々はワゴン車の反対側へと走った。

そこには銃が落ちていた。おそるおそる奈々は拾い上げる。

嫌な予感は的中した。紛れもなくそれは霧也の銃だった。

奈々は顔を上げて先ほどまで奈々たちがいた方角を見た。

そこには地面に座り込んでいる霧也と、霧也に銃を突きつけている慎がいた。


「ごめん…」


霧也は小さな声で奈々にそう言った。

慎は冷たい表情のままで、霧也に銃を突きつけたままだ。

先ほどの爆発音はおそらく慎のせいだ。

きっと隙を見て手榴弾を投げ、霧也がその場から逃げようとした隙に一気に近づき、銃を弾き飛ばしたのだろう。

手榴弾は栄恋が渡したのかもしれない。

再び辺りに緊張が走った。

奈々は少し震えながらも再びチェーンソーを強く握った。

慎は霧也に銃を突きつけたまま奈々に言った。


「動くな。動いたらこいつの命はないからな。」


慎は奈々を睨みながらそう言った。

再び悲しさがこみ上げてくる。けれどそんな悲しさに浸る暇さえ今はない。

すると今度は後ろから鏡の声が聞こえた。


「じゃあそっちこそ動くなよ。こっちにも人質はいるからな。」


鏡は栄恋の腕を掴みながら刀の刃の部分を栄恋に向けていた。

栄恋は悔しそうな顔をしているが今はおとなしかった。

だが栄恋が人質にとられているのを見ても慎は表情一つ変えずに言った。


「栄恋がどうなろうと俺には関係ない。

 こっちには銃がある。それに石化の能力もな。

 撃たれたくなかったらおとなしくするんだな。」


「こっちにも竹内君の銃があるよ?」


「生憎だな。そいつは弾切れだ。」


奈々は言葉に詰まった。

どうすればこの状況を切り抜けられるだろう。

ただがむしゃらに逃げ回るだけではいかない。

とりあえずこの場から逃げる手段を考えなければならない。

その時、鏡が何かを取り出した。


「じゃあこれならどうだ?

 こいつの持っていた手榴弾だ。」


それは先ほど栄恋から弾き飛ばしたダミーの手榴弾だった。

きっと鏡が拾っておいたのだろう。

だが慎はそれがダミーだなんてことは知らない。

ダミーだということに気づかれなければこの場を切り抜けられるかもしれない。

鏡が慎に言った。


「いくら銃を持ってても爆風に巻き込まれたらどうにもならねえよ?」


「けれど手榴弾は銃弾と違って逃げようがあるな。」


「でもそう簡単に逃げられるのかな?」


慎の言葉を聞いた奈々が言った。

そして精一杯の余裕を気取って言った。


「ここにはワゴン車ってものがあるんだよ?

 爆発でガソリンに引火したりしたらどうなるだろうね?」


奈々は強気のふりをしてそう言った。

どうかこれで退いてほしい。これ以上戦うのはごめんだ。

慎は鋭い目でこちらを見ながら何も言わない。

奈々は慎に言った。


「ここはお互い退こう?

 こっちは栄恋さんを返す。だからそっちも竹内君を返して。

 それでお互いこの場から去ろう?

 立ち去る間に危害は加えないこと。

 …これでどう?」


慎は何も言わなかった。ただ冷たい目だけが奈々を捉えている。

これで応じてくれなかったらどうしよう。奈々は不安で仕方がなかった。

緊張した空気が流れる。返事はまだない。

奈々自身の心臓の音だけがドクンドクン自分の中に響いていた。

やがて、慎は銃を下ろして言った。


「わかった、いいだろう。」


その途端、素振りは見せなかったが奈々はかなりほっとした。

慎が銃を下ろしたのを見て霧也は立ち上がって奈々たちの方へ歩いてきた。

鏡も栄恋を離した。栄恋は鏡を一度睨みつけてから慎の方へと走っていった。

霧也に特に大きな怪我はなさそうだった。

二人が戻ったことを確認してから奈々は慎に言った。


「じゃあ、ここから立ち去る間にお互い危害は加えないこと。いいね?」


「ああ、わかっている。」


慎がそう言ってから、両者共ゆっくり歩き出した。

張り詰めた空気はまだ消えはしない。

どちらもチラチラ後ろを見たりして後ろを警戒しながらゆっくりゆっくり歩いていく。

そして慎たちの姿が見えなくなったことを確認して、奈々たちはようやく「戦場」からまた荒れ果てた遊園地の中に戻っていった。



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