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“The Reddest World”  作者: ワルツ
第1部:裏切りの物語
17/45

第1部・16

慎と鏡。二人はそれぞれ武器を構えて対峙する。

鏡の後ろにいる奈々も悲しく思いながらも武器を構えた。

やはりこうして戦うしかないのだろうか。

悲しい静寂が辺りを包んだ。


先に動いたのは鏡だった。

鏡は突然走り出し、慎の後ろに回り込もうとする。

同時に何発もの発砲音と銃弾が鏡を追う。

鏡は立ち止まらず走りつづけてなんとかそれをかわしきったが、慎との間合いは狭まらない。

その時、今度は奈々が走り出し、チェーンソーを大きく振り回した。

慎はそれをすべて素早くかわした。


「お兄ちゃんと戦いたくはないよ。

 けど、私に味方してくれてる鏡を傷つけるのは見過ごせない。」


奈々はそう慎に言った。

そして、もう一度チェーンソーを振り回した。

だが慎はそれをすぐによけると、奈々の後ろに回り込んだ。

そして奈々の後頭部に銃を突きつけようとした時だった。

慎は急にその場にぺたりとしゃがみこんだ。

その途端、先ほどとは違う発砲音が二回響き渡った。

銃弾は慎の頭の上を通過していった。

奈々は銃弾が飛んできた方向を見た。


「僕もいるってこと忘れちゃ困るな。」


そこには先から煙の出ている銃を構えている霧也がいた。

その時、今度はまた鏡が慎に向かっていった。

慎との距離を縮め、慎に切りかかろうとする。

だがその時、カチンと硬い音が響き渡り、鏡の攻撃が阻まれてしまった。

鏡の表情も険しくなる。間に入った人物が誰だかはわかりきっている。

そこにいたのは2本のナイフで鏡の刀を受け止めている栄恋だった。

二人は互いに力いっぱいせめぎ合い、両者共一歩も譲らない。

だがその時、立ち上がった慎が銃を鏡に向けようとした。

それに気がついた鏡が一歩下がり素早くしゃがむ。

それと同時に発砲音が鳴り響き、鏡の頭の上を通り過ぎる。

だがその時、栄恋が一歩下がって何かを取り出した。

だが後ろからなので栄恋が何を持っているのかよく見えない。

そして、素早くそれについているピンを抜いた。その時、ちらりと栄恋が持っているものが見えた。


「まずいっ…」


奈々はいきなり走り出すと、無茶苦茶に鏡の腕をつかんだ。

それと同時に、栄恋が手に持っているものを投げた。

それは、パイナップル型の手榴弾だった。

鏡の手を離さずに奈々は全速力で走りつづけた。

あの爆発に巻き込まれたらひとたまりもない。奈々と鏡は急いでお化け屋敷の影に隠れ込んだ。

その時、手榴弾が爆発した。

ひどく大きな音と灰色の煙が辺りを包み込む。

二人はなんとかそれをよけきった。幸い怪我は二人ともない。

だが安心してはいられなかった。

すぐに誰かが走ってくる音が聞こえてきた。奈々はチェーンソーを持って立ち上がる。

その時、煙が晴れると同時に栄恋がナイフで奈々を斬りつけようとした。

奈々はなんとかそれをチェーンソーで受け止める。

油断していた。栄恋は手榴弾の爆発の衝撃でできた土煙の中を通ってきたのだ。

栄恋の力は思っていたよりもずっと強く、奈々はだんだん壁側へと押されはじめた。

正直、鏡と互角というのも納得だ。だがここで追い詰められてはいけない。

奈々は足に力を入れ、チェーンソーで栄恋を強く押した。

その時、再び発砲音が響き渡った。

銃弾は一ミリの狂いもなく栄恋のナイフに当たり、弾き飛ばした。

ナイフはくるくると天高く舞い上がり、やがて冷たい音を立てて地面に落ちた。栄恋は銃を撃った人物の方を見た。

そこには、スコープアイでしっかりと栄恋に狙いをつけている霧也がいる。


「もうやめな。おとなしく言うことを聞いてくれたら撃たないから。」


栄恋は言うことを聞く様子はなく、ポケットから再びナイフを取り出そうとした。

だが誰かが栄恋の腕をつかみ、それを止めた。

栄恋は最初すぐにそれを振り払おうとしたがすぐにやめた。

首のすぐ後ろに日本刀を突きつけられていたからだった。


「武器を捨てて、すぐにどっか行け。

 人殺しなんてしたくねえし、見逃してやるから。」


栄恋は前を見た。前にはチェーンソーを構えている奈々がいる。

栄恋の表情が険しくなった。

その時、急に霧也がハッとしたような表情をしたかと思うと、銃をしまって奈々たちの方に走ってきて二人に叫んだ。


「伏せろ!」


理由はわからなかったが、奈々と鏡はすぐにその場に伏せ、霧也もしゃがんだ。

すると、突然パキパキと妙な音が聞こえた。

奈々は不思議に思ってしゃがんだまま後ろを向く。すると、さっきまで木製だった後ろのお化け屋敷の建物が石に変わっていたのだった。

奈々は驚き、慎の方を見た。

奈々は慎の目の色がいつもと違い、赤くなっていることに気がついた。

少しすると、慎の目の色はいつもと同じ色に戻った。そういえば、霧也も能力を使う時に目が赤くなる。

奈々はこれが慎の能力、『メドゥーサ』だと思った。

その時、慎が奈々たちの方を見た。するとまた霧也が叫んだ。


「二人とも、逃げろ!」


奈々と鏡は霧也の声を聞き、すぐに立ち上がって走り出した。

それと同時に慎の目が奈々たちを追ってくる。

慎の視線が通った跡は次々に石になっていった。

鏡が怒鳴った。


「何だよこれ!」


「多分これが『メドゥーサ』なんだと思うよ。」


奈々が走りながらそう言った。

霧也が困った様子でつぶやく。


「視線が合っただけでアウトだね。…まいったなあ。」


奈々も悲しそうにうなずいた。

奈々たちはしばらくの間、逃げ続けているしかなかった。

このままではいけない。そう思った時、急に攻撃が止み、慎の目の色ももとに戻った。


「へえ、どうもあまり長時間は使えないらしいね。」


その様子を見た霧也が言った。

奈々たちは攻撃が止んだのを見て立ち止まった。

攻撃は止まったものの、もう大分息が上がっている。足も痛い。

これを何度も続けられたらきっともたない。

奈々たちが逃げ回っている間に、栄恋は慎の近くまで戻っていたようだった。

慎が栄恋に何か言っているのが見える。

すぐにまた来るなと奈々は思った。

鏡が舌打ちしながら言った。


「くそっ、どうする?

 あの石化の能力だけでもうざいのに、あの女が動き出すとよけるどころじゃなくなるぞ?」


奈々は焦りながら辺りをキョロキョロ見回した。

そして、お化け屋敷の建物の瓦礫を見つけると指差して言った。


「あそこ!あそこに一旦隠れようよ。」


奈々はそう行って素早くその瓦礫の後ろへと向かった。鏡と霧也も続いていく。

それと同時に再び慎の目が赤くなった。

同時に後ろの方のものがどんどん石に変わっていく。

そんな中、三人はなんとか瓦礫の後ろに隠れた。

それと同時に慎の赤い目がその瓦礫を捉えた。

ドクンと心臓の音が一瞬大きくなった。

パキパキという音をたてて何かが石になっていくのがわかった。だがそれは奈々たちではなかった。

石になったのは後ろの瓦礫だけだった。

どうやら石化できるのは目に見えているものだけのようだ。

鏡が言った。


「よしっ、ここに隠れてりゃ石化のほうは安心ってことか!」


「油断は禁物だよ。

 もし栄恋に手榴弾を投げられたりしたらここに隠れてはいられないからね。」


霧也は冷静にそう言うと、銃に弾を入れて、瓦礫の後ろから注意深く様子を伺った。

ここなら、栄恋が近づいてきても霧也の銃で牽制できる。


「もし栄恋が近づいてきたら、川崎さんがナイフを受け止めて、鏡が動きを抑えてくれる?

 多分栄恋はスタングレネードも持っていると思うからそれを取って、それを使ってとりあえず逃げよう。

 川崎さんのお兄さんの方は僕が牽制する。」


奈々は複雑そうな表情でうなずいた。

慎が栄恋に何か言っているのが見える。きっとすぐに二人はこちらに攻撃してくるだろう。

奈々は警戒しながら瓦礫の後ろに身を潜めた。

嵐の前触れのような緊張した沈黙が苦しい。

そして、突然発砲音がいくつも響き渡った。

発砲音がやむとすぐに霧也も銃を撃ち始めた。

発砲音が激しくて後ろの様子を伺うことができないが、一瞬の油断も許されない状況だということはわかる。


「栄恋を止めようとすると川崎さんのお兄さんが撃ってくる。

 栄恋が近づいてきてるから気をつけて。」


奈々と鏡がうなずいた。

奈々は少しだけ瓦礫から顔を出した。

霧也が銃を撃っている方向にも瓦礫があり、そこから時折銃弾が飛んでくる。慎はあそこにいるようだ。

一方栄恋は全く別のところの瓦礫に隠れていて、慎が撃ち始めると別の瓦礫に移っていく。

近づかれるのは時間の問題だなと奈々は思った。


「竹内君、しばらく時間稼いでもらえる?

 私たちも移動して五月原栄恋からスタングレネード捕ってくる。」


「いいけど、大丈夫?」


「ここでぶつかることになると竹内君がお兄ちゃんに牽制しにくくなるでしょ?」


「よし、わかった。」


霧也は改めて大量の銃弾を銃に装填した。

奈々は鏡に目で合図した。

鏡もしっかりと頷く。

強い恐怖に胸を押しつぶされそうになりながらも、奈々はチェーンソーを握りしめた。


「よし、行くよ!」


霧也がそう言うと同時に、慎のいる瓦礫に向かって何十発もの銃弾が撃ち込まれ始める。

おかげで慎は銃を撃ってこなくなった。

そして、奈々と鏡は栄恋のいる瓦礫へと走り出した。



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