表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“The Reddest World”  作者: ワルツ
第1部:裏切りの物語
12/45

第1部・11

奈々たちは再び遊園地の方に戻ってきた。

赤い月に照らされたメリーゴーランドやゴーカートが不気味に見える。

物陰にケモノや他の人が潜んでいるかもしれないと思うと恐ろしかった。

奈々たちはメリーゴーランドの裏からジェットコースターのレールの下を通り抜け、様々なアトラクションの乗り場の裏の暗い路地へとたどりついた。

奈々たちは周りに誰もいないことを確認すると、立ち止まり、三人ともその場に座り込んだ。


「とりあえず、遊園地の方まで戻ってきたね…」


「あいつらいねぇなあ…」


「そんなに簡単には見つからないと思うよ。

 とりあえず、手当たり次第に探してみよう。」


霧也がそう言い、奈々と鏡は頷いた。

奈々は辺りを見回した。周りには様々なアトラクションが立ち並び、視界を妨げていた。

多分これがなかったらもっと広々していて、慎を探しやすくなるのだろう。


「しっかし、広くて入り組んだ遊園地ってのも考えものだな。

 これじゃいつまで経っても見つからねえよ。」


「駄目だなあ、鏡は。」


奈々がそう言うと鏡は少ししょぼくれて下を向いたが奈々は気づかなかった。

奈々たちはそこから遊園地の中心部の方へと歩き始めた。

建物や乗り物の影に身を隠し、人やケモノに見つからないようにしながら進んでいく。

先頭に鏡が立ち、奈々が左右に注意しつつ続いていき、最後に霧也が後ろから誰か来ないか見ながら行った。

いつでも応戦できるようにと、三人ともそれぞれの武器を構えながら注意深く歩いていった。

途中で何度も疲れた顔をした人や、獲物を探し回るケモノを見かけた。そのたびに、特に人を見かけた時に奈々は怖くて震え上がりそうになる。

多分、鏡や霧也だったら人よりケモノの方が怖いと言いそうだが、奈々はどうしても人を見るたびに右手の入れ墨のことが気になってしまうのだった。

奈々たちは順調に進んでいった。

だが、途中で曲がり角を曲がろうとした時、突然鏡が止まった。


「しっ、…なんかいる!」


奈々と霧也も立ち止まった。

三人とも曲がり角のところを緊張しながら見た。誰もいない。

だが、耳をすますと誰かの足音が聞こえてきた。

誰かが曲がり角からやってくる。奈々はチェーンソーの持ち手を強く握りしめた。

すると、足音が止まった。向こうも奈々たちに気づいたのかもしれない。

すると霧也がこう言った。


「僕が様子を見てくる。

 二人ともここで待ってて。あ、後ろも油断したら駄目だよ。」


そう言って霧也が銃を持ってゆっくりと慎重に曲がり角へと近づいた。

霧也の足音が冷たいコンクリートの路地に響く。向こう側が動く気配はない。

霧也はコンクリートの壁に背中をつけ、曲がり角の端で少し止まり、向こう側が動かないことを確認すると、素早く角から飛び出し、角を曲がったところにいる人物に銃を向けた。


「動かないでください。

 何もしなければこちらも危害は加えません。」


霧也が誰かに銃を向けながらそう言っているのが奈々たちの所から見えた。

すると霧也が横目で奈々たちに来るように合図を送ってきた。

奈々たちも恐る恐る霧也の所まで歩いていった。

その間も霧也は相手に銃を突きつけていて、警戒体制を崩さなかった。

二人は霧也のところに辿り着くと、曲がり角のところにいた人物を見た。

目つきの悪い男性二人組だった。片方は背が高くて、もう片方は背は低かった。二人とも奈々たちより年上で大学生くらいに見えた。

背の高い方は銃を、低い方は包丁を手に持っていたが、霧也の方が構えるのが早かったようで二人とも怯えた顔をしながらこちらを見ていた。

背の高い方の男が言った。


「強いな、あんた。」


「乱暴なまねをしてすいませんでした。

 ちょっとお聞きしたいことがあるんですが…」


「ああ、何だ?」


背の高い男は落ち着いて武器を下ろしてそう言った。

どうやら攻撃されることはなさそうだし、奈々たちの質問にも答えてくれそうだ。

奈々は少しほっとした。霧也が続けて尋ねた。


「この辺りで背が高くて茶髪の男性を見ませんでしたか?」


「それだけじゃよくわからねえな。背が高くて茶髪の奴なんていくらでもいる。」


「たしかにそうですね、すいません。

 アイドルの五月原栄恋と一緒に行動している男です。」


それを聞いた途端、二人は青ざめて顔を見合わせてひそひそ何か話し始めた。

なぜ二人が急に青ざめたのか奈々にはわからなかった。横目で鏡の方を見てみたがどうやら鏡もわからないようだった。

そして、二人は奈々たちにおそるおそるこう言った。


「…なあ、あんたらそれって『メドゥーサ』じゃねえか?

 お、お前ら何でそんな奴…」


「…『メドゥーサ』?」


奈々と鏡はきょとんとして首をかしげた。

霧也が男たちに言う。


「何ですか?その『メドゥーサ』って。」


男たちはそれを聞くと不思議そうな顔をした。

そして二人でひそひそ何か話したかと思うと背の低い方が奈々たちにこう言った。


「あんたら『メドゥーサ』知らねえのか?

 有名だよ。その五月原栄恋と行動している男のことだ。

 非情な奴でさ、邪魔する奴には容赦ねえんだ。

 そいつの『能力』が視線の合った奴を石化させる能力で、ケモノも人も邪魔する奴はみんな石にしちまうからそんな異名がついてんだよ。」


「はあ…わかりました。ありがとうございます。

 それで、あなたがたはその『メドゥーサ』を…」


「見てねえな。見てたらこんなとこにいねえよ。」


残念だが慎に関する情報は得られなかった。

それにしても、奈々は慎がこの世界でそんなに有名だったなんて全く知らなかった。

慎がこの世界でそんなことをしているなんて信じたくなかった。

だが、先ほどの慎の様子を思い浮かべると奈々は何も言えなかった。


「そうですか…ありがとうございました。」


奈々たちはそう言って二人にお礼をして、曲がり角を曲がって歩いていった。

だが、歩き出して少しした時、急に誰かが後ろから走ってくる音がした。

奈々は急に怖くなった。鏡と霧也は気づいていないようで何も言わない。

だが、その音はどんどん近づいてくる。奈々は嫌な予感がして、今まで片手で持っていたチェーンソーを両手で持ち直した。

そして、足音が奈々の真後ろまで来た時、奈々は素早く振り返ってチェーンソーを大きく振った。


カチンと金属がぶつかり合う音が響いた。

チェーンソーの刃が刃渡り30センチほどの大きさの包丁を受け止めている。

先ほどの背の低い男が包丁を持って奈々に突っ込んでこようとしたのだった。

先ほどまで二人が攻撃してくる気配なんてまるで無かったものだから奈々はわけがわからず混乱していた。


「へえ、意外と反射神経いいな。」


背の低い男はそう言った。

男が奈々を押す力は強かった。だが奈々は負けじと力いっぱい押して、なんとか男を払いのけた。

だがその途端、奈々のこめかみに冷たい何かが突きつけられた。


「動くな。」


もう一人の背の高い男が奈々に銃を突きつけてそう言った。

奈々の背筋が震え上がった。鏡が荒い口調で言う。


「おい、何だてめ…」


「動くなよ。動いたらこの女撃つぞ。」


鏡は悔しそうに歯を食いしばった。

対して霧也は冷静にその様子を見ていた。

男は二人に向かって、どちらかというと霧也の方を向いて言った。


「二人共、武器を捨てな。あと食料もな。

 それと手の甲見せろ。ひょっとしたら『主人公』か『魔王』がいるかもしれねえ。」


鏡が憤慨して刀を振り上げようとしたが霧也が制止した。鏡は仕方なく引き下がる。

鏡はしばらく眉間にしわをよせて男を睨んでいたが銃を突きつけられている奈々を見ると舌打ちして刀を捨てた。

霧也も銃を捨てた。だが、鏡と比べるとかなり冷静だった。


「おい、本当にそれで全部か?

 まだ武器、隠し持ってたりしねえだろな?」


「え、全部ですけど。」


男はまだ霧也を睨んでいた。霧也たちよりも優位に立っているにもかかわらず男は慎重だった。

きっと、先ほど霧也が男たちが武器を出すより先に銃を突きつけたのを見て警戒したのだろう。

銃を突きつけている男は霧也の方ばかり警戒していて奈々の方は全く見ていなかった。

奈々はチェーンソーを強く握った。今ならいける、と奈々は思った。

奈々はチェーンソーを力いっぱい振り回した。


「ぎゃああああああ!」


鼓膜を引き裂くような悲痛な叫び声が響き渡った。

男の腕から鮮やかな赤い血がドクドクと流れ出ていた。

奈々はその時になってようやくスイッチを入れてしまっていたことに気がついた。

奈々は心臓の鼓動が急に早くなるのを感じた。そして、怖くなって思わず後ずさりする。

それを見たもう一人の背の低い男が少し怯えたような顔をした後、包丁を奈々に向けて突進してきた。

だがその時、霧也が素早く上着の内ポケットからナイフを取り出し迷わず男に突進して男の腹に突き刺した。

男は腹から溢れんばかりの鮮血を流し、目を一瞬大きく見開いたかと思うとそのまま地面に倒れこんで人形のように動かなくなった。


「う…あ…あぁ…ひいっ」


背の高い男はひどく青い顔をして奈々と霧也の方を見た。

そして銃を捨てて腕から血を流しながら逃げていった。


「大丈夫?」


霧也が奈々にそう言ったが、奈々は血のついたチェーンソーを握ったまま動けなかった。

胸の鼓動が鳴り止まない。手がまだ震えている。

先ほどの叫び声と流れ出る血の鮮やかすぎる赤が脳裏に焼き付いて消えなかった。

自分がやったのだ。自分がこの手で、人の腕を切りつけたのだ。

チェーンソーについた血がその証拠だ。

そんな自分が怖くて、恐ろしくて、許せなくて、奈々は震えて立ち上がれなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ