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“The Reddest World”  作者: ワルツ
第1部:裏切りの物語
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第1部・10

栄恋と慎は奈々たちのところから離れて再び歩き始めていた。

気がつけば周りの景色は花畑から再び遊園地に変わっていた。

栄恋は慎の後を必死に追いかけていく。慎は栄恋を待ってはくれなかった。

追いかけても慎は栄恋よりかなり背が高く歩幅も広いので全然追いつけない。

それでも栄恋は慎のことを追いかけていった。どうしても何かお礼がしたかった。

慎のために何かをしたい。なぜならこの人がいなければ、栄恋は声を失ってから二度と歌を歌うことなく死んでしまっていたかもしれないから。

そんな時、慎が急に足を止めた。


「ここまで来れば大丈夫だろ…」


栄恋はメモ帳を取り出してこう書き付けて慎に見せた。


『今の子はシンの妹?』


「ああ。」


そう言うと慎は黙り込んだ。

慎に妹がいたなんて知らなかった。まあ、慎は栄恋に自分のことを何も話さないから当たり前といえば当たり前なのだけど。

それにしても、慎は妹と仲が悪いのだろうか。正直言って栄恋は慎が奈々を突き飛ばした時、少し驚いた。

妹がいるとか、そのくらい教えてくれてもいいのにと栄恋は思った。愚痴でもいいから、何か自分のことを話してくれればいいのにと思った。

そんなことを考えていると、慎が急に栄恋に聞いた。


「…お前、あいつの右手、見たか?」


珍しいなと栄恋は思った。栄恋は慌ててまたメモ帳を取り出した。

あいつとは、きっとあの奈々という妹のことだろう。

けれど、あいにく栄恋は奈々の右手なんてしっかりは見ていなかった。

栄恋は仕方なくこう書いた。


『ごめんなさい、覚えてない。』


「…使えないな。」


栄恋は少し悲しくなって下を向いた。

せっかく慎の役に立てることがあったかもしれないのに自分は何をやっているのだろう。

そして、また慎は栄恋に背を向けて歩き出すのだろうと栄恋は思った。

だが、今日はそうではなかった。慎は話を続けた。


「…あいつの右手に、剣の入れ墨があった。」


栄恋は驚いて、しばらく何か答えるためにペンを動かすことすらできなかった。

あんなおとなしそうな子が趣味で入れ墨を入れることはおそらくない。

そして、剣の入れ墨は「主人公」の証。

つまり主人公は……


「主人公はあいつってことか。」


驚く栄恋とは対照的に慎は冷静な口調で言った。

慎が何を思っているかはよくわからなかった。

慎は自分の左手を服の袖から出して手の甲を見た。

慎の手の甲には、黒い大蛇の入れ墨があった。

そう、慎は「魔王」にあたるのだ。

つまりあの奈々という子が「主人公」なら、あの子を殺すことが、慎にとってこの世界から抜け出す唯一の手段となるのだ。

栄恋は硬直したまま動けなかった。

慎は何を考えているのだろう。「主人公」が誰だかわかった今、慎は何を思っているのだろう。

そして、これからどうするのだろう。そう思った時、聞き覚えのない声が後ろから聞こえた。


「へえ、お前が『魔王』なのか。」


栄恋と慎は驚き素早く後ろを向いた。そして栄恋はすぐにナイフを二本取り出して慎の前に出た。

少し高めの建物の上に少年が一人立っていた。

髪の色が青と紫と白が混ざり合ったような奇妙な色で、目は青と紫のオッドアイで、右手には比較的新しい型の銃を、左手には逆十字と悪魔の羽をかたどったモチーフのついているアンティーク銃を持った不思議な雰囲気の少年だった。

この少年一体何者だろう。髪の毛の色や目の色のこともそうだが、栄恋と慎の背後を取る時点でただ者ではない。

栄恋はナイフを構えて警戒し、目の前の少年を強く睨みつけた。

ひょっとしたら、慎が「魔王」だと知って、慎を殺しに来たのかもしれない。

少年がもし両手の銃を少しでも慎に向けようとしたら遠慮はしないと栄恋は思った。

少年は栄恋を見下ろしながら鼻で笑って言った。


「おっかねえ女だな。

 そんなに睨まなくても『魔王』だから殺すなんてことはしねえよ。」


栄恋は少年を睨むのを止めなかった。そんな言葉、信用できるはずがない。

それにこの少年の人を馬鹿にしたような態度が栄恋はどうにも気に入らなかった。

すると少年は栄恋を無視して慎の方を向いて意地悪く笑って言った。


「妹が『主人公』だなんて大層不運だな。」


それを知っているということは先ほどの栄恋たちの話を聞いていたということか。

栄恋はますます腹が立ってナイフを握りしめた。この少年、相当性格が悪いなと栄恋は思った。

慎は無表情のまま何も言わない。怒っているのかどうかもわからなかった。


「おい、魔王。お前に二つ聞きたいことがある。」


少年は乱暴な口調でそう言った。

その態度が気に入らなかった栄恋は思わず近くの壁を思わず耳を塞ぎたくなるような勢いで蹴った。


「うるせえ、黙れ脇役。俺は今こいつに聞いているんだ。」


黙れはこっちの台詞だと栄恋は思った。

全く、こういう怒鳴りたい時に声が出せないのは本当に困る。

代わりに手持ちの手榴弾でぶっ飛ばしてやろうかと思っていると、少年が慎に言った。


「まずは一つ目だ。お前ら、あの花畑から来たんだよな。…何もなかったのか?」


「…何もなかったわけではないが…」


「具体的に言うと奇抜なピンク色の髪した趣味の悪い服装の女につきまとわれたりしなかったか?」


少年がそう言うと慎はゆっくりと栄恋の方を見た。

そしてじっと栄恋の方を見た後再び少年の方を向いて言った。


「髪の毛はピンク色ではないな。」


その言葉に栄恋は少ししょんぼりして下を向いた。

少年は少し腑に落ちない表情をした。


「そうか…あいつ、今は出払ってるのか…?

 まあいい、二つ目いくぞ。」


すると少年の顔から急に意地悪い笑みが消えて、冷たくどこか寂しげで真剣な表情になった。

少年は青と紫の二つの色の目で慎を見つめながら言った。


「…お前は、これからどうするつもりなんだ…?」


「お前なんかに言う筋合いはない。」


慎は冷たくそう言い放った。

すると、また少年は鼻で笑って言った。


「やっぱりな、そう言うと思った。

 まあいい。どうせ俺はお前らに期待はしてないしな。」


そう言うと少年は銃をしまった。

そして未だに少年に対して警戒している栄恋と慎に馬鹿にしたように笑って言った。


「じゃあな、魔王と脇役A。

 せいぜいがんばれよ。無駄だろうけどな。」


そうムカつく一言を残して少年はどこかへ歩いていってしまった。


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