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“The Reddest World”  作者: ワルツ
第1部:裏切りの物語
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第1部・9

何分時間が経ったかわからない。

辺りを包み込んでいた光が消えたと気づくまでに少し時間がかかった。

奈々たちは霧也に言われたとおり、岩の影に身を伏せて目をつぶり、耳を塞いでいた。

スタングレネードの爆発音がまだ頭の中で響いていた。


「もう大丈夫みたいだよ。」


霧也がそう言うと、鏡と奈々は起き上がって目を開けた。

あんなに大きな爆発だったのに辺りはやけ焦げていないどころか辺りに咲いている花一つ吹き飛んではいなかった。

奈々が不思議に思って爆発があった場所を凝視していると霧也が言った。


「スタングレネードだからね。

 大きな音とすごい光が出るだけで辺りを壊したりはしないんだよ。」


「しっかし、あの栄恋とかいうのなんだよあいつ。

 ナイフにスタングレネードとか、武器倉庫か?」


鏡のその言葉を聞いて奈々は辺りをきょろきょろ見回した。

花畑にいるのは奈々たちだけで慎と栄恋の姿はどこにもない。あの光と爆発音に紛れて逃げてしまったようだった。

奈々は地面に座りこんでがっくりと下を向いた。

先ほどの慎の目が奈々の中で蘇ってきた。

冷たく鋭い目。あんな目の慎は見たことがない。

どうしてなのだろう。何があったのだろう。

奈々が『主人公』だからだろうか。生き残るためなら人殺しをしても構わないとでも言うのだろうか。

慎はそんな人だっただろうか。……違ったような気がする。


「……大丈夫か?」

鏡が奈々に心配そうに言った。

すると霧也が鏡に言った。


「相変わらず川崎さんにはベタ甘だねぇ。」


「…なっ、うっ、うるせぇ、そんなんじゃねえよ!」


鏡は顔を赤くしてそう言っていたが奈々は別のことを考えていた。

慎は以前は生き残るためなら人殺しをしても構わないなんて、そんなことを考える人なんかではなかった。

その理由を奈々は知っている。

だったら、慎が変わってしまったのにはこの世界のルール以外の理由が必ずあるはずなのだ。

奈々は慎が変わるきっかけとなったものは何か考え始めた。

…考えつくことは一つしかなかった。


「……五月原栄恋。」


奈々が低い声でぼそりと呟いた。

鏡と霧也が同時にこちらを向いた。


「栄恋がどうかした?」


霧也が奈々に聞いた。

奈々はいつもよりトーンの低い声で静かに言った。


「……あの馬の骨、お兄ちゃんに何しやがったんだろーなあー、あはははは。」


途端に鏡と霧也は硬直して動かなくなった。

鏡が怯えた小さな声で聞く。


「な…なんか…いつもより迫力が…」


「はは…きっと栄恋は何もしてないと…」


「そーかなぁ?じゃあ何であの二人一緒にいたんだろぉ?」


奈々は怪しげにケタケタ笑いながらそう言った。

霧也は真っ青になって何も言わなかった。

鏡が霧也の肩を軽く叩いて言った。


「悪ぃ、こいつブラコンなんだ…

 だからこいつのキャラ疑わないでやってくれ。こういうキャラだから。」


「あはは…僕むしろ鏡の趣味を疑うよ。」


苦笑しながらそう言う鏡と霧也を奈々は華麗に無視した。

慎が変わった理由は五月原栄恋にあるのではないだろうか。奈々はそうとしか考えられなかった。

あの二人が一緒に行動しているのはなぜなのだろう。あの二人の間に何があったのだろう。

第一あの五月原栄恋と慎との接点がどこにあったのだろうか。

慎は奈々のたった一人の兄だ。慎のことを放ってはおけなかった。


「ねえ、二人とも。お願いがあるんだけど。」


奈々がそう言うと鏡と霧也は振り向いた。

奈々は真剣な口調で言った。


「元の世界に帰る方法を探す前に、お兄ちゃんともう一度話がしたいんだけど、だめかな?」


奈々がそう言うと鏡と霧也はやっぱりなとでも言うように顔を見合わせた。

そして二人は言った。


「そう言うだろうなと思ってたんだよ。

 別にそのくらい構わねえよな?」


「うん、勿論。僕も栄恋のこと、このままじゃ心配だしね。」


奈々は二人がそう言ってくれたことに安心した。

そして右手を強く握りしめて立ち上がった。

もう一度話がしたい。どうしても慎が変わってしまった理由が知りたい。


「んじゃそろそろ行こうか。

 栄恋たちたしかあっちの方に行ったよね?」


「んーあー、多分な。」


「曖昧すぎ…。鏡、使えないなあ。」


奈々の言葉に少ししょげている鏡をよそに奈々は再び広い広い遊園地の方向へ歩き始めた。


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