序章
はじめまして。初の投稿となりますが頑張っていきたいと思います。
残酷な展開や悲しい結末の話もあったりしますので苦手な方はご注意ください。
それではよろしくお願いします。
冷たい風の音がする。
獣が肉を求めて練り歩くのが見えた。
窓からは、ジェットコースターもメリーゴーランドも赤茶けている、さびれた小さな遊園地が見えている。
遠くに観覧車が寂しげに見えた。
普通、空は青いものだ。
けれど、ここでは空も月も、狂気さえ感じるような深い紅。
ここは、不気味な紅い月の登る真紅の世界だった。
「退屈ねぇ。」
澄んだ美しい声が響いた。
一人の綺麗な女性が、アンティーク調の椅子に腰掛け、しきりにペンを動かして女性が持っている古く分厚い一冊の本に何かを書いている。
白と青と紫をグラデーションさせたような美しくも不気味な長い髪に、白い滑らかな肌、そしてパッチリとした紫と青のオッドアイを持つ誰もが振りかえるような美人だった。
女性は一点の迷いもなくペンを走らせて本に何かを書いていく。
まるで何かにとり憑かれたように。
何かにすがるように。
ペンと紙が擦れあう音は延々と静かな紅の世界に響き渡った。
満月がちょうど登りきった頃だった。
急に女性がペンを動かす音が止まった。
感じられるのは迷いではなく終わりだった。
女性は何かを期待するような、けれどどこか寂しそうな薄い笑みを浮かべて本を閉じた。
そして、遊園地の入場券のような一枚の取り出した。
「…洸。」
女性が名前を呼ぶと、素早く、けれど落ち着いた足取りで、執事のような恰好をしていて包帯で右目を隠している黒髪の青年が現れた。
洸と呼ばれた青年は丁寧に女性にお辞儀をして尋ねた。
「お呼びでしょうか、永久様。」
今まで少し寂しそうな顔をしていた永久だったが洸の顔を見たとたん、表情が緩み、解き放たれたような柔らかい表情に変わった。
永久は取り出した紙を洸にそっと手渡した。
「また、新しいお話を始めましょう。
これを、渡してきてちょうだい。」
「かしこまいりました。」
洸はそう言ってお辞儀をしたかと思うとくるりと後ろを向き、突然人差し指で宙に線を一本ひいた。
普通なら宙に線など引けるわけがない。
けれど洸が指でなぞった空間には確かに黒い一本の線が引かれていた。
「いってらっしゃい。」
永久が透き通るような声で言った。
次の瞬間、宙に浮いた黒い線の部分が開き、空間が裂けだした。
同時に赤い風が辺りに激しく吹き荒れ始める。
裂け目の向こう側は暗くて何も見えなかった。
洸は一度永久の方を向いて微笑んだ。
永久も楽しそうに微笑み返す。
そして、洸は空間の裂け目に飛び込んでいった。
「さあ、面白いお話、見せてくれるかしら、今度の主人公さんは。楽しみね。」
そう言って永遠は笑う。
響き渡った。気味が悪いほどの澄んだ声が。
舞い上がった。この世のものとは思えない色の髪の毛が。
吹き始めた。混沌と狂気に満ちた赤い風が。
そして、始まった。残酷な物語が…