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臆病者のやることは…

作者: 山城 リナ

ずいぶん前の事になります。

お盆を直前のある日、夫はいつも通りに出勤しました。

午後のまだ明るい時間、自宅に夫から電話がありました。

「今、会社の入ったビルに機動隊が来ていて、厳戒体制が敷かれている」

「えっ!?一体何があったの?あなた大丈夫なの? !」

「それが大変な事になっちゃって。別の会社が借りている部屋から白煙が洩れて来ているんだよ。たまたま俺が気付いて慌てて通報したんだけど。機動隊の人達は皆ガスボンベのような物を背負って重装備で来ている」


何てこと!心配した私はその後、様子を知らせる夫の電話が鳴る度に気が気でなりません。

何度の電話を受け、夫はこれから帰ると電話を切られました。

とりあえず無事に帰宅した夫は、困ったような明るい顔でこう言ったのです。

「俺、早とちりしちゃったみたい」

「ん?どういうこと?」


「あの後、機動隊が警戒しながら部屋を包囲してさ、何人かが突入したんだよ。」

「うん、そうなるよね」

「同じビルで少しずつ白煙が出てきてるんだから、誰でも警戒すると思うんだよ。だから俺だって電話したしさ」

「何?続き話してよ」


当時オウム真理教の起こした地下鉄サリン事件が、世間を騒がせていました。

もちろん私も地下鉄を好んで利用していたので、身近に起きた怖い事件だと感じていました。けれどもそれは電車に乗る時に気を付けなきゃというレベルでした。

臆病なところのある夫はそれ以上の警戒心を持っていたのでしょう。


「何人か待機している機動隊の内のひとりがベルを鳴らしたり、ドアをノックしたりしてさ、

反応がなかったから窓ガラスを割って中に突入していったんだよ」


ええっ!そんな大事になっていたの!?


「だけどさ、その後すぐに報告に来てくれて・・・」

「どうなったの?」

「うん、それがさ、原因はバルサンだったみたいなんだよね」

「・・・」

「まぁ、サリンとかじゃなくて良かったよ。安心した」


それはね、そうでしょうけれど・・・。


「でも窓ガラスを割って突入していたから、片付けが大変そうだな」

「お盆休み前にバルサン炊いただけなのにね」

「うん。でもわかるように貼り紙していたら良かったと思うよ」


そうだね。隣りの会社にあなたがいるんだものね。

窓ガラスが割られて、おそらく管理会社から連絡を受けた会社の人はきっとお盆休みどころではなかっただろう。

窓ガラスの注文もお盆明けになる上に、防犯面でも不安しかなかったでしょうから。

あまりの結末に同情を禁じえませんでした。




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