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おもちとおはぎと鳥の神様  作者: だがしやこひな
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特許と天の使いの鳥

特許と天の使いの鳥


おもちとおはぎをサーヤおばさんのところに預けて、まずは冒険者組合に立ち寄る。

最初に受付のカンナさんに、おはぎが弓で狩ったイタチの毛皮と、おもちが狩ったウサギの毛皮を引き取ってもらう。

次にアイスベリーを渡して収集依頼完了にしてもらい、アズサさんに配送する依頼を出してもらう。

なぜこんな面倒なことをするかと言うと、依頼人との直接取引はトラブルになることが多く、トラブルになっても組合が関与できないので、必ず冒険者組合を通して欲しいとカンナさんに頼まれたから。組合の顔を立てた形だ。


「ごめんくださーい!アズサさんいますか?」

アイスベリーの入った袋を手に、ダカシ染め物工房の前で声をかける。

工房の奥から「ガタン!」と音がした直後、「ドドドドドド・・・」という足音とともに、アズサさんが飛び出してきた。髪はボサボサで、目の下には更に大きな隈ができている。

「タ、タクミ君、これを見て!」手に持った布を広げる。

その手の中には、真夏の青空のような、深い青に染まった布がはためいていた。

「タクミ君・・・うわーん!」

そのまま泣きながら、崩れ落ちるように僕に抱きついてくるアズサさん。

「わ、私・・・布をこんなにきれいに染めることが出来る日が、く、来るとは思わなかった・・・」

そう言いながら泣きじゃくるアズサさん。やはり精神的に相当追い詰められていたんだな。

良く見れば工房の奥には、濃く鮮やかに染め上がった、さまざまな色の布が吊るされていた。

あの後様々な染料で、染め上がりを試してみたらしい。

ひとしきり泣いて落ち着いてきたところで、手ぬぐいを手渡す。

涙を拭きながら「あ、ありがとう、タクミ君」と微笑んだ。

「そ、そうだ、町長がタクミ君に会いたいと言ってるの。町役場まで来て欲しいって」


町役場の応接室のテーブルに、僕が染めた赤い布と、アズサさんがアイスベリーで染めた青い布が広げられている。

「こんなに濃くて鮮やかに染まった布は初めて見た。アズサ君の話では、君が教えてくれたものだということだが」

そう話す年配の男性は、この町の町長。

「どうかね、媒染剤の原料になる明礬・・・だったかな?それの作り方を教えてはもらえないだろうか?」

「いや、この新しい布の染め方と、明礬の作り方の二つの特許を取って、この町と独占契約して欲しい。それなら君にも特許料が入る。それでどうかね?」

特許を取れば、当分の間他の人がこの方法で染色が出来なくなる。明礬の作成もだ。そして独占契約をすることで、この町独自の新たな産業として、染め物が町おこしのネタになるということか。明礬も染色方法も生前の世界の物で、僕が発見したり発明したものでは無いので、正直特許登録は気がひけるんだが・・・。

「特許の独占契約をするにあたって、いくつか条件があります」

「飲める条件ならすべて飲もう、言ってみたまえ」と譲歩してくる町長。

「まず染め物工房の人数を増やしてください。新規事業をたった一人に丸投げするのは無理すぎです。町長はアズサさんがどれだけ苦労してきたか分かっていますか?」

「う・・・それは町役場に染色の事が分かるのが、彼女だけだったものでつい・・・済まなかったな、アズサ君」

そう言ってアズサさんに頭を下げる町長。

「い、いえ・・・最後はタクミ君が助けてくれましたから・・・」

照れくさそうな顔のアズサさん。

「つぎはアズサさんです!」

「ヒャイッ!」いきなり話を振られて焦ったようだ。

「いくら上手く行かないからと言って、毎日工房に泊まり込んではいけません。夕方になったらちゃんと家に帰って、ご飯を食べて寝なければ駄目ですよ」

「は、はい・・・」しゅんとなるアズサさん。

「そういう訳で、工房の作業開始と終了時間は町役場に合わせること。休日も一緒です。従業員を無理に働かせても、逆に作業効率が落ちるだけですから」

「分かった。今後は工房の環境整備と労務管理をきちんとする。それでいいのだね」

話の分かる町長で助かった。

この世界に来てまで、ブラックな職場とか過労死なんか見たくは無いからな。

「き、今日からは毎日家に帰って、ご、ご飯を食べて眠ることが出来るんですね・・・」

そう言いながら、アズサさんは涙ぐんでいた。不憫だ・・・。

「ところで一つ聞きたいんだが・・・君は本当に十五歳なのかい?」

最後に町長から、そう尋ねられてしまった。例によって幼く見られたのか、労務管理の話が年齢に合わなかったのかどちらだろう?


「これでタクミ君の二件の特許申請が、完了しました」

特許の手続きは冒険者組合でおこなっているということで、受付のカンナさんに手続きしてもらった。

続いて組合長立ち会いのもと、町長と特許の独占契約の書類に署名する。

特許料に関しては、冒険者組合の僕の口座に振り込まれるらしい。冒険者カードで引き落とし可能だそうだ。

これで面倒な手続きは一通り済んだ。こういうのに慣れていないのですごく疲れた。

そう言えば、冒険者組合の二階に上がるのは初めてだったな。

階段を登ってすぐの、集会所みたいな広い一室に、鳥の神様が祀られている祭壇がある事に気がついた。

祭壇を見つめていると、

「タクミ君は、この辺出身の人じゃなかったんだよね」

後ろからカンナさんが声をかけてきた。

「このあたりでは鳥の神様が祀られていてね、人が死ぬと魂は鳥の姿になって、天にある鳥の神様の元へ行くと言われているの。そんな訳で生死に関わる仕事が多い冒険者には、特に信仰が厚いのよ」

「町の東門を抜けて森に入ると、いつ建てられたか分からない神殿遺跡があってね、そこには大きな鳥の神様の像が祀られているの」

僕がこの世界に来た時に立ち寄った神殿の事か。

「年に二回、神殿の方向から太陽が昇る頃になると、町を上げて盛大に祭りをやるのよ。信心深い人は毎日のように礼拝に行って、そしてお供え物を供えているらしいけど」

スイマセン・・・そのお供え物を、先日頂いてしまいました・・・誰かわからないけど、ゴメンナサイ。

そして指を顎に当てて、話を続けた。

「それから、くちばしが桜色の鳥は、亡くなった人の魂を天に導くと言われているわね。逆に天から地上に降りてくる魂を導くとか。その鳥は天の使いの鳥と言われているわ。私は本物を見たことは無いけどね」

それってそのまんま文鳥に当てはまらないか?つまりおもちとおはぎが、うっかり人前で人化をといたら大騒ぎになるということか。

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