豆と温泉と赤い布
豆と温泉と赤い布
翌朝
「にぃに、コガンおじちゃんのいえへいってくるね」
何やらコガンさんと約束していたらしい。おはぎも心配だからついていくとのこと。
僕はやることが出来たので、今日は別行動だ。
まず町の市場で、大豆に似た豆を探して購入する。
次に素材屋で、トレントの枝と空の薬瓶を手に入れた。
必要なものが揃ったので、次は銭湯に行く。番台のおやじさんに頼んで、温泉のお湯を分けてもらうためだ。
銭湯の隣に空き地があったので、そこに理法陣を書き込む。書き込む内容は「分離」と「結晶化」だ。
書き込んだ理法陣の中心に、桶に入れた温泉のお湯を設置して、触媒としてトレントの枝を焼いて作った灰を入れる。
そして理法陣に手を添えて、精錬の理力を流し込む。
理法や理法陣というのは、この世界に漂っているマナというものを使い、この世の理に干渉する方法・・・らしい。ちなみにマナを集めて理力にする際に精神力を使うため、際限なしに理法を使うことは出来ない。
理力を流し込んだ理法陣が輝いた。果たしてうまく出来たかな?
桶の底を覗くと、白い結晶が出来ていた。どうやらうまくいったみたいだ。
結晶を取り出して乾燥させ、薬瓶に詰める。
これで前準備はすべて整った。
「え、えーと、工房を使わせてほしい・・・ですか?」
「もしかしたら、アズサさんの手助けが出来るかもしれないので」
僕がそう言うと、
「そ、それは構いません・・・というか、い、今工房に泊まり込みで色々試してますが、手詰まりで藁にもすがる思いです。ど、どうか助けてください!当てにしてます、タクミ君!」
そう話す顔が相当やつれてきている。目の下に隈が出来ているし。
あー・・・こりゃ相当追い詰められてるな・・・なんとかしないと。
まずは雑貨屋で買ってきた豆をよく煮て、それを潰して布に入れて絞る。
出来た豆乳を水で薄めて、染色用の布を投入!豆乳が染み込んだら、取り出してよく絞る。
続いて鍋に水を入れて、アズサさんから分けてもらったアカネの根を投入。よく煮てたっぷり色が出たら濾す。
最後に桶にお湯を入れて、さっき温泉で作った白い結晶を入れてよく溶かし、媒染剤にする。
これで布を染めるための準備は完了だ。
ここからは染色に入る。
アカネの根を煮て出来た赤い汁を鍋に入れ、火にかけてお湯にする。
豆乳が染み込んだ布を鍋に入れて、沸騰させない程度の温度でしばらく煮る。
布を取り出して、水洗いする。
必要な色の濃さになるまで、煮るのと水洗いを繰り返す。
希望どおりの色の濃さになったら、よく水で洗い媒染剤にしばらくの間つけておく。
終わったらよく水で洗い、陰干しする。
こうして、秋の夕日のような濃くて鮮やかな赤い布が完成した。
「ふ、ふえぇぇえーっ!」
染め上がった布を見て、アズサさんの目が点になっていた。
「ここにレシピを用意しましたが、一応説明しますね」
まず薄めた豆乳を指差して、
「あらかじめ布をこの中に入れて豆乳を染み込ませると、布に色がつきやすくなります」
次に桶に入った媒染剤を指差す。
「最後に媒染剤・・・今回は明礬を使いましたが、これを使うと布に色が定着します。ちなみに明礬を媒染剤に使うと、少し明るめの色に仕上がります」
「レシピと明礬はアズサさんに渡しておきますので、出来れば他の染料でも試してみてください」
といって紙と薬瓶を手渡した。
なんかアズサさん固まってたけど、理解できたかな?
これで何とか精神的に楽になるといいんだけどな。
宿に戻るとおもちとおはぎが戻ってきていた。
どうやら疲れたらしく、二人とも眠っている。
「にぃに、おにくおいしいよ・・・」と寝言を言うおもち。
そういえばおもちは、コガンさんから指弾を教えてもらうんだと張り切ってたな。
果たして技能に追加されているかと、おもちを鑑定してみたところ・・・
なんと「暗器」という技能が追加されていた。
コガンさん、おもちを暗殺者か忍者にでも仕込むつもりだろうか?
念の為おはぎの方も鑑定してみたら、こちらの方は・・・
「弓術」というのが追加されていた。
どうやらコガンさんに、弓の使い方を教えてもらったらしい。
二人と違い直接相手を攻撃する技能がない僕も、コガンさんから何か教えてもらったほうがいいのだろうか?