表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おもちとおはぎと鳥の神様  作者: だがしやこひな
4/26

南の森

南の森


翌朝、冒険者組合で仕事の依頼を受ける。

「おはよう!タクミ君、おもちちゃんにおはぎちゃん!」

すでにカンナさんは僕と妹たちの顔と名前を覚えたらしい。受付のお姉さんって凄いな。

「タクミ君は採取の技能持ちだし、妹さんたちも連れて行くのよね。それだと危険性が少ない、薬草採取あたりから初めるのがおすすめかな?」

書類を見ながらカンナさんは

「それと・・・ここの町長が染め物で町おこしを出来ないかと考えていて、染料の素材収集の依頼が多く出ているのよね。そちらも探してみる?薬草と染料素材は現在常時収集依頼だから、状態が良ければ採れただけ買い取るけど、どうかな?」

新米冒険者に親切なカンナさん。

「最後に、これから行く南の森は危険性が少ないと言われているけれど、皆無というわけではないの。体技と理法の技能持ちとはいえ、小さな妹さんたちを連れているんだから、危険だと思ったらすぐに引き返すのよ。タクミ君!分かったかな?」

そう言ってカンナさんは、笑顔で僕たちを送り出してくれた。


妹二人を連れて南の森へと続く道を歩く。おもちは嬉しそうに前を飛び跳ねている。

「おもちー!あんまり前に出ちゃ駄目だぞ!」と声をかけると、

「にぃにわかったー!」と返事が帰ってくる。

するとおはぎがそっとそばへ近寄ってきて、

「にいさま、気がついていますか?」とヒソヒソ声で話しかけてくる。

「ああ、なんかつけられているみたいだな」

さっきからかなり後ろからではあるが、ガッチリとした体つきで髭面のオッサンが、後をつけてきていた。

「やばいな・・・昨日の件、根に持たれたかな。まぁいざという時はコレで」

と鳥の神様の迷宮で手に入れた鳥の杖を取り出す。

「にいさま、その杖はどんな効果があるんですか?」

「おはぎの銀のリングに近いかな、理力を強化してくれるみたいだ。他に杖を手に入れてから、使うことの出来る理法が増えたみたいだね」

などと話していたら、目的の南の森に到着した。


指で四角を描いて「小地図」と唱え窓を開く。

続いて鑑定の付加技能である「百科事典」を開いて地図と連動。

検索で「薬草」を指定すると、地図に薬草が生えている場所が表示される。

「こりゃ便利だな。それじゃ検索条件に「染料素材」を追加っと」

地図がマーカーだらけになってしまった。

だめだこりゃ。確かに草木染めの材料は、無数と言っていいくらい種類があるからなぁ。

検索条件から「染料素材」を外して、代わりに「アカネ」「アイ」「ウメ」を追加すると、今度は使い物になる地図となった。

「それじゃおはぎに、集める素材を表示した百科事典の窓を複写して渡すから、おもちと二人で薬草と染色素材を集めてくれないか?僕は周囲の警戒と、地図で見つけた素材の場所を教えるから」

「はい」「おもちがんばる!」元気に二人が答えた。

「にぃに、やくそうみつけた!」すぐにおもちが声を上げる。

「薬草は根を残さないと次に生えなくなるから、引き抜かないでちゃんとハサミで切らないとダメよ」百科事典を見つめるおはぎも、真剣な眼差しだ。

二人とも嬉しそうに、次々と薬草や染料になる植物を集めていく。

集めた素材は鳥の神様にもらったリュックサックに詰めていく。鳥の神様にもらった、容量拡張がついているこのリュックは本当に便利だ。

続けて地図を見ていると「おすすめ」という、ちょっと変わった表示があらわれた。

表示された場所に行くと、低い木にびっしりと濃い青の実がなっていた。

鑑定で調べると、

【アイスベリー:熟すと美味。あまり自生していない。染め物の原料】

だそうだ。地図と百科事典の技能優秀すぎる。

「にぃに!この実すごく甘くておいしいよ!」

おもちの口の周りが青くなっている。

「おもちちゃん、それは素材だからそんなにいっぱい食べちゃ駄目!」

そういうおはぎの口の周りも青くなっていた。

僕たち三人は一生懸命アイスベリーの実を集めた。


夢中になって実を集めていると「ガサッ!」と物音がした。草むらからウサギが三匹顔を出している。

一見普通のウサギだが、額に一本鋭い角が生えている。

【イッカクウサギ:普段はおとなしい獣だが、群れの縄張りに入り込んだ相手に集団で襲いかかることがある。鋭い角を持っていて、突進されると非常に危険】

気がついたら周囲を、イッカクウサギに囲まれていた。

どうやらアイスベリーの実に夢中になって、イッカクウサギの縄張りに入り込んでしまったらしい。周囲の警戒を怠った僕の失敗だ!

イッカクウサギの群れは、今にも僕らに突進して来そうだ。

「にいさま、どうします?私の理法を使いますか?」

「この数じゃおはぎの理法でもきついかな。僕の理法を使ってみる」

僕は鳥の杖を構えて理法を唱える。

「黒理法!睡眠」

イッカクウサギが次々と眠りに落ちる。

「おもちとおはぎは、理法が効かなかったウサギを倒してくれ!」

まだ飛び回っているイッカクウサギが、数匹いるようだ。

「らじゃー!」と、おもちは飛び蹴りを放つ。

「風理法!風刃」おはぎは理法を使い、イッカクウサギを倒す。

これで片付いたかと安心した、その時だった。

「おもちちゃん、危ない!」

と、おはぎが叫ぶ。

一匹のイッカクウサギが、おもちの死角から突進してくる。間に合わない・・・と思った次の瞬間!

「ピシッ!」と音がした。

「ギャ!」と叫びながら、イッカクウサギが怯む。

「馬鹿野郎!ぼけっとしてないで早く止めを刺すんだ!」

声がした先には、コガンのオッサンが立っていた。

間髪逃さず、おもちが回し蹴りでウサギを蹴り飛ばす。

この時仕留めたイッカクウサギは四匹。目覚めたウサギは、一目散に逃げていった。


木の根元に穴を掘り、その上に張り出した木の枝に、止めを刺したイッカクウサギを頭を下にして吊るしていく。

素材となる角を切り落とし、首を切って血抜きをする。

それが終わったら皮を剥いで肉にしていく。内蔵を取り出して穴に捨て埋める。

コガンのオッサ・・・コガンさんが黙々と作業をしているのを、僕たちはおとなしく見ていた。

本職は猟師というだけあって、なれた手付きで獲物を捌いていった。

「角と皮は冒険者組合で買い取ってくれる。肉も買い取ってくれるが、宿屋に持っていけば料理をしてくれる」

「悪いが晩飯用に肉を一つもらっていくぞ。後はお前たちが持っていけ」

「助けてもらった上に解体までやってもらって、肉一つというのは申し訳ない気がするのですが」

そう僕が言うと、

「俺は大したことはしていない。気にするな」

ボソリとコガンさんはつぶやいた。

「ところでタクミだったか、なぜ妹たちを危険に晒したか分かっているか?」

真剣な表情で、僕の顔を睨んでくるコガンさん。

「僕が・・・周囲の警戒を怠ったからです・・・」

「それが分かっているのならいい。ただ、たった一度の失敗が取り返しのつかないことになることがある。その事を忘れるな」

そう話すコガンさんの横顔は、なぜか寂しそうに見えた。

そこにおもちがひょこっと顔を出す。

「ねぇねぇおじちゃん!さっきの「ピシッ!」というのはどうやったの?」

一瞬驚いたような顔をしたコガンさんだったが、おもち相手に話を始めた。

「アレはな、指弾と言うんだ」

「しだん?」

「こうやって手の中に石を仕込んでおいてだな・・・」

おもち相手に説明をしながら、コガンさんは嬉しそうに見えた。


「コガンのおじちゃんバイバイ!こんどしだんのやりかたおしえてね!」

おもちはコガンさんに懐いたようだ。去っていくコガンさん。

僕たちも町へ戻って、冒険者組合に納品にいかなくては。

本当はコガンさんって、いい人なのでは無いかと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ