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おもちとおはぎと鳥の神様  作者: だがしやこひな
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初めての迷宮

初めての迷宮


『最初は冒険者から初めるのがいいでしょう』

昨日の残りのお供え物で朝食を食べた後、鳥の神様からこう告げられた。

この世界での冒険者というのは、冒険者組合からの依頼を請け負う職業らしい。

『冒険者組合に登録される依頼には、多岐にわたる仕事があります。色々な仕事を経験して、その中から自分に合った職業を見つける、もしくはそのまま冒険者を続けるのもいいでしょう。タクミさんには前世の経験を元に、多少多めに技能を付けておきました』

つまり冒険者になって、自分に合った職業を見つけろということか。

『新米冒険者に危険な依頼は回らないと思いますが、仕事上どうしても偶発的に危険と隣り合わせになることがあります。ですのでそれに対処するためにも、迷宮というのを経験してもらいます。最後までたどり着いたら、ご褒美を用意してありますのでお楽しみに』

なんとなく、鳥の神様がウインクしたように思えた。


皮の鎧:シカ革で出来た普及品。

小型の盾:鉄製。左腕に取り付けて使う。

ブーツ:シカ革で出来た普及品。

ダガー:両刃の短刀。黒鉄で出来ている。ベテランクラスの愛用品。腰に装備。

ポーチ:シカ革製。傷薬類が入っている。

リュックサック:五倍の容量拡大と重量軽減、時間停止がついた優れもの。ベテラン錬金術師なら自作できるので、この世界ではそこそこ出回っている。

リュックサックの中身:ロープや毛布、野営の道具類など

これらを鳥の神様からもらって装備した。そして用意したという迷宮に入っていく。


「カツン・・・カツン・・・」と僕の足音が響き渡る。

そこは石組みで出来た通路で、石自体が発光しているのかほのかに明るかった。

僕の頭の上にはニワトリ大にふくれたおもちが、左の肩には小鳥サイズのおはぎが止まっている。

「おもちもおはぎも、危ないと思ったらすぐ飛んで逃げるんだぞ」

そう言った次の瞬間、おもちが鳴き出した。

「クルルルルルルルル!」

これは文鳥が警戒している時の鳴き声だ。

「ガチャッ、ガチャッ」と音を鳴らしながら、迷路の奥から何かが現れる。

骨だ!骸骨がまるで生きているかのように、こちらに向かって歩いてくる。その手には棍棒を持っている。

『これはスケルトンという魔物です。迷宮で迷った魂が、骨に宿ったものです』

と鳥の神様が説明してくれた。

「ピィ!」と一声鳴いて飛び立つおもち。

少し上昇すると、そのまま勢いをつけてスケルトンに突っ込んでいく。

おもちがスケルトンにぶち当たると、スケルトンはバラバラになってしまった。

バラバラになったスケルトンは、光に包まれて迷宮の地面に消えていく。

消えた後には何枚かの硬貨が落ちていた。

『迷宮にもよりますが、魔物を倒すとその魔物は迷宮に吸収され、代わりにお金や素材などを残すのが一般的なようです』

落ちていた硬貨を拾っていると、鳥の神様がそう説明してくれた。

『タクミさん。魔物が出た時に、指で空中に四角を描いて「鑑定」と唱えると、窓が開いて相手の事を教えてくれますよ』

そうか、この手の話ではおなじみの、鑑定の技能が使えるのか。

おもちが飛んで、また僕の頭の上に戻ってきた。

「おもち、お前すごいな!また魔物が出てきたら頼むな」

「ピ!」

おもちが嬉しそうに鳴いた。


通路の奥に、蠢く何かが数体現れた。

僕はとっさに指で四角を描いて「鑑定」と唱え窓を開く。

不定形な体の中に核を持つ魔物。スライムだ。

「ピィ!」と一声鳴いておもちが突っ込んでいく。

「待ておもち!駄目だ!」

「ギャ!」

スライムに弾かれ悲鳴を上げるおもち。よく見ると、ぶつかったところの羽が黒ずんでいる。

【物理攻撃無効】これはスライムの鑑定結果だ。しかも体全体から消化液が出ているため、うかつに触ると溶かされてしまう。某ゲームでは雑魚扱いのスライムだが、実際は結構厄介な魔物だったりする。

「白理法:治癒」

僕は怪我をしたおもちを治療する。

スライムの場合、足が遅いという最大の弱点があるので、最悪逃げるという手もあるが・・・などと考えていると、おはぎが「ピィ!」と一声鳴いて飛び立ち、何かを唱えたように見えた次の瞬間。

「ゴゥ!」と強い風の刃がスライム達に襲いかかり、体をバラバラに切り裂いた。

『風理法の風刃を使ったようですね』

僕の手の中に降り立ったおはぎは、小首をかしげて「ピ!」と嬉しそうに鳴いた。


そのような感じで魔物を倒しながら通路を進んでいくと、大きな鉄の扉に突き当たった。

『お疲れさまです。この扉の向こうで最後ですが、少し大物の魔物が控えています。頑張って倒してください』

いわゆるフロアボスとかラスボスとか言うヤツか。

扉を押し開いて中に入ると、広い空間の真ん中に大きな理法陣が描かれていた。

後ろの扉が勝手に閉まり光りだす理法陣。

そして光の中から現れたのは、人身牛頭の魔物。ミノタウロスだ。大きな棍棒を持っている。

『まずはあなたの理法で、味方を強化することをおすすめします』

僕は全体強化のため理法を唱える。

「白理法:物理防壁展開、身体強化、攻撃力強化」

そして次に、ミノタウロスに理法を唱える。

「黒理法:防御力弱体化、攻撃力弱体化」

「ブモォ!」

ミノタウロスは理法などお構いなしに棍棒を振り上げて、僕に殴りかかってきた。

盾でガードしたが、衝撃で後ろの壁に突き飛ばされてしまう。

「クッ!少々ばかりの理法じゃ勝てないか・・・」

おもちはふくれた状態でぶち当たる。おはぎも風理法で攻撃しているが、どちらもあまり効果が無いようだ。

「これならどうだ。緑理法:拘束」

石組みの隙間から蔓が伸びて、ミノタウロスの足に絡みつく。すると動きが一気に鈍くなった。

「おはぎ!おもちに風理法で早く飛べるように支援。おもちはくちばしで目を狙え!」

「ピィ!」と一声鳴いて理法の風に乗り、おもちはミノタウロスに突っ込んでいく。左目に当たったらしく、目を押さえ暴れまくっている。

このスキにミノタウロスを鑑定する。どうやらコイツは火に弱いらしい。

「おはぎ!火理法をミノタウロスへ。盛大にブチまかせ!」

「ピィ!」と一声鳴いて飛び立つと、おはぎは火理法を放つ。

「グワァ!」全身炎に包まれたミノタウロスは、叫び声を上げる。

黒焦げになったミノタウロスは、光に包まれて迷宮の地面に消えていった。

後には数枚の銀貨、リングが二つ、鳥の飾りがついた杖が落ちていた。

『迷宮攻略おめでとうございます。金のリングはおもちちゃんの足に、銀のリングはおはぎちゃんの足につけてあげてください。それぞれ体力と理力が強化されます。杖はタクミさんが持っていてください』

『それでは神殿に戻りますね』

と鳥の神様が言うと、周囲が輝いて真っ白になった。


気がつくと元の神殿遺跡に戻っていた。迷宮の入り口が無くなっている。あれは幻だったのだろうか?

『あの迷宮は、私の力で一時的に作り出したものです。さて迷宮攻略のご褒美がまだでしたね』

『タクミさん、「文鳥人化」と唱えてください』

僕は鳥の神様の言葉をなぞるように「文鳥人化」と唱えてみる。

「ポン!」という音とともに、白い煙の中から現れたのは・・・。

幼稚園年長さんくらいの女の子。白い髪のおかっぱで、前髪に桜色のメッシュが入っている。白い羽織に桜色の袴と、巫女さんのような格好をしていた。

つぶらな瞳で僕を見上げるその子は「にぃに!」と叫ぶと、飛びついてキスをしてきた。

「お前おもちか?随分と可愛くなったな」

「エヘヘッ」とおもちは嬉しそうに笑う。

「でも人化したら、キスはホッペにだからな!」

「らじゃー!」と元気に返事をするおもち。

今日びは人前で幼女相手だと、事案になりかねないからなぁ。

すると今度は左の頬に、柔らかい感触がふわり。

振り向けば口元を押さえて微笑む、小学校高学年くらいの少女が立っていた。

腰まである長い黒髪を背中のあたりで束ねていて、おもちと同じく前髪に桜色のメッシュが入っている。灰色の羽織に黒い袴と、こちらも巫女さん風の衣装を着ている。

「お前はおはぎか?なかなか可愛いというか、美少女じゃないかな?」

おはぎはちょっと頬を染めながら

「ありがとうございます。にいさま」と、嬉しそうに微笑んだ。

『ここから先は、その子達がタクミさんの道標となります。あなた方の旅が素晴らしいものでありますように』

『困った時は私の神殿や神社を訪ねなさい。力になれることもあるでしょう』

そして鳥の神様の声は、聞こえなくなった。

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