蹂躙
蹂躙
「オークやゴブリンどもが見つからなくなってきたな!」
豪勢な宿の一室に、武装した男女四人がくつろいでいた。
ここはポンの村にある宿屋で、一番上等な部屋だ。
「オークやゴブリンの悪評を流して、それを討伐すれば英雄扱いされる。この世界の連中はちょろいな」
「おいおい、人前でその話はするなよバキ。曲りなりにもお前は勇者という扱いなんだからな」
バキと呼ばれた男は、
「ケッ!偉そうに言うなよ。僧侶のキラさんよぉ。アンタだって同じ穴のムジナだぜぇ」
「まぁまぁ、みんな仲良くやりましょうね。前の世界で不遇だった者同士」
「俺は向こうでも楽しくやってたぜ。こそ泥だったお前とは違うんだよ、ルラ!」
「シッ!誰かが階段を登ってくる」
「理力感知というやつか?理法使いってのは便利だな、リミ!」
コンコンと部屋のドアをノックする音がした。
「入れ!」とバキが怒鳴る。
怯えた表情で入ってくるのは、この村の村長だ。
「ゴ、ゴブリンを見つけたそうです」
「ホーゥ・・・」
と、勇者バキは歪んだ笑顔を浮かべた。
「ここか、ゴブリンを見かけたっていうのは」
ポンの村の北の深い森の中に、一本杉が立っていた。根本に古い鳥の神様の祠がある。
木の影からバキたちが見張っていると、ゴブリンがやってきた。
祠に手をかざすと、謎の扉が現れて中に入っていく。
「こんなところに隠れていたのかよ、見つからないわけだ。行くぞ、おまえら!」
勇者バキとその一行は、ゴブリンを追ってその扉の中へ入っていった。
「ゆ、勇者だぁ!」
怯えた声で叫ぶゴブ夫。
「キャー!」「助けてくれー!」「ゴブ鈴ちゃんー!どこにいるの?」
逃げ惑うオリン村の住人たち。
「なぁーんだお前たち、こんなところに巣を作っていたのかよ。まぁいい、お前ら全員皆殺しだ」
勇者バキがそう叫ぶ。
「やめろ!お前ら俺たちになんの恨みがあるんだ」
そう叫んでバキの前に立ちはだかるオーキン。
そのオーキンに蹴りを入れるバキ。そして倒れたオーキンを踏みつける。
「とーちゃん!」と泣き叫ぶポー太を、必死で抑える母のポー美。
「人間の女をさらって苗床にする、邪悪なオークとゴブリンを殺して何が悪いんだよ!え!」
そう言って、凶悪な笑みを浮かべる勇者バキ。
「アンタたちオークとゴブリンをこれだけ殺せば、この辺一帯の英雄になれるよね」
嬉しそうに話す盗賊のルラ。
「とりあえず、まとめて焼却処分と行くか。やれ!リミ」
「はい!火理法:火球」
それを待っていたかのように、理法を唱えるリミ。
「白理法:理法防壁展開」
僕はオリン村住人全てを対象に理法を唱えた。
村人に届く手前で弾かれる火球。よかった、間に合った。
「誰だ、てめぇ!」
そう言って僕を睨みつけてくる勇者バキ。
「あんたたちと同じ世界から来た者だよ。前世のまちがった知識を悪用して、オークとゴブリンを苦しめたのはお前たちか」
僕がそう答えると、バキは頭を掻きながら、
「俺たち以外にも居たのかよ。せっかく新しい世界へ来たんだ、お前も俺たちと楽しくやらないか?」
ニヤリと嗤うニセ勇者。
そこへおもちの指弾が飛んでくる。バキの頬をかすめた。
「ポー太くんのおとうさんをいじめる、わるいやつはかえれ!」
「このガキ!」
そう言って勇者バキが剣を抜いたので、腰からダガーを抜いておもちをかばう。
続いて自身とおもちを理法で強化する。
「白理法:物理防壁展開、身体強化、高速化、攻撃力強化、理力強化」
とはいえ、さすがに長剣相手にダガーじゃ不利だ。コイツ相手に戦うことが出来るのか?
「やめな!」
村の奥から、可愛いけどドスの利いた声がした。
「姐さん!」「ユーコの姐さん!」
巫女のユーコさんが村人の中から姿を表した。いつの間にか村の男衆に慕われているな。
「あんたらか、ここのオークとゴブリンたちに悪さをしたっていうのは」
「随分と美人の巫女さんが出てきたなぁ。どうだ俺のオンナにならないか?」
ゲスな笑みを浮かべる勇者バキ。
「ごめんだね。お前らが同じ世界から来たかと思うと反吐が出る」
地面に向かって唾を吐くユーコさん。
「だったらどうする?俺たち全員の相手をしてくれるのか?ヒイヒイ言わせてやるぜ」
下卑た笑いを浮かべる勇者たち。
「無実のオークとゴブリンに罪を着せ、自分の栄誉のために殺すニセ勇者ども。アンタたちは死でも罪が軽い」
「魂を鳥の神様に還す。生まれ変わってやり直せ!巫女理法:輪廻」
そうユーコさんが唱えた直後、勇者たちがいる地面の下に大きな理法陣が出現した。理法陣から光が立ち昇る。
「な、何だ?何だこれは?」
何が起こっているのか分からず、うろたえるニセ勇者たち。
激しい光に包まれて、やがて光が消えるとニセ勇者たちの姿が消えていた。
そしてユーコさんは、崩れ落ちるように倒れた。




