亜人たちの村
亜人たちの村
冒険者組合に染め物の素材を納品しなければならなかったため、一旦ダカシの町に戻り、納品をする。
次の仕事は受注しないで町の東門に行き、そこから鳥の神様の神殿遺跡に行って、文鳥迷宮の扉の理法陣を設置した。
これでダカシの町と、文鳥迷宮への行き来が簡単に出来るようになる。
当分の間、文鳥迷宮のオークとゴブリンの面倒を見ることにした。仕事も受注しなかったので、しばらくはこちらに専念できる。
ウサギ数匹を手土産に文鳥迷宮へ戻る。オークとゴブリンたちも落ち着いたようだ。
オークの代表・・・オーキンさんと言うらしい・・・から、畑を作りたいという申し出があった。前の集落でも畑で野菜などを作っていて、ゴブリンの農具やポンの村の穀類や衣類などと物々交換していたらしい。
おはぎ経由で文鳥迷宮の迷宮核へお願いをして、長屋近くに畑を作り出してもらい、文鳥倉庫から鋤や鍬などの農具を提供した。作物の受粉用に、蜂の巣箱も近くに設置する。
ゴブリンの代表・・・ゴブ蔵さんというらしい・・・からは、採掘が出来る洞窟がないかと尋ねられた。
元々ゴブリンたちは洞窟に住んでいて、洞窟の奥から青銅の鉱石を掘り出して精錬し、鋤や鍬などの農具、鍋や釜などの調理器具、狩猟用の武器などを作り、オークやポンの村の人と物々交換していたそうだ。
文鳥迷宮の迷宮核に頼み、近くの岩山に鉱石が採取出来る洞窟を作ってもらい、ついでに鍛冶場も作ってもらう。
最後に両方の代表からお願いされたのは、勇者とか名乗っている連中のために離散してしまった仲間を、ここに集めて生活させて欲しいということだった。
「確か、この近くにあったはずだ」
オークのオーキンさんが、藪をかき分けて前を進んでいく。
ここは南西の森の奥、オークたちを見つけた場所からさらに南下した場所。
「見つけたゴブ!」
そう話すのはゴブリンのゴブ蔵さん。
古い大きな一本杉の根本に、朽ちかけた、鳥の神様を祀ったと思われる祠があった。
「森で仲間を見つけた時に、ここになら戻って来やすいだろう」
オーキンさんがそう言うので、文鳥迷宮の扉の理法陣を設置。オーキンさんとゴブ蔵さんに扉の使用権を設定した。
僕たち人間が一緒にいると警戒されるだろうということで、仲間探しはオーキンさんとゴブ蔵さんたちに任せることにした。
ちなみに語尾の「ゴブ」というのはゴブリン訛りで、年配のゴブリンに多いらしい。
「あんた!」「とーちゃん!」
「ポー美、ポー太」
離れ離れになっていたオーキンさんの家族が見つかった。ゴブ蔵さんの家族も見つかったらしい。
こうして文鳥迷宮のオークとゴブリンは、少しづつ増えていった。
それに伴い、迷宮核に食料用のウサギやシカなどの草食動物を、迷宮内に放ってもらった。当然倒しても死体が残る設定にしてある。
オークとゴブリンたちが自力で長屋を建てたいというので、文鳥倉庫から資材と工具を提供した。
一応水回りだけはこちらで面倒を見ることにする。
ゴブリンたちは土木の、オークたちは木工の技能があったようで、協力して長屋を建てていった。
こうして少しづつではあるが、オークとゴブリンたちの村は大きくなっていった。
村が大きくなることによって、文鳥迷宮自体にも変化が生じた。
「にいさま、文鳥迷宮が広くなっています」
おはぎの話では、迷宮は迷宮の中に入った外の生き物が発する生命力を吸収することで、成長するのだそうだ
一般的な迷宮が宝箱や、魔物が倒された時に落とす金や素材などを用意するのは、欲にまみれた冒険者などに迷宮に入ってもらい、戦闘などで生じる生命力を吸収するためだ。
文鳥迷宮の場合、オークやゴブリンたちが中で生活を始めたため、迷宮内の生命力が増えたので迷宮が成長したということらしい。
どうやらオークとゴブリンたちの話は信用しても良さそうだと判断したので、巫女のユーコさんと引き合わせることにした。
「くっころ!」と、のけぞってみせる腐った巫女さん。
意味が分からないオーキンさんとゴブ蔵さんの目が点になっていた。
そのネタはアウトです。ユーコさん。
小鳥神社の社殿で、これまでの話をユーコさんに説明した。
「酷い話だね。無実のオークとゴブリンの悪評を流して、勇者を名乗ってオークとゴブリンの集落を襲撃して、自分たちの名を上げようなんてド外道のすることだね」
憤慨するユーコさん。くっころ!も大概アウトなんですがね。
「安心しな!アンタたちを、その勇者とやらからアタシが守ってあげるから!」
とタンカを切った。見た目と声に合っていないが、男前だ。
「おもちちゃん、あーそぼ!」
オークとゴブリンたちの村・・・村人が協議した結果、オリン村という名前になった・・・と、僕たちの自宅と小鳥神社の行き来を出来るようにしたら、オリン村の子どもたちが家へ遊びに来るようになった。
「にぃに、ちょっとあそびにいってくる。ポー太くんゴブ鈴ちゃん、ゴブ吉くんおまたせ!」
自分と同世代の友達が出来たおもちは嬉しそうだ。
一方、小鳥神社の方にも参拝者・・・というか、相談に村人が来るようになった。
「巫女さま、おらの女房と娘は勇者とか言う連中に殺されただ。女房は娘をかばって後ろから斬られ、娘はその後首をはねられた。そ、そいつらは娘の首をはねた後、『お前らゴブリンは皆殺しだ!これは神の意志だ!』とか言って嗤ってただよ。おらは仲間に口と体を押さえつけられて、物陰から見ていることしか出来なかっただ。・・・ゴブ乃、ゴブ奈ごめんなあ・・・」
小鳥神社の社殿からは長い嗚咽が聞こえてくる。
そしてユーコさんの声が聞こえてくる。
「鳥の神様は、全てをご覧になっています。良きものには祝福を、悪しきものには罰を与えます。あなたの奥さんと娘さんは、鳥の神様のもとで幸せに暮らしています。祈りましょう。私も祈ります。あなたも一緒に二人の冥福を祈ってください」
そしてこう続けた。
「神の名を語って悪事をなすものには、必ず天の裁きが訪れることでしょう」
ユーコさんの声に、幾分怒気が含まれている気がする。
そして祈りの言葉が聞こえてきた。嗚咽はまだ続いている。このような相談でユーコさんの元を訪れる者は多い。
それにしても、ああしていれば完璧な巫女さんなんだが・・・色々と残念すぎる。




