オークとゴブリン
オークとゴブリン
「にぃに、こっちこっち」
「こらおもち、一人で先に進むんじゃないってあれほど!」
染め物用素材が思ったより手に入らなかったので、今日も南西の森に入っていた。
「にいさま!クワを見つけました。実がこんなに!」
クワの葉と実を集めて、周囲を警戒しながら一休みする。
葉は染め物用の素材に、実はみんなのおやつだ。
「にぃに、これ甘くておいしい!」
口の周りを紫色にして、クワの実を目一杯頬張るおもち。さてもうひと頑張りしよう。
「にいさま、ヤマモモを見つけました!」
これは木の皮が染め物の素材になる。
「にぃに、これスオウ?」
こっちは、木の芯の部分が染め物の素材になるらしい。
夢中で染め物素材を探しているうちに、おもちの姿が見えなくなった。
検索で文鳥を指定しておもちを探す。おはぎと一緒に森の奥に入ると、大きな木の下におもちの姿があった。
おもちに声をかけようとしたら、奥の茂みで何かが動く音がした。おもちに駆け寄り口をふさぐ。
現れたのは人の体にイノシシのような頭をした何か。
僕はとっさに指で四角を描いて「鑑定」と唱え窓を開く。
【オーク:亜人。森の中で生活している】
オークと言えばクロボ村でこんな噂を聞いた。人間の女をさらって苗床にして、大量に仲間を増やして群れの周辺の村や町を蹂躙していくという。
よく見れば数匹のオークの他に、子供のような大きさの子鬼のような何かがそこに居た。
【ゴブリン:亜人。洞窟の中を好んで生活している】
ゴブリンに関する噂も似たようなものだ。人間の女をさらって苗床にして、大量に仲間を増やして大暴走を起こすらしい。
今の所人がさらわれたという話は聞いていないが、放置したらまずいことになりそうだ。
幸いこちらに気がついて居ないようなので、無力化して捕まえることにしよう。
「黒理法:睡眠、麻痺」
オークとゴブリンの殆どが倒れ込んだが、理法が効かずに右往左往しているオークが居た。
「緑理法:拘束」
蔓が地面から伸びて絡みつく。うまく全員を無力化出来たようだ。
「お前ら、あの勇者とか抜かしている連中の仲間か!」
気を失っていなかったオークに、話を聞いてみる。
「勇者というのは分からんが、お前たちが人間の女をさらっていると言うので捕獲したんだ。この後クロボ村の人に引き渡すつもりだよ」
そう僕が答えると、そのオークは憮然とした表情で、
「ちがう、俺たちはそんな事はしていないし、する必要もない」
と言うので、一応話を聞いてみることにした。
そのオークの話によると、オークたちはここよりずっと南にある、ポンという村近辺にある森に集落を作っていた。ポンの村の人とはうまくやっていて、交流もあったそうだ。
ある日自称勇者とかいう連中がポンの村に現れて、こう吹聴して回ったらしい。
「オークは人間の女をさらって苗床にする。お前たちの嫁も娘もオークにさらわれるぞ!」
それ以来オークの集落とポンの村は関係が悪くなった。そしてその勇者とか言う連中は、オークの集落を攻めてきた。中には『オークの肉は美味いらしいぜ、ヒャッハー!』とか叫んでいるのも居たらしい。
平和に暮らしていたオークたちは、離散して森の中に逃げ込んだ。その後ゴブリンに出会ったが、同じような目にあって逃げてきたらしい。
どちらも着の身着のまま逃げてきたので、狩りも出来ずろくに食べていないと言うことだった。
確かにオークもゴブリンも痩せているように見えた。
最後に人間の女はさらっていないか確認すると、
「お前ら人間は、メスのサル相手に発情するのか?」
という答えが返ってきた。
オークの話を聞いて嫌な気分になった。勇者とか女を苗床とかオーク肉とか言う話は、あっちの世界の小説で見たような気がする。まさか自称勇者とか言ってる連中は、僕と同じ世界から来て、その話を悪用しているんじゃあるまいな。
もしそうだとしたら、オークたちにものすごく申し訳ない気がする。
話を聞いて、オークとゴブリンを文鳥迷宮に連れて行くことにした。嘘をついている可能性が無いわけではないが、万一の場合でもあそこから逃げることは出来ないからな。
念の為、僕たちの自宅と小鳥神社がある場所には入ることが出来ないようにしておく。
文鳥迷宮に入る前に、あらかじめ南西の森でおもちにシカを狩ってもらった。文鳥迷宮についたオークとゴブリンたちは器用に解体して、焚き火で炙ってシカを食べている。
おもちに文鳥倉庫から資材を出してもらい、おはぎから迷宮核に頼んでもらって、長屋と共同の炊事場とトイレと風呂を作っていく。
長屋が自動で組み上がっていくのを見て、オークとゴブリンたちの目が点になっていたが。
オークとゴブリンたちが風呂に入っている間に、服を生活理法で洗濯していく。
最後に長屋の周りに実のついた木を生やす。桃にりんごに梨に柿、栗など。当座はこれで食料に困ることも無いだろう。
とりあえずしばらくこれで様子を見ることにしよう。