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おもちとおはぎと鳥の神様  作者: だがしやこひな
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プロローグ~鳥の神様

プロローグ


肩で息をする長い黒髪の少女。理法の使いすぎで顔色が悪い。

僕の鎧には、さっき吐いた血反吐がべっとりとこびりついている。

目の前にいるのは、巨大な塊のような何か。それはまるで動く岩山のようにも見えた。

上空では白い大きな鳥が、僕の指示を待って旋回している。

「すまん!防壁と暴風加速を頼めるか!」

「やれます!水理法:水防壁」

「風理法:風防壁、暴風加速」

黒髪の少女は脂汗を流しながら、右手に杖を握りしめて続けざまに理法を唱える。

上空で待機していた白い鳥は、水と風と僕の唱えた、三重の理法の防壁をまとう。

そして理法で生じた暴風に乗って、加速を増しながら降下してくる。

『いっくよー!』

そう言いながら白い鳥は弾丸のように、巨大な塊に突っ込んでいった。


鳥の神様


木々の中を吹き抜ける風の音で目が覚めた。

「う・・・ここは・・・?」

最初に目に入ったのは、茜色に染まった雲と空だった。続いて鬱蒼とした木々が見える。

周りを見渡すと、森に囲まれた草地のようだ。僕はその真ん中に仰向けに倒れていた。

「僕は確か・・・一月近く会社に泊まり込んで・・・」

すると何かが聞こえたような気がした。

『タクミさん?』

声が聞こえてきた。優しい感じの女の人の声。

『こちらです』

声のする方角を見ると、なにやら道らしきものがある。

立ち上がってよく見ると、石畳の道があった。森の中のその道をしばらく歩いていると、石造りの神殿のような建物の前に出た。

階段を上りその建物の中に入っていくと、巨大な何かが立っていた。石像のようだ。しばらく眺めていると、それは鳥の像のように見えた。

『私は鳥の神と呼ばれています』

いきなり声が聞こえてくる。さっきの声だ。

『タクミさん。気の毒ですが、あなたは亡くなりました。前の世界で無理な生活をしすぎたようですね』

そうだ・・・僕は場末で孫請の製版会社で、DTPのオペレーターをやっていて・・・。


「タクミちゃん!これ明日の朝までお願い!今度何かおごるから」とか適当な事を言って、終電で帰っていく営業部長。アンタにおごってもらったことは一度も無いぞ!

毎度無茶言いやがる。こっちは何日家に帰ってないと思ってるんだ!

「あ~あ、今日も組版で泊まりかぁ。一体何日家に帰ってなかったかな・・・?」

印刷関連の仕事は納期が短い事が多いので、現場に無理がかかりやすいのだが、さすがにここは無茶すぎる。人が入っても持たなくて、半年以内に大半が辞めていく。今月だけで何人辞めた?

「確かもう一ヶ月くらい家に帰ってなかったな・・・ちゃんと風呂入って寝たのはいつだったか」

そんなことを考えていたら、急に意識が遠くなったのを覚えている。

『今はあなたの魂を、私が治めている世界に移しました。現在十五歳で成人したばかりということになっています』

そうか・・・僕は前の世界で過労死したのか。


『あなたに仲間を用意しました。「文鳥召喚!」と唱えてください』

「文鳥・・・召喚・・・?」

すると目の前が眩しく光りだし・・・そして・・・手の中に、丸くて白くてふわふわした何かが乗っていた。

それは「ぴぃ!」と一声鳴いて右肩に飛び乗り、僕の唇にキスをしてくる。

見たことがある。この子は確か・・・

「おもち?・・・もしかしてお前、おもちなのか?」

おもち・・・僕が学生の頃飼っていた白文鳥。

雛から育てたんだよな。飼っていた鳥の中で一番懐いていた子。

寒くなって膨れると、白いつやつやのお餅そっくりに見えたので、おもちと呼んでいた。

すると反対側の頬を軽く突く感触がした。

「ぴ!」

左肩には、桜色のくちばしをした文鳥が止まっている。

「お前・・・おはぎか?」

おはぎ・・・初めて飼った文鳥。

この子も雛から育てたんだけど、体が弱くて無事に大きくなるか心配したんだ。

成鳥になっても片方の羽が下がり気味でうまく飛べず、左足を引きずり加減に歩いていた子。

『その子たちは亡くなった後、魂となってあなたに寄り添っていたそうです。よほど慕われていたみたいですね。あなたが無理な生活をしていた時は、ものすごく心配したと言ってます』

こいつら僕の・・・いわゆる背後霊になってくれていたのか。

『その子達は、この世界であなたが暮らしていく上での、大切なパートナーとなります。可愛がってくださいね』

二羽の文鳥は、僕のことをつぶらな目で見つめていた。

可愛がるとも。こいつらとはもう二度と会えないと思っていたんだから。

『もうすぐ夜になります。朝になったらお話がありますので、祭壇のお供え物を食べて夕食としてください。寝る時は神殿の中に毛布があります』

そう話すと、鳥の神様の声は聞こえなくなった。


晩飯を食べて毛布にくるまったのだが・・・なんか寒い。

「こっこっ」

毛布の上に乗った文鳥たちは、二羽ともふくれて丸くなっている。

「お前たちも寒いのか。毛布の中においで。ここなら少しは暖かいから」

すると、なんか文鳥たちがふくれて大きくなったような・・・気がしたら、気のせいではなく、本当にふくれてニワトリくらいのサイズになった。これがこの世界での常識なのか?

そして二羽とも毛布に入り込んで、僕のお腹のあたりに寄り添ってきた。

おもちもおはぎも暖かいな・・・。

そして暖かくなった僕は、深い眠りに落ちた・・・。

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