第12話「マスカットを探せ!」
ランセルは、家の中で1人待ちぼうけをくらっていた。太陽は水平線に沈み始めていた。
家の周りは、草木に囲まれた森の中にあり、闇に包まれるタイミングも早い。
街灯もチラホラしかなく、いくつかは電気が切れていた。舗装もされていない砂利が敷き詰められた道を帰ってくるのは、少々大変である。
令嬢狩り以外では魔法を使えない今、日が暮れる前にマスカットがロラスを連れて家まで帰ってくることは、必要不可欠であった。
令嬢狩りに行く準備は既にできていた。
マスカットが狩りで使うステッキの魔力も確認し、馬車も用意した。ロラスの愛馬ブラック号にも馬装具を取り付け、毛並みも整える。
令嬢を呼び寄せるための豪華なティーセット、キラキラ光るドライフルーツであしらわれたクッキーを数枚、今回はランセルの趣味も兼ねて、いちごのショートケーキも手作りした。
「お姉ちゃんとロラス、全然帰って来ないな…」
何かあったんじゃないのだろうか?最近のお姉ちゃんの様子はおかしかったし、忘れっぽい印象も受けた。まさか道に迷ったとか?何か事件に巻き込まれた?と心配になる。
ロラスも家に来ないし、合流すらできていない可能性もある。ランセルは、ロラスに連絡をしようと椅子から立ち上がった。
机の奥底に保管していた腕時計を取り出す。腕時計には魔力が少しだけ込められていた。狩りのために割り振られた魔力の量は限られているため、あまり使いたくなかったが、緊急事態だし…と腕時計を身に着ける。
時計は黄金に輝く1本の針が1秒ずつ時を刻んでいた。文字盤は一切ないシンプルな時計だ。ベゼルには一匹の蛇がグルっと囲むように彫られていて、ランセルはそれがお気に入りだった。中心部をそっと擦り、胸の中でロラスを思い浮かべる。今頃、ロラスが持っている同じ型をした腕時計も振動している頃だろう。
ファッと光が腕時計から漏れ始め、寝起きの顔をしたロラスが腕時計から発せられる光の中に映し出される。
「どうしたんだい?あれ?マスカットはいないんだね」
マスカットを気にするロラスを無視し、ランセルは言う。
「ロラス、お姉ちゃんと会った?令嬢狩りの指示が来て、ロラスを呼んできてもらおうと、お姉ちゃんに伝えたんだよ」
「僕は今日マスカットに会っていないけどな」
「そっか…。ロラス、お姉ちゃんがいそうなところ、心当たりない?まだ家にも戻ってこなくて…」
お姉ちゃんのことを邪な気持ちで見ているこの男に頼りたくはないけど、令嬢狩りを一緒にする仲間、お姉ちゃんのことになれば頼りになるだろうと居場所を聞く。
「まだ戻ってきてない?この時間になっても?ランセル、何でもっと早く言わなかったんだい!もう陽も沈んでしまうじゃないか。この地区は夜に女性が1人で歩いていて悪いことはあれど良いことなんてひとつもないんだよ!」
ロラスが珍しく怒っている。確かにそうだ…ロラスの言う通り…と危機感の薄れていた自分を少し責める。
そんな僕の顔を見てか、ロラスは少し優しい口調になって「心配したから連絡してくれたんだよな。ありがとう。ごめん、ランセル、責めていないよ。今からそっちに行くから待っていて」とフォローをしてくれた。
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コンコンと戸を叩く音と、ランセル、僕だよ、ロラスだよ、と声がした。
「いらっしゃい…来てくれてありがとう」
思わずいつもは言わない感謝の気持ちを伝える。お姉ちゃんがいなくなってナイーブな気持ちになっているのだろうか?
「今からマスカットを探そう。あと、令嬢狩りはいつまでに終わらせればいいんだい?」
「うん…多分早め…」元気なく答えると、ロラスは背中を優しくトントンと叩きながら「大丈夫だよ、ロラスもいるからサクッとマスカット見つけてサッサと令嬢狩りして、みんなでご飯を食べよう」とにっこり笑ってくれた。
マスカットのことだから、道端に猫でも見つけて可愛がってたら陽も暮れてきて帰れなくなったとかじゃない?と軽口を叩く。
僕とロラスは、ブラック号に乗り、もうすっかり陽も落ちた森の中を進むことにした。
シンっとした森の中のため、ブラック号が一歩一歩踏みしめるザっザっという足音しか聞こえない。
手には光の魔力を込めたランプを手にしているけど、いつ切れるか分からなかった。
正直ロラスの魔力を込め続ければ問題はないが、魔力を使い過ぎるとロラス自身も危険だ。
光の隙間からは、黒い影がウロウロと辺りを漂っているのが見える。
ソレが何かは分からなかった。前に夜の森に入ったときより数が増えているような気もする。気のせいなら良いけど。
「ロラス、森の中をこれ以上探すのは危ない気がする」
「そうだね...困ったな...森の中にはマスカットがいるかもしれない...これ以上ひとりぼっちで怖い思いはさせたくないな...」
「魔法で一面明るくして探す?でも魔力使い切っちゃうかも...」
「そうだね...うーん困ったな...」
ランセル、見てごらん、ロラスが遠くを指す。指先には、小さな小さな光が見えた。
とってもキリが悪い…!!日々勉強ですね…!
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褒められて伸びるタイプです~!お読みいただきありがとうございます。