第1話「終わり」
23時54分。終電間近。
意味不明なことばを叫びながら、血だらけの拳で机をバンバンと叩いている上司を無視し、床へ投げ捨てられた資料を前に泣いている同僚の肩を優しくたたく。私は一生稟議の通らない仕事をなかったことにして、会社をあとにした。
すれ違う人々が私の顔を見て、目を見開いて小さく悲鳴をあげる。失礼なヤツらだ。
通りすがりのおばさんが「あなた、ほっぺから血が出てるわよ。使って」とハンカチを差し出した。いらない、そう伝えるとせっかくの親切を無下にされた…!と憤るように早足で去っていく。
親切は押しつけるもんじゃないのにね…小さく息を吐きながらつぶやいた声は、雑踏に消えた。
…いや、やめよう。せめてこの浮かれた金曜日の空気のなか、楽しくいこうと思ってたんだ。
電車のホームは酔っ払っいや仕事終わりのサラリーマン、楽しそうな大学生などがごった返し、熱気でムワッとしている。
うん、いい金曜日だな。
ホームドアを乗りこえ、笑顔で、通り過ぎる電車の先頭に飛び込んだ。
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