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亡国のおうじ  作者: 李舜臣
帝都革命編
5/5

帝都からの脱出


……生き残った。


大切なものを奪われ、約束された地位や名誉、誇りを失って唯一残ったのはこの身一つ。

今、この帝都で何が起こり何故引き起こされたのか理解すら出来ぬ間に…部屋で休んでいる間に…自分の半身とも言える存在の犠牲を持って生き残った、生き残ってしまった。皆と共に死ねたらどれだけ楽だったろうか。血を残す決意をすれど、残す意味も今では見出せない、次世代に残してその子らが辛い目に遭うのは想像に難くない。


「怖いんだ……怖くてたまらないんだよ。私、いや俺が俺でなくなるのが……

復讐心に駆られるのも、家族を失った悲しみに包まれるのも。」

今、自分の中で渦巻いている感情が何なのかもわからない。怒り、悲しみ、恐怖はたまたそれ以外の何かなのか、それとも全てなのか。

抑えが効かない感情が自分の中で暴れる。


それでも死ぬのは嫌だ、結局自分本位と言われるかもしれないが自ら命を絶つほどの勇気なんか持ち合わせてはいない。家族に置いていかれても追いかける勇気もないし、延命された、引き伸ばされたこの命を粗末に扱うことはできない。


今日二度目のさっきよりも弱々しく薄い決意をする。()()()()()()()

先程より弱く、薄い決意に過ぎないが先程よりも現実を見てそれでもという決意だ。


自分の中で答えを見つけ、歩き出す。帝都を抜け出すために……


帝都に残るのは危険だ、いつチャートが偽物で俺ではないとバレるかわからない。どこに逃げるのが一番安全だろうか?帝都付近の町や村は探索が簡単に行われるために論外である。他貴族の城下町は、誰が敵か分からない現状危険性は非常に高い。追っ手が想定していないであろう逃げ場が一つある。


イリアス帝国の東、旧ユースビア王国領


――現・魔界

15年前魔物の大量発生によって滅んだ我が帝国の同盟国にして母の出生地

この帝都では珍しい黒髪だが、逃げ延びた亡国の民たちが住み着いた帝国東部ならばありふれたものに過ぎない。


フードを深く被り直し、東門に向けて歩みを進める。


……中央広場に多くの人が集まっていたためか、喧騒に包まれていたさっきまでとは打って変わり静寂が町を支配している。

 


―――東門前

半刻かかってやっと東門に着いた。ここで俺が探さないといけないものは無賃乗車できる馬車、つまり護衛を求めている商会……それも東部最大の街ミル・エンズを目的としている者たちだ。

早速手当たり次第に声をかけていく。



「だめだ、だめだ。冒険者ライセンスも持ってないやつを雇う馬鹿がいるわけないだろ」

――

「冒険者ライセンスを持ってないだと?冷やかしなら他所行け、遊びじゃないんだよ!」強い言葉と共に突き飛ばされる。



―――ある程度予想はしていたが冒険者ライセンスを持っていないことが大きいのかなかなか見つけられない。

冒険者ライセンスとは、冒険者ギルドが発行する身分証のようなものでギルドに所属する冒険者に与えられるものだ。皇子の俺が持っているわけもなく、今からとる余裕もない、困ったな、完全に手詰まりだ。



「や、やめてください」女の子の叫ぶ声が聞こえてきた。

声の聞こえた方へ進んでいくと、目を向けただろうに背を向けて気づいていない、気づかないふりをする人々の中に叫びの主がいた。

「お嬢ちゃん、俺たちと楽しいことしようぜ。なぁいいだろぉー」下卑た笑みを浮かべる三人組が少女の手を掴み、舌なめずりをして顔を近づける。

面倒ごとは起こすべきでないことは分かってはいるが、これを見逃せるほど終わってもいない。


目を背ける人の間を走り抜け、少女の手を掴む男を勢いに任せて殴りつける。男は不意を突かれたために勢いよく倒れ転がる。男たちが茫然としている間に少女と男たちの間に身体を滑り込ませる。

「くそ、いきなり何しやがる。誰だおめぇは」殴られた男が立ち上がって剣を抜き構える。


「いきなり、暴力を振るったのは謝るけど嫌がってる女の子を無理矢理…なんてのは許せないよ」


男は激昂して、上段から叩き込むように剣を振る

太刀筋を読んで女の子を庇いながら左に避ける。


感情的になった男が叫びながら剣を振り回すが、伸びきった腕を蹴り上げる。

男の手から剣がすっぽ抜け後ろの仲間の間の地面に突き刺さる。


「ちっ、覚えてろよ。てめぇ」あまりにもありがちな捨て台詞を吐いてその場をさる三人組。


「大丈夫でしたか?」振り返って少女の安否を確認する。


「助けていただきありがとうございます、連れの者が離れている間に絡まれてしまって……」怯えたためか少し体を震わせこちらに顔を向ける。


この子の容姿はとても整っていて、ホワイトシルバーのロングヘアは光沢を放っており良い家柄を彷彿させ、透き通るような乳白色の肌、綺麗な二重に大きな翡翠色の瞳、しっかりと鼻筋の通った顔立ちをしている。


「……問題ないようですね。」

あまりにも目立ちすぎたため早くこの場から離れたい気持ちが強くそれだけ言って去ろうとしたが、


「あ、あのお礼をさせていただけませんか」俺がすぐに去ろうとしたのが予想外だったのか、慌ててお礼をしたいと告げてくる。


「是非……と言いたいところですが東部にすぐにでも行かなければならず、護衛として乗せてくれる人を探しているので……ごめんなさい」誠意が伝わるようにお断りの言葉を述べる。


「まあ、東部を目指しているのでしたら是非私と一緒に行きませんか?今ちょうど連れの者が馬車を取りに行きましたので」


「それはなんとも、ありがたい話ですが人数とか大丈夫ですか?」


「ええ、もちろんですよ。こちらに来る時は馬車の中で一人っきりで話相手が欲しいと思ったぐらいですから」 


「お言葉に甘えて乗せていただきます、

言い忘れていました私…………」


「どうしたのですか、顔色が悪いですよ」少女が心配そうに顔を覗き込む


「すみません、大丈夫ですよ。私、アドルと言います」

今はもうアドランドの名を名乗ることはできないのかと……生きることに精一杯で頭の端に押し込んだ家族を失った悲しみが押し寄せてきてしまった。


「アドルさん素敵な名前ですね。申し遅れました私、クラリッセと言います。」

アドランドでアドルって偽名じゃなくて愛称じゃねと書きながら一人でノリツッコミをした作者です。それなと思った方高評価、ブックマークお願いします

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