家族との回合
城下はいつもとは違った様態を晒していた。謎の熱狂に包まれており、民衆は荒い吐息を吐き、目には狂気を帯びていた。多くのものがある一箇所に視線を向けている。一体そこに何があるというのだろう
人垣を割っていき熱狂の渦の中心部へと向かう。
「っしょっと」前列まで進み人と人の間から顔を出して、話題の中心へと顔を向ける。
「……えっ、え、エル?」木製の机の上に頭だけになったエルが乗せられていた。
「おいおい、革命軍ってあんな小さな子まで殺すのかい?」隣に立つ男が横の人物に問いかける。
「まぁ、かわいそうだが皇族だからな、どんな火種になるかわからないし、あの歳でもきっと悪魔みたいなやつなんだろ。」あの状態がさも当然であるかのように話す男。理解ができない、エルが死んだ?なぜ、エルが何をしたって言うんだ。思わず男を殴り飛ばす。ふと我にかえって逃げ出す。
「ぐはっ、なんだガキこの野郎。おい待て、おい誰かそいつを捕まえろ。」男は怒り狂い喚き散らしながら追いかけてくる。
……はぁはぁ、男を撒くことはできたようだ。エルが死んだかわいいくて目に入れても痛くないエルが俺の大切な妹が……
現実を受け入れきれない、なんなんだこいつらは革命って誰のために何の権利を持って小さな子を殺せるんだ……
カレンは、母上や父上、他の兄弟は逃げられたのだろうか、宮殿内に戻って探すかそれともこのまま逃げるか。
「…――最悪を想定しろ」在りし日の父の言葉を思い出す。そうだ、最悪を想定するんだ。この場合の最悪は俺以外がすでに死んでいて俺しか生き残っていない時だ。その時はこの血を先祖から受け継がれしこの血脈を次世代につなげるために醜くも生き残るそれこそが俺の果たすべき使命だ。逃げ――「おいおい聞いたか?なんでも皇族の首全部大広場に並べられているらしいぜ。」
「まじか!じゃあ散々俺らを苦しめた奴らのご尊顔拝見しに行こうぜ」下卑た笑みを浮かべた二人組がそのような話をして通り過ぎていく
……危険だ、行ってはいけない。わざわざ集めたのは民衆に見せるためでも、革命がなったことを示すためでもない。ただ未だに捕まえられていない皇族を誘き寄せるための罠だ、わかっている罠なんだ。今生き残ると決めたい以上罠に飛び込むのは愚策だ。分かっているんだ、なのに身体が心が言う事を聞かない……自然と大広場へと向かっていく。
――大広場だ、フードを深く被り周りから顔が見えないように注意する。広間の中心部にはステージがあり、普段はそこで歌や踊りが披露されている
だが今日披露されているのは……
広場の周りは革命軍により、囲われており正体がバレたら最後逃げおおせることは不可能であることが容易に推測される。落ち着けおれ、たとえ誰の身体が首があったとしても安易な真似だけはするな――と自分に忠告をしてステージ上へ顔を向ける……
……初めに視界に入ってきたのは顔を無惨に切り裂かれもはや誰か分からなくなってしまった父上だった。胸元に光る皇帝の証の胸章が街灯の明かりを受けて怪しげに光っている。
私が尊敬し、敬愛している父の無惨な姿に思わず声を上げてしまいそうになったが、さらに視界に入ってきた、それに私の注意は引きつけられた。
「…カレン」エル同様に首だけとなってしまったカレンの姿がそこにあった。
そのあまりの光景に呼吸はあさくなり、息も絶え絶えとなる。喉元から何かが競り上がってくる感覚に見舞われ、我慢出来ずに嘔吐してしまった。
それを遠くから見ていたであろう兵士が一人私のそばに寄ってくる。
「大丈夫かい?こちらに休むスペースがあるからおいで」微笑みを浮かべ、誘導してくる。
どの対応が正解か衝撃と悲しみから帰ってこない思考のせいでわからないが、どうにか言葉を発する。
「すみません、人の死体なんて見るの初めてなものでしかも首だけだったり……」
男は申し訳なさそうな顔をこちらに向けていたが、一瞬探るような視線をこちらに向けた
「はは、心配しないでいい。何も吐いた人は君だけじゃないんだ、勇み足で皇族の顔を見てやるときて入っちゃったりね。君よりだいぶ年上の中年ぐらいの人もはいっちゃっているしね」
顔を上げて兵士の顔をみる、至って普通の顔であり、どこにでもいるような雰囲気を纏っている。
「……それは何というか救いですね。私だけではなかったですか、ところで一眼見て嘔吐してしまったのでわからなかったのですが、どれくらいいるのですか?もう見れそうもないので……」
気弱な男を演じて聞きたい情報を探りつつ、普通の町人であることをアピールする。皇族ならば数だけでなく名を聞くだろう、なんなら吐いたにも関わらず自分の目で確かめようとする。
「そうだね、そう何度も見たいものではないよね。えっとね皇帝とその奥さんが八人全員とその子達が二人を除いて全員かな。」
……二人を除いて全員、俺とあと一人だけしか生き残っていないのか。母上、エル、カレン、父上、どうして私の大切な家族を奪うんだ。
悪政を敷いたのは祖父や曽祖父その周りの貴族どもだろ。まだこの世に生を受けて数年しか経ていない俺の兄弟に何の罪がある、生まれただけで過去の罪すら背負わなければならないと言うのか!
「どうしたの?大丈夫?」平凡な顔の男は言葉を聞いて取り乱している俺を見て勘付いたのだろうか。含んだ笑みを浮かべてこちらに手を伸ばしてくる。
あからさまに逃げ出せば正体を自ら明かすようなもの……逃げられない。どうすれば
その間もゆっくりと男の手が伸び私の手を掴もうかというその時
「おい、残りの皇族二人の首手に入れたぜ。」
大声で叫びながら広間に入ってくる大柄の男、男が抱えている死体は一人は七男のベルフ、もう一人は遠い方の肩に乗せられており、顔がはっきり見えない。そもそも兄弟はあと一人だったはず……
「お前ら!聞いて驚けこいつが皇太子のアドランドだ」大男ははっきりとそう宣言し、死体の後頭部を掴んで顔を見せる
――なっ!その顔は普段から何度も何度も見たことのある顔だった俺の乳兄弟チャートだ。髪は俺と同じ黒髪であるだが、瞳の色は俺と異なり黒だった。
「両眼が潰れている、切ったのか?」横の男が俺の気持ちを代弁する。その死体は左目から右目にかけて横一文字に深く切られている
「切ったのは俺じゃない、こいつ自分で切りやがった。この瞳は先祖代々の誇り、貴様ら如きにはくれてやらんと言ってな。漢だったぜ。」大男は感極まった顔で答える。
「ともかくこれで全部揃ったか……報告にいかねばな。ああ君気をつけて帰りなよ」先程までの表情とは違い俺に対しての興味を失ったように立ち去っていく。
助かったのか、友とも言える1番の家臣の最期の忠義を持った行動によって……
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