宮殿からの脱出
「酷いな……」眼前に広がる死体、逃げようとしたためか背中を切られているもの、立ち向かおうとしたのか胸部を斜めに切られているもの、多種多様な死が蔓延っていた。
死体の他には何もなく、あの男が一人でやったと思われる。
「宮殿にはどれだけ侵入されているんだ、生き残りはいるのか、敵の規模は。」
ぼやいたところで答えてくれる相手もいない。あの男の口ぶりでは単独による侵入とは思えなかった。
おそらくは軍程度の人数を率いて帝都を包囲し、精鋭でもって宮殿を襲撃したと考えるのが妥当か……
タッタッタッタッ
「っ、」階段をかけ登ってくる音が聞こえる。咄嗟に向かいの部屋に入り、息を殺す。
「うわー、ひっどいなぁ。アルマークさーんどこですかー。流石にやりすぎですよ。皇族以外はなるべく手を出すなって言われたじゃないですかー」
廊下を歩きながら誰かを探して声を出している、アルマークというのはさっきの男の名だろうか。この状況は非常にまずいな…アルマークとやらが殺されているのに気づけば人が呼ばれるだろう。
ガチャッ
扉を開く音が部屋中に響く、
「うおっ、たおれてらぁ。アルマークさーん死んだフリいらないっすよ。」
今しか無い。あの軽薄そうな言動をしている男がアルマークの死体に気を取られている間に――
すぐさま扉を開け、飛び出す。しかし、待ち受けていたのは長い廊下ではなく声の主だった。
「なっ!」想定外の出来事に思わず声が漏れる。
「バレバレっすよ、ところであんたがあの人やっちゃったんすか?身なりからして王太子殿下かな。まあ、今誰でもいいんすけどあの人殺したんだ、ぜったいに許さねぇ」
軽薄そうな言動から語尾の強さがまし、高圧的な言葉を発する
「革命なんてどうでもいいけど、あの人をやりやがったことだけは許せない」
男は剣を抜くと同時に剣に火を纏わせる、振りかぶって俺の頭を狙ってくるが、こちらは、剣にに水を纏わせて防ぎ、剣を弾く、相手は飛びのいて下がる。
………………こない、二手目を打ってこようという意思が見られない、ならばこちらから!
水を纏わせ、横凪に振るう。弾かれる、上段から振るう、弾かれる、弾かれるたびに水が飛び散る、何度も何度も繰り返す、一撃も返せずに体力だけが奪われる。
「弱い、弱すぎるよ。あの人を倒すためにどんな卑怯な手を使った、魔法の使い方も剣の熟練度もあまりに稚拙だ。君なんかが本当にアルマークさんをやったの?」
男は興味を失ったかのように目から光が消え、機械的に動き出した。
強い、強すぎる!!帝国最強の近衛騎士よりも遥かに強い、まるで歯が立たない。
魔法の操作と剣の操作を一切のラグなく、スムーズに行う、ここまでの精度をもったやつははじめてだ。
剣速がはやすぎて防ぐこともままならず剣の動きに合わせて放たれる魔法は対処のしようがない、身をよじり、体制を崩しながら、避ける、崩れたところを逃さずに詰めてくる。
避けきれなかった傷が身体中にどんどん刻まれていく。
だめだ、相手にすらならない。それにこれ以上時間をかけたら、敵が集まってしまう……
一瞬でも動きを止めないと。
アイデアを求めて周囲の状況を窺う、
死体の群れと飛び散った水と血に染まった絨毯がある。これしか無いか、策を考え実行する機会を狙う、なかなか隙が生まれない――
一か八か振り下される剣に合わせて、思いっきり振り上げる。相手の体制が崩れる、
「――凍れ!」彼の周りにある血と飛び散った水を凍らせ足を凍らせ、走り出す、おそらくすぐに壊される。
「こんなんで、足止めできると思わないでほしいっす」男は火の魔法を足元に打ち込み氷を溶かし追いかける仕草をみせる。
――パリーン
風魔法の補助で勢いをつけて窓から飛びだす。5階からの決死のジャンプ、着地の瞬間に風を起こして減速するが、背中から落ちる。
「いって、強すぎるだろほんとに」痛みに耐えながら、起き上がって走り出す。
……服をどうにかする必要があるな、今は皇族としてそれなりのものを着ている。故に敵にばれやすい。
すぐに宮殿の庭のある場所に向かって駆け出す。
――すぐにそこについた、そこは小屋のような小さな建物であり、我が家の庭師の住み込み用の家である。家の前に立って、聞き耳を立て中に人がいないか確認する。
…………何も聞こえないな、おそらく中に誰もいないのだろう。
ガチャリ
ドアを開け中に入る、クローゼットからアゼルの服を取り出し、着替える
「同じぐらいの背格好で助かった、この恩はいつかかえそう。」本人はいないがそう誓いを立てる。
ともあれ、革命の規模も家族の安否もわからない今、どう行動を取るのが正解だろうか、あまり手間取っていると先ほどのような手練れが差し向けられないとも言えない。ここは一度ここを出て、帝都に潜るとするか……
問題はどうやって宮殿から逃げるかだが……非常事態のために用意されている通路があるにはある、しかし全て宮殿内で庭には一つもない、今更戻るのは危険すぎる。困ったものだ
……よし!正面から出るか!!
さっきの男も皇族以外には手を出すなと言われているようだったし、ここは一つ芝居でも打ってみようか
――門の前
「おい、貴様止まれ!何者だ!」鎧を纏った男が叫ぶ
「わ、わたしは使用人見習いをしておりましたシェフリアンと言います。あなたがたのお味方と思われる男性から、皇族に暴力を振るわれているタイミングで助けていただいて逃がしていただきました。」
声を震わせ、救いの神を見るかのような眼差しを門の前に立つ男にむける。
「そうか、それは辛かったな……と言いたいがその君を助けてくれた男はどんな男だ?答えて貰おうか」疑い深い視線をむけられる、これは想定の範囲内であるためあらかじめ用意しておいた軽薄男の特徴を告げる、すると相手は頷き、私の頭を撫で辛かったなと微笑みかけ門を通してくれる。
私はありがとうございますと告げ、城下に向けて走り出した。
忘れられてそうなので一応主人公の名前書いときます笑
アドランド・ファン・イリアス・ズールです。
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