祇園精舎の鐘の声-2
「…………である。」
父上の演説が終わり、一時の間の休息に入る。自室に戻るため専属の使用人に声をかける
「チャート戻るぞ」チャートは乳兄弟であり、幼き頃より共にいたため非常に気心の知れた中である
「了解しました、では戻りましょう」チャートは笑顔を浮かべ私の言葉に頷き、私の背後からついてくる。
装飾の伴われた豪奢な赤い絨毯の上を歩んでいると普段宮殿内で見かけることのないものを見つけたため、声をかける
「アゼル、お前が宮殿内にいるのは珍しいな、何か用事があるのか?」
アゼルは庭師の子であり、庭師見習いとして宮殿の庭園を管理してしいるものだ、私と同じ15歳であり、普段は優し気な顔立ちをしているが、庭に植える植物を選んでいる時や手入れをしている時に放つ鋭い眼光はどこか惹きつけるられるものがある、髪は鮮やかな金髪であり、眼の色は鮮やかな紫苑色に染まっているが、普段は土弄りをしているため髪は土をかぶっていて、その輝きはあまりみられない。
「これは殿下、本日もご健勝そうでなりよりです、用事と言いますか、宮殿で働いているものは今日は中に入ってこの後の舞踏会などの準備がありますので今日は使用人の方々の手伝いをしておりました。」
何とも言えぬ気品のようなものを放つアゼルは、とても庭師の息子とは思えないなという感想を持つ。
「そうか、励め。しかし、いつ見てもいい容姿をしているなお前は」
「勿体ないお言葉です。殿下の光沢のある黒髪は他を寄せ付けないほど美しく、言葉では言い尽くせないほどです。個人的な事ですが殿下と同じ色の瞳を持っていることが私の誇りなのです。」
アゼルは頬を赤らめ、目を輝かせながら本心からであろう言葉を私に述べる。本心からの褒め言葉は言われ尽くしていても感じるところは多く嬉しく思う。
「そうか、嬉しいよ、手伝いしっかりと果たしてくれよ、今日はとても大切な日であるからな」
そう言ってその場を私はチャートと共に離れ部屋へともどる。
―――どうやら眠りに落ちていたらしい、まだ終わっていないがとりあえず一つ目が順調に進み、気が抜けてしまったか……
くどい様だが今日はこの国にとって大切な日だ
それは単に新皇帝が誕生するからでも、私が皇太子につくからでもない。
この国が三大大国のひとつとして存続していけるか、つまり国の威厳がかかっている。今日来る二つの大国、リクイ王国とシント連合国の大使にまだ我々は三大大国のひとつであるとわからせなければならない。近年の悪帝の影響で国力は落ち、小競り合いで土地を荒らされ、他国への影響力も下がりつつある今、この時に証明して見せなければならないのだ。その意味では父上の演説は今回の皇帝が愚物ではないと知らしめることができた。
しかし、真に大切なのは私の存在だ、父上が愚物でなくとも私が愚物なら他国からしたら御しやすく、私を狙った策を弄してくるのは自明のことだ。
「……失敗は許されない、私が次期皇帝だ、大丈夫、大丈夫……」声は震える、脈ははやくなる、怖いこんなにも怖いのか国を背負うということは。
焦る気持ちをどうにか鎮めるために部屋に立てかけている剣に手を伸ばし、素振りを始める。
剣を握ると自然と心が落ち着き始める、教養のためにはじめさせられた剣術はいつしか心のよりどころになっていた。
―――
「ふー、あっしまった。汗をかいてしまった。」
心を落ち着けることに無我夢中になって滝のような汗を流してしまった。
「流石に風呂に入らなければならないな、そういえば今、何時であろうか」
寝たり、考えたりして多くの時間を消費してしまっているのはまず間違いない、果たして風呂に入る時間はあるかな?
……ん?気のせいかな?準備を開始しないと間に合わない時間に見える
「……なぜ誰も呼びにこない。」
もしもほんとうにこの時刻ならば従者たちが来て、準備の手伝いに来るはずだ、なのにこない、つまり時計が壊れているということだろう。そういうことにしとこう
いや、本当に誰もこないな。現実逃避を初めても誰も来ない。おかしな話である。
私は扉まで歩いて行き扉に手をかけあげようとする……その時だった扉が向こうから開いた。
「御命頂戴する。」その言葉とともに甲冑をつけた騎士が剣を振りかぶる、私はあまりの衝撃に反応がうまく出来なかった。反応できた部位は咄嗟にさがる。
「っ、」反応しきれずに右肩を切られる
男は息を整え、こちらを睨みつけている。
「何をする!何者だお前は!」声を荒げ、眼前の男に問う。しかし、男はこちらの問いに答えようともせずに再び剣を振り上げてくる。
避ける、さがる、避ける、上手く避けつつ目的のものがあるところまで逃避する。
「誰かは知らんが剣を向けてきた以上殺される覚悟はあるのだろ」拾った片手剣を正眼に構え、敵を見据える。俺をすぐにうてなかったためだろう、その表情には焦りと苛立ちが見える。
互いに構えをとって、見合う。
「クソが、大人しく死んでくれたらこっちだって必要以上に痛めつけなくてすんだのによ!」
その言葉と同時に突っ込んできて、俺の間合いに潜り込んできながら逆袈裟斬りをしかける、咄嗟に剣を縦にして防ぐが……
「ぐっ、重いな」
耐えきれずに飛ばされる。立ちあがろうとするとすでに寄せられ、首元に剣を立てられる。
「何者だ、結局何が目的なんだ!俺の首か?それとも……」
突きつけられた剣を掴み、右手を床に突いて、少し身をあげる
「はっ、冥土の土産に教えてやる。
――国だよ。この国を奪いにきた」男は俺の目をしっかりと見つめながら答える
「く、国だと!一体どこの手のものだ。リクイか、シントかはたまたそれ以外か、」男の言葉は予想を超えていた。個人の暗殺が目標ではなく、この国の乗っ取りが目的であるという。
「ち、父上は!兄弟たちをどうした!」これまでにないほど声を荒げ男を睨みつける。
「死んだよ、ほとんどな。生き残った残りもじきに殺されるさ、すでにこの王都は我々に包囲されている。ネズミ一匹逃しはしないさ。」
男は不敵な笑みを浮かべ、剣を握る手に力を入れ、押し込む
「ぐっ、うっ、あぁああ、だ誰の手によるもだぁぁ」腹部に剣を刺される痛みにこたえながらも問う。
「それを知って何になる。お前はここで死に我らが君が王となる。お前ら皇族は、地方がどれほどの犠牲を出しているのか考えたこともないだろ、見ているのは手元に入ってくる数字だけ、だが、あの方は我々一人一人に寄り添い悪政に苦しむ我らを御救いくださった。お前らは民の怒りをその身に刻んで死ね」
男の剣を握る力がさらに増していく。
「……それだけ分かれば充分かな?」
目の前の男が凍りついていき、僅か一瞬の間で氷が全身を覆った。氷を解かれる前に素早く立ち上がって敵に斬りつける。
簡単なトリックだが、相手に魔法を発動させたことを悟られないように歯向かうために身体を起こしたフリをして床に手をつく、相手の意識を私との会話に集中させて床を通して氷魔法を発動させて、準備を整わせてなるべく相手から情報を引き出して凍らせる。
「はぁはぁ、治癒のポーションどこだ?」
私は立ち上がって刺された箇所を抑えながらポーションを探す。確か、ベット脇の棚に閉まられていたはずだ。
……あった、それを一息に飲むと苦みが口全体に広がる、苦味に耐え腹部を見ると傷が塞がっている。
適当なものを皮袋に詰め、剣を腰に下げるとドアの前に立ち、少し開いて様子をうかがう。目の前には血に染められた床と幾人かの使用人の死体が転がっていた――
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