一話④
「ブリザード! アイスニードル! アイスボール! なんでもいいから出てくださいよ!」
杖をぶんぶん振り回すカシパン。疲労と焦り、そして恐怖。
「あぁああ、もうだめだぁ」
力なく地面に座り込み頭を抱えて震えている。
「諦めてんじゃねー! まるもだ! 反省会は後で一人でやっとけ!」
敵の攻撃を大剣で防ぎながら持ち前の運動神経を活かし、戦うカイト。しかしその体は傷だらけだ。
「治癒を……」
全身が痛い。目眩がする。頭を押さえてなんとか膝を立たせ、そして祈り、鈍器を天に掲げる。
『ヒール』
普段ならこれで緑色の光と共に皆んなの傷が少しずつ癒やされていくが今日はその光が弱い。助けなきゃいけない、自分より味方を、それが聖職者の使命だから。
しかし、もう私には力が残っていないみたいだった。鈍器を地面に落とし、力なく倒れる私にまるが駆け寄ってきた。
「アミ! しっかりしてよ、アミ!」
まる、泣かないで。
途切れていく意識の中今にも泣き出しそうなまるに手を伸ばす。ぎゅっと握られたその手は、あの日、はじめて出会った時を思い出した。
視界が朱く、朱く染まっていく。
奮闘していたカイトとカシパンも、もう力なく地面に膝をついている。
「ウォオオオオ」
敵が一匹、二匹、三匹。まるで勝利を喜んでいるかのように遠吠えを連呼する。途絶えそうな意識の中、ドサっと重たく体重がのし掛かった。まるだ。
「まも、る」
ガツン、ガツン、とした衝撃がまるごしにも伝わってくる。
「まる」
もう声は出なかった。視界が瞼が重たい。周りが騒がしくなってきた。遠くからはガッガッといくつもの足音がする。その音に恐怖するももう体が動かない。
「ウォオオオオオオオオ!」
ドンっと鈍い音と共にまるの体が飛んでいく。次はお前だ、とでも言わんばかりに狼はもう一度大きな遠吠えを上げた。
振り下される棍棒に死を覚悟したその時、目の前に光が落ちた。
雷鳴。地を鳴らすような低い音が鳴り響く。
「生存者、生存者がここにいるぞ!」
「オーケー、今行く」
全身が温かい光に包まれる。
目の前にいた狼たちは先程の一撃でやったのだろうか。その圧倒的な強さに自分の弱さが際立った。
「うっ」
「まだ動かない」
起きあがろうとするもまだ体のあちこちが痛い。しかし私たちは助かったんだ、この人たちが助けに来てくれた。私はほっと胸を撫で下ろし、言われた通り横になる。
白いローブを羽織った二人が懸命に私の治癒に力を注いでいる。他のみんなはどうだろう、首を動かし探してみるが見つけられない。