提案
半年も待たせて申し訳ありませんでした。
第503SS猟兵大隊が、エマの情報を元に、何かしらの行動を起こそうとしていた頃、オスカール自身の兵とフランソワ王子が貸した部隊、そして冒険者ギルドや傭兵などからかき集めた人材で急遽編成された偵察部隊も、謎の盗賊軍団に占領されたエクロット村へと馬を走らせていた。
「感謝するサラザール卿、私の任務に力を貸していただいて」
「なに、殿下のご命令なのだから礼は無用です、オスカール卿」
「それに、オスカール卿は我らと共に皇太子殿下を支える同志の一人、助け合うのは当然の事です」
オスカールと共に、今回の偵察の任務につく事になった、部隊の統率を行う、トゥールズ辺境伯領の南隣に接する地方である、サラザール侯爵領を納める大貴族、サラザール侯爵家の長男、トリスタン・ド・サラザール卿と、その妹であるマリオン・ド・サラザールの二人は、そう言った。
「しかし、大丈夫なのでしょうか…敵には高位の魔法を使う魔法使い以外にも、ドラゴンを操る竜騎士など、賊どもには中々の強者が居ると…そのせいで、我が守備隊は」
すると、共に向かっていた騎士の一人が不安そうに、そうオスカールに聞いた。
「だからこそ、危険を冒しても敵の力を知る必要がある。敵の正確な数、戦力、配置、それを知る事ができれば、必ず付け入り、勝利する方法はある」
「…上手くいくのでしょうか」
「不安と恐怖を感じるのは仕方がない…だが大丈夫だ、我々は必ず勝利する」
その不安と敵に対する恐れを抱いている騎士の質問に、オスカールは自身と闘志が溢れた様子でそう述べた。
「問題は、場所が国境付近と言う事ですな…」
「国境…例の謎の兵士の事ですか?」
「えぇ、見慣れない格好と武器を持つ謎の兵士、彼らが目撃された場所は、エクロット村からそう遠く無い…もし彼らが我々に敵対的ならば、どんな事になるやら…」
だが盗賊団も問題だが、さらに問題であったのはエクロット村と、彼らこの世界の人間が謎の陸地と呼んでいる、ナチスに支配されたヨーロッパのポーランド総督領とほど近いという事である。
その為、彼らからすれば得体の知れない存在である彼らドイツ軍がどう動くか、それが唯一の懸念材料であった。
「それにしても突如現れた大陸…まるで神話に出てくる、伝説の帝国みたいですね、お兄様」
「…言われてみれば確かにそうだな」
マリオンのその言葉を聞いたトリスタンは徐に、この大陸に伝わる伝説、自分達の国や民族の歴史を思い出し、徐にそう述べた。
その頃
「初めまして、私はエクロット村駐屯部隊隊員のエマ・ド・ミューレです」
「オットー・スコルツェニー、第503武装SS猟兵大隊の隊長を努めている、階級は少佐だ」
胸に拳を当てる敬礼をして来たエマに、スコルツェニー少佐は軍人らしく、姿勢を正しく敬礼をしながらそう挨拶をした。
「まずは私を保護していただいただけでなく、話を聞いていただきありがとうございますスコルツェニー少佐殿」
「何、構わんさFräulein。それにキミを助けたのは私では無く、その子のアドラーSS大尉に言ってもらいたい」
そしてエマは、そうスコルツェニーSS少佐に礼を言うと、スコルツェニーSS少佐は少し笑いながら、エマのそばに立っているアドラーSS大尉の方を向きそう言った。
「さて、挨拶はその辺にして、そろそろ本題に入ろう。Fräulein、アドラーSS大尉からは、ある程度の事は聞いたが。何やら襲われていた様だが、その理由を教えてくれないか?」
そしてスコルツェニーSS少佐が本題と称してそうエマに聞いた。
すると
「…その前に一つ、お聞かせてしていただけないでしょうか?」
「…なんだ?」
「少佐殿は一体何者なのですか?配下の者たちの格好から、盗賊ではなく、どこかの兵隊である事は分かりますが、私は少佐殿の軍衣は今まで、どの国の軍隊でも見た事ありません。一体、少佐殿は何処の軍隊なのですか?」
エマは、先ほどから気になっていた、スコルツェニーSS少佐を含めた、彼ら武装親衛隊が一体どこのから来て、どこの軍隊であるか、その事を質問した。
すると
「我々は、ドイツと言う国から来た」
スコルツェニーSS少佐は、そう答えた。
「ド、ドイツ…?少佐殿、ドイツは一体?」
スコルツェニーSS少佐は、そうエマにそう答えたが、当の本人であるエマは、聞き慣れない国の名前に、困惑した様子で頭を傾げてそう言った。
「…やはり知らないのか」
そして、前の世界では長い地球の歴史の中で良くも悪くもなを残し、そしてナチス時代は悪名を轟かせた自分の祖国の名前を知らない、彼女の様子から、スコルツェニーSS少佐は改めて、この世界が今まで自分達が生きてきた世界とは違う、異世界である事を痛感した。
「失礼ながら少佐、そのドイツと言うのは何処に…出来れば、方角で何処にあるのかを、教えていただけませんか?」
するとエマは、何かを思い出し、そして察した様な様子になると、そうスコルツェニーSS少佐に聞いた。
「…ここから西の、恐らく、この国の国境を超えた場所に存在している」
スコルツェニーSS少佐は、西の方角を指差そう言った。
「西の方向!?でもこの先には切り立った崖と海があるだけで、国家や大陸など…」
そこまで言った時、エマの脳裏にある事が横切った。
「…もしや少佐殿がおっしゃるドイツとは、15日前に報告が入った、突如として現れた謎の大陸にあるのではないですか!?」
そのある事とは、15日前に報告があった、謎の光とその後に発生した謎の大陸の事であった。
無論、エマは辺境警備隊所属の騎士、その為王国で現在噂になっている突如として現れた謎の大陸である、ヨーロッパの事についても、詳細は知らずとも、その事自体には情報を得ていた。
「…そうだな、そう言う事になるかもしれないな」
すると、そこ質問にスカルツェニーSS少佐は、改めて徐に自分達の祖国であるドイツやヨーロッパの地が、別の世界に来てしまった事を実感したのか、なんとも言えない黄昏た様子で、ヨーロッパの大地がある西の方を向きそう言った。
「おっと、感情に浸るのはこのくらいにしよう…それよりも、まぁ、君には色々聞きたいことがあるが…まずは君自身の…報告によると謎の武装集団匂われていたらしいが、その理由を聞かせてくれないか?」
だがスコルツェニーSS少佐は、気持ちを入れ替えると、そうエマに聞いた。
「…実は」
数分後
「なるほど、盗賊に村をか…それは災難だったな」
「はい…」
エマは自分が駐屯する村である、エクロット村が族に占拠された事
そしてその族に占拠された場所から抜け出し、途中彼女に気づいた族の偵察隊に殺されそうになった所を、アドラーSS大尉に救われた事などを、スコルツェニーSS少佐に話した。
それを聞いたスコルツェニーSS少佐は、状況を整理する為か、少し考え込む様子でそう呟いた。
「少佐殿あの…」
(どうか私の村を、助けてください)
するとそんなスコルツェニーSS少佐に、エマは救援を頼もうと、そう言いそうになった。
だが
(いや、助けてくれる保証なんてない…)
今日あったばかり、しかも何の繋がりもなく、同盟国でもない軍隊にこんな事を頼んでも引き受けてくれるとはエマは終えず、そう心の中で呟くと口を紡いだ。
「…どうかしたのかね?」
だが、考え事をしていたとは言え、エマの発した言葉をスコルツェニーSS少佐は聞き漏らさず、すかさずそう聞いた。
「あっいえ、改めて助けていただいた事には感謝いたします。それでは、私はそろそろ行かなくてはなりませんので…」
「…行く、一体何処に?」
「ここから一番近い村に行きます…そこで助けを…」
するとエマは、スコルツェニーSS少佐に礼を言うと、そう言い立ち去ろうとした。
「おい待て、この怪我ではまだ無理だ」
「いいえ!なんとしても行かないと…」
応急処置が施されているとは言え、全身数カ所に生々しい傷を負ってもなお、そう言い立ち去ろうとするエマを、アドラーSS大尉は、怪我を理由に止めようとしたが、エマはその静止を振りはらいそう言った。
すると、そんなエマの姿を見て
(…これはチャンスかもしれないな)
スコルツェニーSS少佐は、彼女のかすかな振る舞い、そして何より彼女の名前の構成から、彼女か彼女の家族が、貴族では無いかと洞察し、もしここで彼女に恩を売れたら、自分達がこの地に派遣された目的である、この世界の情報を容易に手に入れられるのでは、そうスコルツェニーSS少佐は判断した。
それゆえにスコルツェニーSS少佐は、とある決断をした。
「Fräuleinエマ!」
「は、はい…」
「君に提案がある」
「てっ、提案…?」
「君の村を、私達が救おう」
するとスコルツェニーSS少佐は、真剣な様子で、自分達が盗賊に占拠されたら彼女の村を取り返すと、そうエマに伝えた。