第八話 勇者候補生たち(追放者サイド)
勇者候補生たちが、宮廷に舞い戻ってきた。ここは、宿じゃない。だが、こいつらは、うっとうしいことに出ていかない。
「パエラ様。私はわけもわからず、日本から、つれてこられたんです。召喚されて嬉しかったけど。私には無理です。せっかくもらった武器も壊してしまって、宿代も稼げなかったんです」
「俺からもお願いします。パエラ様。日本に帰らせて下さい。召喚士師範なんでしょ?」
「ええい、黙れ。確かに我ら召喚士が諸君らを召喚した。だが、ここからは己の身は己でなんとかしなさい。私には関係ないこと」
「そんなぁ。俺たち、剣の使い方も分からないのに」
「ギルドマスターに頼んだのか? それで断られたのなら、お前たちの頼み方が悪い」
「それが、パエラ様。ギルドマスターのレアさんは不在でした。代理のランドルフさんが、武器の選び方を教わらなかったのか? って。俺たちは怒鳴られて追い返されたんですよ」
「パエラ様! 宿だけでもお願いします!」
「お願いします」
「お願いします」
「頼みます!」
だめだ、らちが明かない。このままでは二十九名の少年少女を王宮に寝泊まりさせることになってしまう。今日だけならできないことはないが。
「こ、今夜だけは、泊めてやろう」
「やった! 合宿みたい」
「修学旅行だ!」
なんだこいつらは!
私の理解できぬやりとりで盛り上がっている。
早急に手を打たなければ。
明日以降も泊めてやるわけにはいかないわ!
「一同、静まりにしなさい! いい? 今すぐ職を手にしてくるのよ。ギルドにもう一度頼み込むこと。白竜神ギルドだけでなく、毒槍ギルド、魔幻ギルド、鳥蛇ギルド全てに土下座してでも加入してきなさい!」
「うわ、職業訓練までやってくれるんだ! やった!」
しょ、職業訓練……。いや、そんなつもりで行かせるつもりは。
あなたたちはコマなの。
召喚して魔王討伐クエストに行ってもらう使い捨てのコマよ!
喜ばれたらたまらない。
「だから、さっきからなにを、そんなにはしゃいでいるのだ! 私にはさっぱり分からないわ」
そばでやりとりを見ている召喚士ドリアンが、心配そうにつぶやく。やだ、私のことを心配してくれているのかしら。
「鳥蛇ギルドにも、訪問させてしまうようだが。いいのか」
「異世界人が差別されようと、私の知ったことじゃないわ」
「大変です」
召喚士の下っぱがまた、召喚の間に飛び込んできた。ここは、合宿場所でも会合場所でもない!
「あまたのクエストが放置されております。特に白竜神ギルドです。近郊に現れたモンスターの討伐依頼が主ですが。対応できる冒険者が不足しております。今回の召喚で勇者候補たちを誰も送り込めていないことが原因と思われます」
「……そうでしょう。ま、あっちのギルドも自業自得よ」
ざまぁないわね、ランドルフ。
「勇者候補たちは今どこに?」
「あの愚かな少年、少女たちは今から職業を探しに行く」
「パ、パエラ様それでは。彼らの中には一人も勇者になれる者はいないと?」
「ええ、今回の召喚は失敗ね。召喚士を招集せよ。今からもう一度、新しい三十名を召喚する」
「そ、それはさすがに人件費が」
「私の失態だ。私が召喚する」
「では、召喚に必要な開門魔道具、聖なる水と、たき火用の薪五十本、カエルの目玉。生贄用のブタとヤギ。大蛇の血と、サメの牙などの雑費はいかがいたしましょう?」
「そんなもの、安いものでしょう! 来月の召喚費予算で申請すればいいわ」
「次に大きな経費は、召喚の日取りを決める、天文学師の天体観測費が大きいですね」
「もう、そういうのも来月の経費に回せばいいでしょう?」
「召喚の間を清める祈祷師五十名は?」
「お清めのためにダンスを踊る連中なんか一人で十分よ」
「そうは、いきませんよ。パエラ様は、一人で何人も召喚できるのかもしれませんが、召喚はあくまで儀式。美しく形式にそって行わないと!」
私一人でできることって分かってるじゃない。
生贄なんかなくても、祈祷師ダンサーがいなくても私一人でできるっつーの!
「で、ではパエラ様のお給料から、これらの召喚費を天引きしときますね」
っう……。どうしてそうなるの……。
で、でも次で決めれば問題ない。三十人もいて、勇者になれる人間が一人もいない? そんなバカなことがあっていいはずがない。
この三年間、最下層獄炎ダンジョンに向けて、毎月一回の召喚を繰り返している。何人でも送り込めばいい。一人が魔王にたどりつき、倒せればそれでいいだけのこと。
ただ――給料から天引きか……。
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