第六十二話 とっておきの名前
最下層獄炎ダンジョンのオアシス的存在の、中洲。その川でドリアンがパンツ洗ってごめんな。俺は、間に合ったぞ。だけど、トイレしてごめんな。
『クソちびるわ』の効果は、俺もドリアンも地獄のような苦しみだったわ。ドリアンは、もらしたしな。おまけにドリアンの【弱 点】は、プライドを傷つけられること。だもんな。かわいそうに。ドリアン戦闘不能になったな。
川に入ったまま意気消沈して、上がってこない。ドラゴンたちも、鼻をふさいだり、目をおおって見てはいけないものを見たというように、うなっている。
「ステフー。俺もトイレ終わったから」
手で目元を隠しちゃって。照れ屋だな。あ、でも、獣人だから、鼻が良すぎて、ドリアンが臭いわけね。俺はセーフだよな?
「怖かったよ。クランがお腹壊して、戦闘不能になっちゃうのかと思って」
「マジか! 心配してくれてありがとな」
問題は、マオマオ魔王ちゃんだよな。向こうからは攻撃して来ないけど。
「いたわねクラン!」
「今度は誰!」
げっ。
パエラ様。それに、勇者候補生。コウタ以外の勇者候補生、二十九人だったはずだけど、また三十人増えてる? 五十九人つれてきたの?
もうパーティーとかじゃないじゃん。そんな大勢でダンジョンに入ってくるな! 規約違反もいいところだ。大勢で入ったらいけないのは、魔法の暴発や、互いを誤って攻撃しないようにするためだぞ! なんで、そんな基本中の基本も守らないんだよ。こんなにぞろぞろとー。
「え、私のドリアンに何をしたの?」
あ、そういえば、パエラ様の片思いの相手って、ドリアンだったな。
かけ寄るパエラ。そして、洗い流したとはいえ、まだ臭いドリアンの臭いに、顔をしかめる。
「ま、魔物のよだれとか、汚い攻撃でやられたのね?」
「そいつ、もらしたー」
俺の答えに納得がいかないのか、パエラが顔をしかめる。
「クラン! ふざけるのはやめなさい」
「そうだよなー、パエラ。理想の相手の無様な姿は、できれば見たくないもんだよな? でもほんとのことだぞ。そいつはさっき、クソちびった」
「な、なんてこと。どうしてそんなことに。うそよ」
パエラ様、ドリアンに幻滅した? その引きつった顔。最高―!
「あなたね? やったのは?」
「俺じゃないよ。やったのは――」
俺は口をつぐむ。危なかった。マオマオ魔王ちゃんの名前は呼んではいけない。マオマオ魔王ちゃん。さっきからことのなりゆきに、にんまりほほえんでいるけど。
「あの裸の少女は。冒険者でもない。そして、この空気の重さ――」
空気の重さとか、感じるのか。パエラ様ってけっこう、戦闘経験豊富そうだし、魔王って分かるんだろうな。さぁ、早く名前を呼んで自滅しろ。
あれ? もしかして、魔王とか、お前とかって呼んだらアウトなのってさ、思うんだけど。攻撃しようとするからじゃ? 確か、ステータス画面には。
『意思切断』攻撃の意思のある者の攻撃を防ぐ。
やっぱりそうだ。
「なあ、マオマオー」
「アメルメ君、呼んだ?」
俺は胸をなで下した。魔王の名前を呼ぶときに敵意ではなく、親しみを込めて呼べば『でもまあいっかぁめんどくさい』にも『クソちびるわ』にもならない!
「『名義変更』とっておきの名前ある?」
「『クソちびるわ』より面白いのあるの? だったら言ってみなさいよ」
お? 俺に提案する権利くれんの? 案外、気が合う奴かもしれないな。
「『でもおっぱいもんでキスして』」
「私、それは考えたことなかった……アメルメ君、気が合うわね」
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